揺れる地平、広がる視界
- 山崎行政書士事務所
- 2025年2月1日
- 読了時間: 6分

第一章:台湾へのウインドウ
冬の風が冷たさを増す東京。仁科エリカは、香港とマレーシアでの騒動が落ち着き始めた頃、デスクに山積みの書類を整理していた。海外拡張に伴い、フランス本社とのやり取りも膨大になりつつある。そこへ上司の水島がやってくる。「エリカ、急ぎで相談だ。台湾の大手デパート“プラウド・フォルモサ”から、“Micheline Y.”を期間限定で誘致したいって連絡が来たんだ。来月にも先行販売イベントをやりたいらしい」エリカの目が輝く。「台湾か……。最近は文化的に洗練されたファッション市場として注目されてますし、ぜひ乗りたい話ですね」しかし水島は眉を寄せて言う。「ただ、**法務部(長門)**からは、また商標・通関手続き・契約面をちゃんと見ろと指示が来てる。香港のケースもあったから慎重にならないと」
第二章:パリ本社とのすれ違い
数日後、オンライン会議でフランス本社のディレクタールカ・シャルリエが笑顔で言う。「台湾は“Micheline Y.”にとって絶好のチャンスだ。早くショーを打ち上げ、メディアを巻き込みたい。」「現地の代理店契約は済んでいるだろう?」エリカは控えめに答える。「台湾の代理店候補はまだ見つかっていません。デパート側は期間限定の直接取引を希望していて、そこが法務の確認が必要かと……」するとルカはむっとした表情を浮かべる。「また法務か……。新しい“ライセンス管理システム”を導入したんだから、そこに全部まとめて契約を登録すればいいのでは?」長門法子がカメラ越しに静かに口を挟む。「システム化は進んでいますが、国ごとに法令やラベル表示の違いがあります。たとえば台湾では輸入ラベルの中文表記や洗濯表示が必要になるでしょうし、万一トラブルが起きれば……」ルカはため息をつく。「わかった。だが、スピード感は忘れないでくれ。ファッションは“時間”が命なんだから」
第三章:台湾の予兆――強烈なローカルブランド対抗
台湾への出張が決まり、エリカは現地とのオンライン打ち合わせを重ねる。そこで「葉 翠玲(イエ・ツイリン)」という人気ローカルデザイナーの存在が浮上する。「プラウド・フォルモサ」の目玉として、彼女が同時期に新作を出すというのだ。「葉翠玲さんは台湾の若い女性から圧倒的な支持を得ているそうです。“Micheline Y.”と真っ向勝負という形になりそうだ……」水島は眉をひそめる。「競合デザイナーがいるのは良いことだが、彼女がうちをどう見ているかわからない。もしかすると“外資のフランスブランドが台湾を侵食する”みたいな抵抗が出るかもしれないな」
そして法務部の長門は、葉翠玲のブランドが「Y. シグネチャ」というシリーズをすでに台湾で商標登録しているという事実を見つける。「“Micheline Y.”の“Y.”と被る恐れがあり、出店時に混同を指摘されるかもしれませんね……」またしてもロゴ・商標問題か――エリカは溜め息が出る。「そもそも“Y.”なんて共通してるだけで問題になるのかしら?」
第四章:デパート契約の難航
エリカは台湾・台北に飛び、デパート「プラウド・フォルモサ」のバイヤー陣と面談する。バイヤーたちは「葉翠玲と“Micheline Y.”を同じフロアで扱って話題性を高めたい」という。一方、商標衝突のリスクを暗に感じているのか、「両ブランドのロゴや宣伝素材をあまり似せないでほしい」と注文を付けてきた。「大丈夫だと思うんだけど……。ウチの“Y.”は人名の一部で、向こうは“Y.”をシグネチャとしているだけだし……」エリカは困惑するが、デパート側も「法律上、面倒に巻き込まれたくないから事前にきちんとクリアにしてほしい」と言う。それを聞いたエリカは法務部へ緊急連絡。「葉翠玲さん側が商標侵害を主張してくる可能性があるかもしれません。どう対応すればいいでしょう?」電話口の長門はため息混じりに答える。「これまでの国々と同様、同一・類似商標の登録状況と、実際に消費者混同が起こるかどうかのリスク分析が必要ね。もし衝突が起きるなら、デパートに対し“両ブランドの表示を区別する”ルールを明確にしないと」
