昭和9年・10年
- 山崎行政書士事務所
- 2025年5月6日
- 読了時間: 7分
昭和九年(1934年)
1月
東京では正月から軍部の影響力拡大が噂され、印刷所の社長・戸田・幹夫・堀内らは新年の抱負を語り合う。
幹夫は年始の挨拶がてら数日だけ静岡へ戻り、父(明義)と茶畑の状況を確認。飛行場拡張は一時凍結だが不穏な空気は消えていないと感じる。
2月
印刷所で「民間仕事を拡張する」ため、戸田が近隣の学校や町内会に声をかけ始める。小さいチラシの依頼が舞い込み、職人たちも意欲を見せる。
静岡では父が町役場の有志と会合を重ね、「陳情」をさらに強化する準備を進めている。幹夫に相談の手紙を出すが、対応に苦慮。
3月
幹夫は印刷所で、軍からの依頼に少しずつ押されながらも、民間向け仕事を同時進行。職人たちが慣れない複数案件に忙殺され、疲労の色を見せる。
静岡では、春先に向けて茶畑の手入れが始まるが、農民に「拡張再開」の不安がよぎる。父はそれを宥めるべく奔走。
4月
東京の印刷所では、軍関係のポスターやパンフレットの刷りが増えはじめ、社長が苦悩。戸田は「適度に納期を調整し、民間依存を少しでも育てたい」と策を練る。
幹夫は再度、父から「陳情が具体化してきた」との手紙を受け取るが、頻繁な帰省はできず、意見のみ書簡でやり取り。
5月
軍の圧力を感じながらも、職人たちは「民間仕事はやりがいがある」と話し合い、小冊子や地域史を少部数で作っている。幹夫も編集を手伝い、静岡の歴史要素を少し盛り込む。
静岡では父が「飛行場反対の声をまとめる会」へ出席し、陳情書の文案をさらに充実させようとしている。
6月
東京では初夏の空気が流れ、印刷所に少しずつ新規の民間注文が来る。幹夫たちは「このまま軍と民間の仕事をバランスして乗り切ろう」と期待を抱く。
静岡の父は農繁期を迎えつつも役場と連携し、さらなる協力者を募る。飛行場拡張凍結はまだ続いているが、正式な廃止ではないため緊張は抜けない。
7月
軍の内情が新聞で報じられ、幹夫たちは「さらに権限が強まりそう」と噂する。戸田が「警察も動くかもしれないから注意しろ」と警鐘を鳴らす。
静岡から届いた父の手紙には「茶畑は順調だが、軍の視察がいつ来るか分からない」と記されており、不安を隠しきれない。
8月
幹夫は印刷所で仲間と雑談しながら風鈴の話をする。「静岡と東京、二つの音が同時に鳴るように頑張ろう」と意気込むが、堀内は「そんな綺麗ごと、いつまで通用するか…」とため息。
父からの報せによれば、町の農民が「小冊子」を読み、陳情への理解が深まっているらしいが、軍への圧力を恐れる声も絶えない。
9月
軍が小規模な検閲を強化し、印刷所の在庫状況などを調べに来る。戸田が巧みに説明して難を逃れるが、職人たちは胃が痛む思いを抱える。
静岡の夏が終わり、茶畑の手入れが落ち着くなか、父が本格的に県への陳情書を提出。「拡張再開は町民の合意なくしてあり得ない」と訴える。
10月
東京では幹夫の知り合いが「反戦ビラを撒く若者がまだいる」と耳打ちしてくるが、印刷所での紙の流出はリスクが高く一切動けない。幹夫は葛藤を覚える。
静岡で父が「一時的な勝利」を収めたと報道される。軍が別の候補地を優先しそうだという噂が広がり、住民が安堵するが、完全に消えたわけではないとも聞く。
11月
軍の命令で印刷所が大量の国策ポスターを刷る羽目になり、職人が徹夜作業。堀内が「このままじゃ民間向けに手を回せない」と悲鳴を上げる。戸田が後処理に奔走。
父は町役場の会合で古文書を活用し、さらに農民の生活が脅かされないよう説得を続けるが、体調面でやや無理をしているらしく、幹夫の胸に心配がよぎる。
12月
年の瀬が近づき、東京はさらに軍国調の空気が強まる。新聞が「さらなる国際緊張」の見出しを連日報じ、街の人々は不安げに過ごす。
幹夫は下宿で二つの風鈴を見ながら、静岡の父との連携を振り返る。年の初めには拡張の噂があったが、今は凍結のまま乗り切った――「来年こそ二つの土地をもっと繋ぎたい」と祈り、昭和九年を締めくくる。
昭和十年(1935年)
1月
正月早々、幹夫は印刷所の「民間拡張計画」について職人たちと再びミーティング。戸田が「もう少し営業を強化しよう」と意欲を燃やす。
