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人は減っていないのに、IDだけ増え続ける現象


──「ヘッドカウントは横ばい」なのに、ディレクトリは膨張し続ける“ID増殖”の正体

Entra ID(Microsoft Entra ID)やIdaaSを入れてしばらくすると、現場でよく起きる違和感があります。

  • 正社員数も、業務委託や派遣の人数も、体感ではそんなに増えていない

  • なのに、ディレクトリ上のID(アカウントやオブジェクト)だけが毎月増えていく

  • 「誰のID?」「何のためのID?」がすぐ答えられない

  • いつの間にか例外(除外)が増え、運用が重くなる

  • 監査・棚卸しのたびに“怪しいID”が大量に出てくる

この現象は、単なる「削除漏れ」だけでは説明がつきません。ID基盤の世界では、人数が横ばいでもIDが増え続ける“構造”がいくつもあります。

この記事では、

  1. 「IDだけ増える」原因のパターン

  2. 増え方のどこが危険か(増えて良いID/増えてはいけないID)

  3. どう見える化し、どう止めるか(運用が軽くなる順番)

を、設計フェーズの違和感として整理します。(文中にリンクは置きません)

1. まず前提:「IDが増える」の“ID”は1種類ではない

「IDが増えている」と言っても、Entra IDの中では増える対象が複数あります。

人のID(Human)

  • Member:社内のユーザー(正社員、契約社員、派遣などを“社内扱い”で入れている場合)

  • Guest:外部ユーザー(B2B招待など)

人ではないID(Workload / Non-human)

  • アプリケーション(アプリ登録)

  • サービス プリンシパル(アプリをテナントに導入した結果できる実体)

  • マネージドID(Azureリソースに紐づくID)

  • (組織によっては)古い“サービスアカウント”や共有アカウント

この違いを分けずに「IDが増えた」と騒ぐと、対策がズレます。逆に言えば、どの種類が増えているかを分けた瞬間に、原因の当たりがつきます。

2. 人数が横ばいでも、IDが増える“典型原因”9パターン

「削除漏れ」だけでなく、実務では複数要因が重なって増えます。

パターン1:退職・契約終了の“出口”が弱い(止めても消えない)

