苺パフェ・パニック！ ときめきレッドアラーム

登場人物

• 佐伯（さえき）真由子（まゆこ）：

  
  

  30代OL。無類のスイーツ好きで、特にイチゴには目がない。

• 池内（いけうち）結花（ゆか）：

  
  

  真由子の同僚。クールで合理主義だが、密かに甘党。

• パフェ専門店「Berry Berry Heaven」店長・赤峰（あかみね）：

  
  

  苺への愛が止まらない情熱系店長。基本的に声がデカい。

• 謎の覆面イチゴマニア「ストロベリーマスター」：

  サングラスにイチゴのイラスト入りキャップを被り、苺パフェを求めて出没する男。

第1幕：甘い誘惑のはじまり

「聞いて、結花。あの『Berry Berry Heaven』が期間限定で“苺パフェフェア”を始めるって！」昼休み、社内の休憩スペースで、佐伯真由子は興奮を隠せない様子だ。手には鮮やかなチラシが握られている。

「イチゴパフェフェア？　ネーミングがまたすごいわね」池内結花は書類を整理しながら、あまり興味なさげに答える。

「でもね、ここのパフェ専門店、いろんな種類のベリーを使うのが得意なんだって！　中でも今度の目玉は“苺ぷりんせすパフェ”らしいの。ほら、この写真見て！　きらきら苺が山盛りで、てっぺんに金粉までかかってるのよ！」「へえ……確かに映えそうね。ま、私はパフェよりショートケーキ派なんだけど」結花はスマホを見ながらつぶやくが、真由子のテンションは下がらない。

「そんなこと言わずに、一緒に行こうよ。限定何食だと思う？ 一日10食限定よ！ これは朝イチで並ばないとゲットできないって！」「はあ……仕方ないわね。つきあってあげるわよ。どうせ他に予定ないし」

こうして二人は、次の休日に“Berry Berry Heaven”へ突撃することになった。

第2幕：開店前の赤い行列

日曜の朝、店の前にはすでに長い列ができている。しかも、見渡すと赤い服や赤い小物を身につけた人が多い。「あれ？　なんかコーディネートが赤だらけ……」真由子が目を丸くすると、隣の結花は冷静に観察する。「どうやら“苺好きアピール”をしてるようね。この店、常連はみんな赤いアイテムを持ってくるらしいわ」

列の先頭付近では、派手な赤ジャケットを羽織った男性がマイクを持ってテンション高く叫んでいる。「あれ、店長の赤峰さんかも。SNSで見たことある。自称“苺王子”らしいけど……あれは王子っていうより“熱血指導者”って感じ」真由子がつぶやくと、ちょうど店長の赤峰がこちらを見た。「おはようございまーす！ 今日も苺パフェ、張り切って作りますよーーー！！ みなさん、食べる準備はいいかーー！？ うぉぉぉー！！」その声量たるや、隣のカフェのガラスを震わすレベル。周囲の客も「イエーイ！」と盛り上がっている。

「なにこの一体感……。パフェの行列というよりスポーツイベントみたいなんだけど」結花が呆れ顔だが、真由子は逆にワクワクが止まらない。「こういうの、嫌いじゃないかも……！」

第3幕：最大のライバル登場

開店し、先頭グループが店内に入る。真由子たちも入店する頃には、残る“苺ぷりんせすパフェ”はあと数食とのこと。

「ギリギリだったね。間に合って良かった！」真由子が胸をなでおろした矢先――。

「ちょっと待てい！」店の奥から、怪しい男がゆらりと現れた。派手なイチゴ柄の帽子、そして目を隠す黒いサングラス。おまけに赤いリュックを背負っている。

「だ、誰……？」「なんか怪しい……SNSで見た“ストロベリーマスター”ってやつかも」結花がスマホ検索をしつつつぶやく。どうやら“各地のイチゴスイーツを食べ尽くす謎の男”として有名らしい。

「ストロベリーマスター、参上！ 今日は苺パフェフェア。もちろん狙うは“苺ぷりんせすパフェ”！ しかし数が少ないとはな……ふっ、競争率が高いほど燃えるぜ！」男はサングラスをクイッと上げる。その瞬間、周りのお客さんがザワめいた。

「ちょっと、ストロベリーマスターが出陣するってことは…あの禁断の“苺バトル”が始まるのか？」「まじか、あのパフェをめぐって何度も伝説的な争奪戦を起こしてる人だよね…」周囲には嫌な汗が流れる。店長の赤峰も、険しい表情で「ご来店ありがとうございます…」とぎこちなく対応する。

第4幕：パフェは誰のもの？

ショーケースを覗くと、確かに苺ぷりんせすパフェは残り3つ。「あの……私たち2つください」真由子がそう店員さんにオーダーすると、すかさずストロベリーマスターが割り込んだ。「お嬢さん、あと1つ、私に譲っていただけないかな……」「えっ!?」

店内は一気に緊迫する。男は続ける。「いや、僕はね、苺スイーツを極めし者。毎週全国の苺スイーツを巡ってるんだ。ここのパフェはまだ食べてないから、どうしても今日中に手に入れなきゃならないのさ……！」どこか悲壮感すら漂う言い分。周囲のお客も「一度は味合わせてあげたいね」なんて囁く者もいる。

が、真由子は揺るがない。「ごめんなさい。でも、私もこれをすごく楽しみにしてたんです！　絶対に譲れない！」隣の結花も、「そうよ。早くから並んでようやく手に入るんだから。そんなに食べたいなら、もっと早く来ればいいでしょ」とズバッと言う。