第五章:葉翠玲との邂逅
数日後、デパートでの開店準備が最終段階を迎える中、エリカはついに台湾の人気デザイナー葉翠玲本人と顔を合わせる機会を得る。「はじめまして、“Micheline Y.”の仁科エリカと申します」葉は落ち着いた笑みを浮かべ、さわやかに挨拶を返す。「私が“Y. シグネチャ”でデビューした時に、『フランスのY.ブランドがある』という噂は聞いていたわ。でも、お互いに立ち位置は違うと思っていた」エリカは警戒半分で言葉を選ぶ。「ロゴやネーミングに似通いがあることで、デパートやお客様が混乱するかもしれないという指摘があるんです。葉さんとしてはどう受け止めていらっしゃいますか?」葉は微笑む。「私は争うつもりはないわ。ただ、私のファンやスポンサーが“海外ブランドにシグネチャを奪われた”と騒ぐ可能性はある。でも私は、コラボをすることも面白いかもしれないと思ってる」コラボ?予想外の展開にエリカは驚く。もしコラボが成功すれば、新しいデザインの融合が誕生する――しかし、法務的にさらに複雑になるリスクもある。
第六章:コラボの代償と法務が描く線引き
葉翠玲の提案は「“Y.”同士で共同ショーを行い、互いのブランドが補完し合う」という刺激的なもの。しかし、それを実現するには複雑なライセンス契約を結ぶ必要が出てくる。ロゴの併記、収益の配分、責任範囲、トラブル時の対処……。長門はタブレット画面を見つめつつ、困惑顔で言う。「コラボは魅力的だけど、法律的な線引きを細かくしないと“Y.”同士が混ざり合い、どちらのブランド資産かわからなくなりかねない。商標権の共同利用や意匠コラボ作品の著作権帰属……膨大な条項を用意しなきゃ」エリカはため息しながらも微かな興奮を覚える。これこそファッションの醍醐味――国境を超え、アイデアが融合する。しかし、その裏で法務は限りなく細分化した契約を形にしなくてはならない。「でも、クリエイションのチャンスも大きいよね。どうしましょう、水島さん」水島は逡巡の色を見せながら言う。「決断はフランス本社も絡めてしっかり議論しよう。葉さんが本気でコラボしたいなら、法務と協力して“境界線”をきちんと定義する必要がある」
最終章:交わりし彩――未来の一歩
デパートのオープン当日。華やかな開幕式が行われ、台湾のメディアが“パリコレブランド「Micheline Y.」ついに上陸!”と報じる。葉翠玲の「Y. シグネチャ」も同フロアに並び、消費者たちは“ダブルY.”対決に興味津々だ。エリカは開店を見守りながら、葉とわずかに言葉を交わす。「もし本当にコラボするなら、法務のやることは膨大です。でも、私はあなたのデザインセンスがすごく好きで……一緒にやったら面白そう」葉は軽く笑う。「嬉しいわ。私も海外での活動をもっと広げたい。衝突でなく、共有を選ぶ道があるのならね」
その日の夜、エリカは東京に戻る飛行機の中で、スマホに届いたフランス本社からのメッセージを眺める。「シンガポール投資家からのさらなる増資提案。アジアに合同コラボショーを打ち上げる案が具体化」――動きは止まらない。“これ以上、複雑になるなんて……でも、それが世界のファッションビジネスだ”そう思いながら、エリカは微笑みを浮かべる。戦いと創造のランウェイは果てしなく続くが、その道の先には、もっと鮮やかなビジョンが待っているに違いない。
(続く……)




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