  • 退職者は無効化されるが、削除されず残り続ける

  • 委託先は契約終了のトリガーが弱く、放置されやすい

  • 「停止はしたはず」でも、実態はアカウントが残っている

ポイント:入口(作成)は整っても、出口(無効化→削除→棚卸し)が整っていないとIDは増え続けます。

パターン2:「再雇用」「出戻り」「部署横断」で“新規作成”が起きる

人は同じでも、アカウントを作り直してしまうケースです。

  • 退職→再雇用で新ID

  • 出向→復職で新ID

  • 子会社転籍で新ID

  • 学籍・研修アカウント→本番アカウントで新ID

このとき、本人は増えていないのにIDは増えます。

パターン3:UPN/メール/ドメイン変更を“作り直し”で処理してしまう

  • 会社ドメインが変わった

  • メールアドレス体系が変わった

  • UPNを揃えたい…という局面で、正しくは「変更」で済むのに、現場では“作り直し”が起きます。

すると、旧IDが残り、新IDが増え、合計が膨らみます。

パターン4:正社員1人に複数ID(一般+管理者+緊急)が増えていく

セキュリティ上は「管理者用アカウントを分ける」ことは合理的です。しかし、運用が未整備だと “良い増え方” が “悪い増え方” に変わります。

  • 管理者アカウントが増える

  • どれが誰の管理者か追えない

  • 使われない管理者IDが残る

  • いつの間にか例外(MFA除外など)も付く

増えて良いが、台帳と棚卸しが無いと危険化する代表例です。

パターン5:外部(Guest)が“人の数以上”に増える

外部ユーザーは「人数の感覚」と「IDの増え方」がズレやすいです。

  • 外部ベンダが増える

  • 同じ人が複数案件で招待される

  • 取引先の組織変更で同一人物が別メールで再招待される

  • 期限運用がないので、契約終了しても残る

結果、外部の実人数は増えていないのに、Guestは積み上がる

パターン6:検証・PoC・一時対応の“仮ID”が恒久化する

  • 「検証だから」

  • 「研修だから」

  • 「今日だけ」

  • 「いったん」この“いったん”に期限が付いていないと、仮IDは資産化して残ります。

パターン7:アプリ側の“ローカルアカウント”が生きている

IdaaSやSSOを導入しても、アプリ側にローカルIDが残るケースは多いです。

  • SSOは入口だけ

  • 権限や利用者登録はアプリ側に残っている

  • 退職時の削除がアプリごとで漏れる

  • 結果、アプリのIDだけ増える

この場合、「ID基盤を入れたのにIDが増える」という違和感になります。

パターン8:Workload ID(サービスプリンシパル等)が自然増する

SaaSを連携するたび、Azureリソースを増やすたび、Workload IDは増えます。

  • 監視・自動化

  • CI/CD

  • コネクタ

  • API連携

  • マネージドID

これは“正常な増え方”でもあります。ただし、オーナー不明・用途不明・期限不明になると運用負債になります。

パターン9:発行ルートが複数あり、重複が止まらない

  • 人事→AD→Entra ID

  • 現場依頼→情シス手作業

  • SaaS側で招待→ゲスト作成

  • アプリ担当が勝手にテストID作成…など、入口が複数あると、同じ人・同じ目的のIDが平気で増えます。

3. “増えること”が問題ではない。問題は「増え方の品質」

ここが一番大事です。

IDが増えること自体は、必ずしも悪ではありません。増えるべきものもあります(管理者分離、Workload IDなど)。

ただし、増え方の品質が悪いと、ID基盤は確実に重くなります。

危険な増え方(赤信号チェック)

次のどれかに当てはまるIDが増えているなら、運用は必ず苦しくなります。

  • オーナー(責任者)が不明

  • 作成理由が不明

  • 期限がない(仮なのに恒久)

  • “正社員/委託/外部”の区別が属性で追えない

  • 無効化されていないのに、長期間サインインが無い

  • 特権(管理ロール)が付いているのに棚卸しされていない

  • 条件付きアクセスの評価エンジンから除外されている

  • どのアプリに割り当てられているか追えない

増えている数より、まずこの品質を見た方が早く解決します。

4. IDが増え続けると、何が重くなるか

「IDが多い」だけなら、まだ困りません。困るのは、増殖が次の運用に直撃するからです。

4-1. 条件付きアクセスが“読めなくなる”

条件付きアクセスは、単なる“ルール集”ではなく評価エンジンです。評価エンジンは、対象(ユーザー/アプリ/デバイス/場所)が揃って初めて意図通りに評価できます。

IDが増え続ける環境では、だいたいこうなります。

  • 想定外のIDが引っかかる

  • その場しのぎで「ユーザー除外・アプリ除外」が増える

  • 除外が増えるほど評価結果の再現性が落ちる

  • 「なぜ通った/通らない」が説明できない

結果、運用が重くなり、監査も弱くなります。

4-2. 棚卸し(アクセスレビュー)が“終わらない”

IDが多いと、棚卸しの対象も増えます。

  • 使われていないID

  • 期限切れの外部

  • 使われていない管理者ID

  • どのアプリにも入っていないIDこれらが溜まり続けると、棚卸しは“毎回地獄”になります。

4-3. 「入れない」問い合わせが増える(そして再現しない)

“誰のIDか分からない”“どの分類か分からない”IDが増えると、切り分けが遅くなります。結果、同じ事象でも毎回調査がやり直しになりがちです。

4-4. コストがジワる(ライセンス、運用工数、更新作業)

  • 使っていないIDにライセンスが付く

  • グループや割り当てが増え続ける

  • 設定変更が怖くなり、改善が止まるこの「ジワジワ」が最後に効きます。

5. まずやるべきは“削除”ではなく「分類と見える化」

「IDが増えた=削除しよう」は、危険なショートカットです。IDは、消すと業務影響が出ることがあるからです。

最初にやるべきは、分類して見える化です。

5-1. 見える化の基本は「人のID」と「人ではないID」を分ける

最低限、次の4枠に分けると状況が一気に整理されます。

  1. 社内(Member)

  2. 外部(Guest)

  3. 特権(管理者用・緊急用)

  4. Workload(サービスプリンシパル/マネージドID等)

この4枠のどれが増えているかで、打つ手が変わります。

5-2. さらに“出口の弱さ”を炙り出す:アクティブ/休眠/無効化

次に見るべきは「生きているか」です。

  • 直近にサインインがある(アクティブ)

  • サインインが長期間ない(休眠)

  • 無効化されている(停止済み)

  • 期限が切れている(設計上の失敗)

ログをLog Analyticsに出している組織なら、例えば以下のような“入口クエリの型”で傾向が掴めます(環境により列名は多少異なります)。

// 直近90日でサインインがあるユーザー(概念例)
SigninLogs
| where TimeGenerated > ago(90d)
| summarize Signins=count() by UserPrincipalName, UserType
| order by Signins desc
// 外部ゲストのサインイン状況(概念例)
SigninLogs
| where TimeGenerated > ago(180d)
| summarize Signins=count() by UserPrincipalName, UserType
| where UserType == "Guest"
| order by Signins asc

KQLが書けなくても大丈夫ですが、「見る切り口」を固定することが重要です。“何を見たいか(分類と出口)”が先で、ツールは後です。

6. “IDだけ増える”を止める設計は、結局「入口と出口」の設計

増殖を止める鍵は、派手な機能よりも地味な2つです。

  • 入口:誰が、どのルートで、どんな条件で作るか

  • 出口:いつ、何を根拠に、どう止め、どう消すか

6-1. 入口を1本化する(増殖の最大要因を潰す)