静岡の父からは「軍がまだ動かないからと言って、油断できん」との一筆が届き、幹夫は正月気分を吹き飛ばされる思い。
2月
東京の下町では、警察が“ビラ弾圧”のため巡回を強化。幹夫は焦りながらも「いまは紙を渡せない」と決断し、ビラ勢力と距離を取る方針を固める。
静岡では父が町民向けに農業指導を始め、「茶畑を守るには経済を安定させるのが大事」と説く。少しずつ住民の意欲が上がりはじめる。
3月
印刷所で社長が「最近、学校や自治会からの小冊子依頼が増えた」と報告。戸田が「軍の仕事をこなしながら、そっちも伸ばそう」と後押しし、職人のモチベーションが上がる。
静岡では春の兆しに合わせて父が“茶畑観光”のアイデアを町役場に提案。軍の拡張以前に、地域を盛り上げようという動きが芽吹く。
4月
東京印刷所が「地域史の小冊子」数部を試作し、近隣で販売開始。地元の人々からは好意的に受け止められ、少しずつ評判が広まる。
静岡で父は古文書を整理し直し、さらなる陳情資料を準備。軍への牽制のため「地元の力を侮れない」というメッセージを県に示そうとする。
5月
軍の圧力がじわりと強まるなか、幹夫が下宿で“風鈴”を見つめては静岡の父を想う。ビラ勢力は地下深くに潜りほとんど痕跡がないが、警察はまだ余裕がなく周辺を警戒中。
静岡の春が過ぎ、茶の収穫時期を迎え、父は忙しく畑を駆け回る。「拡張が一瞬でも止まっているうちに、茶畑の生産を復活させねば」と熱を入れる。
6月
東京印刷所で民間案件が少し増え、職人たちが「軍の仕事ばかりじゃないなら、やる意欲が湧く」と嬉しそうに語る。堀内も「このまま軍とバランスを取れれば……」と淡い期待。
父からの手紙には「田畑が潤い、人々が少し元気になった」という近況が書かれており、幹夫は「いずれ二つの町をもっと繋ぎたい」と夢見る。
7月
夏の暑さが厳しくなるころ、軍が「新たな宣伝ポスター」を依頼してくる。戸田が用紙の在庫を調整し、納期を遅らせる策を展開。職人たちは戸惑いながら徹夜作業。
静岡は梅雨が明け、茶畑の管理に追われる父。「いまだに飛行場拡張の話は消えていないが、当面は優先度が低いようだ」と幹夫に伝える。
8月
印刷所で幹夫は久しぶりに反戦ビラの噂を耳にし、戸田と堀内に相談。「紙の流出は今は無理」と結論を出すが、胸の奥で罪悪感が疼く。
静岡の父は町役場の支援で「茶畑復興イベント」を打ち出そうと奔走。軍が動かない今こそ地元を盛り上げるチャンスだと語り、幹夫も書簡で応援メッセージを送る。
9月
東京下町に、また警察の巡回が強化される報せが広がる。印刷所は戸田の采配でギリギリ“怪しまれない”運営を続ける。社長は表向き軍に協力しつつ内心は冷や汗。
静岡で秋の気配が濃くなるなか、父は古文書を元にさらに詳しい茶畑史の資料を作り、町で配布を始めている。幹夫が刷った冊子も併用され、評判を呼ぶ。
10月
軍が突如「新たな大規模宣伝のために印刷量を増やせ」と指示してくるが、戸田が数量を交渉し、職人への過度な負担を抑える。堀内は「助かった……」と安堵。
静岡で父が発案した茶畑復興イベントがそこそこ成功し、陳情に対する地域の支持が強まる。「このまま軍が来なければいいが……」と父は複雑な表情。
11月
秋が深まる東京。幹夫は雑誌社から小冊子の依頼を受け、戸田と一緒に内容を検討する。しかし軍の検閲が厳しく、結局無難な“郷土史紹介”にとどまる。
静岡の父は収穫も終わり、町民との集まりで「来年に備えよう。軍に再度狙われる可能性は消えていない」と語る。だが、農民の士気は高まっており、僅かな楽観もある。
12月
年の瀬、東京印刷所では「なんとか今年も乗り越えた」という安堵感が広がるが、軍の影は相変わらず大きい。職人たちが「昭和十一年はどうなるか……」と漏らす。
幹夫は下宿で風鈴を見つめ、「父さんも茶畑を再生しつつある。印刷所も戸田さんのおかげで民間仕事が増えた。来年も二つの道を繋げるだろうか」と一抹の不安を抱え、昭和十年を終える。





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