男はギクリとしながらも、なお食い下がる。「むむ……そう言わずに。もう一品だけ、僕の命に代えてもいいので……！」「命とパフェを一緒にしないでください！」

第5幕：真打ち・店長のパッション炸裂

その時、店長の赤峰がステージさながらカウンターに乗り上げて声を張り上げた。「みなさーーーん！　落ち着いて！　苺スイーツは平和と愛の象徴です！　争いなんてナンセンス！」

目が点になる店内。赤峰店長は続ける。「ここは私の秘策をお見せしましょう！ 本日特別に“苺ぷりんせすパフェ・スペシャルVer.”を１個だけ用意できます！　通常バージョンの倍量の苺をのせた、超限定パフェだ！！！」「へぇぇぇぇ！」客席はどよめく。まさかの店長のウルトラCだ。

「というわけで、“ストロベリーマスター”さんにはそのスペシャルVer.を提供しましょう！　ただし！」店長は指をビシッと突きつける。「値段も倍です！」「ええっ!?」男は驚きの声をあげるが、同時に周囲からは「そりゃそうだ」「それぐらい出してもらわないとね」という声が上がる。

男はサングラスを外し、決意に燃えた目で叫ぶ。「……わかりました！ 買いますとも、倍額であろうと！ ここで逃すわけにはいかないんだ！」まるで大河ドラマのような熱さ。店長の赤峰は満面の笑みで手を叩く。「さすが、“ストロベリーマスター”！ 熱いハートには最高の苺パフェをお出ししましょう！」

第6幕：至福の苺ワンダーランド

こうして真由子と結花は念願の「苺ぷりんせすパフェ」を２つ、ストロベリーマスターは「苺ぷりんせすパフェ・スペシャルVer.」を１つ注文することになった。店内の空気は一変、和気あいあいモードに。

やがて運ばれてきたパフェは、想像以上にゴージャス。生クリームに苺のシャーベット、バニラアイス、そしてたっぷりの苺が何層にも重なっている。てっぺんには金粉がまばらに舞い散り、その姿はまさに“お姫様”級の華やかさだ。

「わあ……すっごく可愛い！ しかも甘酸っぱい香りが……」真由子はうっとりと見惚れ、結花も「嫌いじゃないわ、この絵面」とつぶやいている。

そして“スペシャルVer.”はさらに上をいくボリューム。苺が滝のようにあふれ出し、まるで赤い富士山。その姿に店内の視線が集中する。「うおおお、なんて素晴らしい……これが苺の理想郷……！」ストロベリーマスターは感激で涙目だ。

第7幕：爆笑スイーツ・フィナーレ

さっそく一口食べると、ふわっと広がる苺の甘酸っぱさ、クリームのまろやかさ、アイスの冷たさが絶妙に絡み合う。「なにこれ、やば……！ おいしすぎる……！」真由子は目を閉じて至福の表情。結花も無言でスプーンを動かす手が止まらない。

一方、ストロベリーマスターは超特大パフェを前に格闘中。「おぉぉおお……美味い、しかし量が……」最初の勢いはすごかったが、さすがの倍量。中盤を過ぎると怪しい顔色になり始める。「ぐっ……甘酸っぱさが心に染みる……。しかしもはや胃は悲鳴を……でもここでギブアップなんて…！」

その様子を見た真由子は苦笑しながら、「無理しない方が……」と声をかける。が、男は意地でも完食するつもりのようだ。

「男には譲れない時があるのだ。これを食べきらずして、ストロベリーマスターを名乗れん……！」そこから10分ほどの苦闘の末、ついに――「た……食べきった……！」店内は拍手喝采。男はどこか悟りを開いたように微笑んだ。

エピローグ：苺がつなぐ友情（？）

大満足のまま店を出ようとする真由子と結花のもとへ、ストロベリーマスターがフラフラと近寄ってきた。「あなた方のおかげで、最高の苺パフェ体験ができました……。一生忘れません。よければ今度、苺狩りツアーに一緒に行きませんか？」「う、うーん…まあ……機会があれば……」「うちはちょっと遠慮させていただきます……」二人は苦笑いしながら店を後にする。 すると店長の赤峰が入口で見送ってくれた。

「本日はありがとうございましたーー！　また苺パフェが食べたくなったら、いつでも来てくださーーい！」大声に呼応して、「はーい！」と笑顔の真由子。結花も「ごちそうさまでした」とぺこりと頭を下げる。

店の外は青空が広がり、苺の甘い余韻に包まれた二人の顔も晴れやか。「やっぱ苺って最高ね。甘酸っぱさが幸せホルモンを刺激するっていうかさ」真由子は夢見心地でつぶやく。結花はやれやれとしつつも、「うん、あの店長は暑苦しかったけど、パフェはほんとにおいしかったわね。ストロベリーマスターには驚いたけど」「フフッ、人生いろいろね。苺好きが集まると、あんなにも盛り上がるもんなんだ……」

明日からの仕事がどうなるかはわからないが、とりあえず今日は苺パワーで乗り切れそう。そんなふうに思いながら、二人は笑い合う。いちごパフェ――それは甘くて、ほんの少し酸っぱい奇跡の味。そして、ときどき妙なドラマまで引き寄せる、魔性のスイーツなのかもしれない。

（終）