入口が複数あると、重複と例外が増えます。理想はこのどれかに寄せることです。

  • 人のID:人事イベント(Joiner/Mover/Leaver)を起点に自動化

  • 外部ID:招待の権限と手順を絞り、期限・棚卸しを必須にする

  • 管理者ID:発行・管理・棚卸しを標準化する

  • Workload ID:作成時にオーナーと用途を必須にする

入口を絞るだけで、増殖のスピードは落ちます。

6-2. 出口に“期限”を入れる(仮IDが資産化しない)

増殖の多くは「期限がない一旦」から生まれます。

  • 委託:契約終了日=期限

  • ゲスト:プロジェクト終了日=期限

  • 検証:検証終了日=期限

  • 緊急:用途終了=期限(もしくは使用実績の棚卸し)

期限は“削除日”と同義でなくて構いません。まずは「期限が来たら棚卸し必須」にするだけでも、増殖が止まります。

6-3. “増えて良いID”も台帳化する(管理者とWorkloadが燃えないために)

管理者IDやWorkload IDは増えることがあります。問題は、増えた結果「誰のものか分からない」になることです。

最低限、台帳にはこれだけ入れると運用が変わります。

  • IDの種類(Member/Guest/Admin/Workload)

  • オーナー(責任者)

  • 用途(何のために存在するか)

  • 対象システム(どこに使うか)

  • 期限/見直し日

  • 例外(評価エンジンから除外しているか等)

「増えて良いIDを、増えても困らない形にする」ことが、運用を軽くします。

6-4. 条件付きアクセスは“評価エンジン”として、分類を入力にする

IDが増える環境で条件付きアクセスが破綻する理由は単純です。

  • 対象が分類されていない

  • だから例外で回す

  • 例外が増えるほど評価が読めない

解決策は、正社員/委託/外部/特権などの分類が、設定上の入力(グループ・属性)として揃っていることです。分類が揃えば、評価エンジンは再現性を取り戻します。

7. 立て直しの順番(現場で一番効果が出る順)

「いま増殖している」状況でも、全部やり直す必要はありません。効果が出やすい順番があります。

  1. ゲスト(外部)に期限と棚卸しを入れる(増殖が止まりやすい)

  2. 休眠IDの洗い出しと“無効化→削除”の方針を決める

  3. 管理者IDを台帳化し、棚卸しの対象にする

  4. Workload IDにオーナーと用途を必須化する

  5. 条件付きアクセスの除外を棚卸しし、例外を期限付きにする

この順番は、「事故の元になりやすい増殖」から潰す流れです。結果として、運用が軽くなりやすい。

8. まとめ:IDが増えるのは自然。問題は「出口の無さ」と「分類の無さ」

人数が横ばいなのにIDだけ増えるのは、珍しい現象ではありません。よくある原因は次の通りです。

  • 出口(停止・削除・棚卸し)が弱い

  • 再雇用・組織変更・UPN変更が“作り直し”を生む

  • 管理者分離や外部招待が台帳なしで増える

  • Workload IDが自然増し、オーナー不明で残る

  • 入口(発行ルート)が複数で重複が止まらない

そして、これが放置されると、

  • 条件付きアクセス(評価エンジン)が例外だらけになる

  • 棚卸しが終わらない

  • 「入れない」が増える

  • 監査で説明できない

  • 運用が重くなる

という形で、必ず跳ね返ってきます。

だから最初にやるべきは「削除」ではなく、分類と入口・出口の整備です。

山崎行政書士事務所の技術支援(広告)

「人は増えていないのにIDだけ増える」状態は、ID基盤の運用が重くなる典型的な入口です。特に、外部ゲストの増殖、管理者IDの属人化、Workload IDのオーナー不明化、そして条件付きアクセス(評価エンジン)の例外増殖が重なると、設計者でも“なぜ通る/通らない”を説明できない構成に寄っていきます。

山崎行政書士事務所では、IdaaS × Azure(Microsoft Entra ID)領域で、ID増殖の「原因の切り分け」から「増えても回る運用」への立て直しまで、技術支援が可能です。例えば、

  • IDの分類(Member/Guest/特権/Workload)と、運用で維持できる属性・命名・台帳の整備

  • 外部ゲストの期限・棚卸し(出口設計)を先に作り、増殖を止める

  • 管理者ID/緊急IDを“増えて良い形”にする(責任境界、棚卸し、例外の期限化)

  • Workload ID(サービスプリンシパル/マネージドID)のオーナー・用途・権限を棚卸し可能な形へ

  • 条件付きアクセスを“評価エンジン”として再現性のある設計に戻す(除外依存を減らし、例外は期限・台帳化)

IDが増えること自体を止めるのではなく、増えても判断できる・棚卸しできる・止められる形に整えることで、運用は確実に軽くなります。今の違和感は、設計の立て直しに入る合図です。

 
 
 

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