top of page

山崎行政書士事務所物語(コメディ小説)第1話「開幕、紙詰まり。相談は来る。」

※本作はフィクションです。登場人物・出来事は創作であり、手続や書類に関する描写は一般的な範囲の表現です。個別の案件は事情により必要書類・手順が変わります。

朝の静岡って、空気がちょっとだけ“真面目”だ。風が冷たい日は特に、街全体が「今日もコツコツやりましょうね」と言ってくる。

山崎行政書士事務所のドアを開けると、いつもの匂いがした。紙と、インクと、微かにコーヒー。そして――説明できない何か。たぶん、プリンターの機嫌。

「よし。今日からブログ連載、いきますか」

山崎先生は独り言のつもりで言ったが、背後から返事が飛んできた。

「いきますか、じゃないんですよ先生。いくんです」

振り向くと、さくらが、いつもの顔で立っている。怒っていない。笑ってもいない。ただ、“押印のズレ”を見抜く目でこちらを見ている。

「朝イチの“ご挨拶文”、印刷しました?」

「……今から」

「今から、じゃないんですよ先生。既になんです。時間は」

その横で、みおが付箋を三枚、机の端に揃えた。揃え方が、やけに儀式っぽい。

「はい、今日のタスク。①連載開始の挨拶文印刷②来客対応(10:00、11:00)③郵便局(内容証明の下見)④駅サイネージの写真チェック(ゆいさん案件)以上です」

「……朝から密度が濃い」

「密度は濃い方が“漏れ”が減ります」

言い切るみおの背後で、りながスキャナーの電源を入れた。ピッ、という音が、やけに頼もしい。

「先生、PDFのテンプレ、作っておきました。“挨拶文_最終_最終_改”ってファイル名でいいですか?」

「やめよう、その命名は未来で事故る」

「あ、じゃあ“挨拶文_v1”にします!」

「それも地獄の入口だよ」

事務所の空気が軽く揺れたところで、ゆいが入ってきた。片手に、ポスターのロール紙。もう片手に、強めのキャッチコピー案。

「先生!今日から連載ですよね?タイトルはこれでいきましょう。『あなたの書類、今日で勝ち確。』

「煽りが強い。強すぎる」

「じゃあ…『紙の迷宮を攻略せよ!』

「ゲーム実況じゃないんだよ」

「あ、じゃあ“静鉄沿線で書類に勝つ”は?」

「沿線はいい。沿線は」

ゆいがにっこりする。その瞬間、さくらが静かに言った。

「先生。印刷、まだですよね」

「はい、今からです……」

山崎先生はプリンターに向かった。そして、USBを挿し、挨拶文のデータを選び、印刷ボタンを押した。

ウィーン、ガガッ――

「……来たね」

さくらが、息をするように言った。プリンターが、反抗期の中学生みたいに沈黙し、次の瞬間、警告音を鳴らした。

紙詰まり。

山崎先生は、深く、深く頷いた。

「なるほど。現象は再現した」

「SEみたいな言い方やめてください」

みおが付箋を一枚、追加する。(⑤プリンター)

りながプリンターの前にしゃがみ込み、扉を開けた。

「紙、ちぎれてますね。…しかも微妙に奥で」

「ちぎれるの、いちばん厄介だね」

山崎先生は、冷静に言いながら手を伸ばす。紙片を引き出そうとして、指先が空振りした。

そこへ、あやのが来客用のスリッパを並べながら、さらっと言った。

「先生、こういう時って、無理に引っ張らない方がいいですよ」

「そのアドバイス、人生にも刺さるね」

「書類にも刺さります」

プリンターの中で、紙は“ちぎれた過去”になっていた。そして現実の相談は、待ってくれない。

ピンポーン。

インターホンが鳴った。

「10時の方です!」

あやのが、声の温度を一段上げる。みおが秒で受付に向かい、ゆいがポスターを抱えて壁に避難し、りながスキャナーを抱きしめた。

さくらだけが、プリンターを見ていた。彼女は、プリンターの“顔”を読むように言う。

「先生。今、引っ張ると、裏でさらに裂けます」

「……了解。切り分けしよう」

「だからSE口調やめてください」

山崎先生は、プリンターの電源を切った。コンセントも抜いた。

「物理層から落とす。基本」

「だから」

「はいはい」

その瞬間、玄関が開いて、相談者が入ってきた。スーツの男性。年齢は30代後半くらい。手には、分厚い封筒。

「あの…山崎先生、ですか?予約した者です」

「はい、山崎です。お越しいただきありがとうございます」

山崎先生は、笑顔を作った。内心では、プリンターのログが頭を流れていたが、顔には出さない。

相談者は封筒を机に置いた。

「実は…書類のことで。“これが揃ってるか”自信なくて」

さくらが封筒に視線を落とす。そして、まるで天気予報みたいに言った。

「足りないです」

「早い!」

相談者が驚く。山崎先生も驚く。りなは感動している。

「え、どれが…?」

相談者の声が震えた瞬間、あやのが柔らかく割って入る。

「大丈夫です。足りない=終わり、じゃないです。“何が足りないか”が分かれば、前に進めますから」

山崎先生は頷いた。

「結論は急がないで、まず事実を揃えましょう。封筒の中、順番に見せてください」

相談者が封筒を開ける。書類が出てくる。コピー、メモ、身分証の写し、そして謎の付箋。

付箋には、こう書かれていた。

「証跡、ありますか?」

山崎先生は、その文字を見て一瞬だけ眉を上げた。すぐに戻したが、さくらは見逃さない。

「先生、今、顔が動きました」

「動いてない」

「動きました。0.3ミリ」

「それはもう測定器だよ」

わちゃわちゃしていると、インターホンがまた鳴った。

ピンポーン。

「あ、11時の方、早いですね」

あやのが立ち上がる。みおが付箋を見て、カレンダーを見て、そして現実を見て言った。

「先生、回転率、上げましょう」

「寿司屋みたいに言うなぁ」

玄関が開く。入ってきたのは、キャップを深く被った人物だった。手には、小さな紙袋。

「……予約、してないんですけど」

声は低い。そして、妙に丁寧。

「ちょっとだけ、聞きたいことがあって」

あやのが一瞬、“感情の交通整理モード”に入る。だがその人物は、落ち着き払って続けた。

「それ…台帳には残る?」

「台帳?」

りなが、なぜか目を輝かせる。さくらは無言で、相手の手元を見る。

人物は紙袋から、小さなものを取り出して机に置いた。それは――駅名のステッカーだった。

「新静岡」

「……えっと」

山崎先生が言葉を探すより先に、人物は軽く会釈した。

「じゃ。失礼します。証跡、大事なんで」

そして、そのまま出ていった。

静寂。

みおが付箋に、何かを書き足す。(⑥ 謎の来客)

ゆいが小声で言った。

「……先生、連載、初回から事件性強くないですか?」

「強いね」

山崎先生は、机の上の「新静岡」ステッカーを見つめた。それから、相談者の封筒に視線を戻す。

現実の相談が、先だ。

「まずは、こちらの書類の確認から進めましょう。“揃っていない”ことが分かった時点で、もう半分前進です」

相談者は少しだけ肩の力を抜いた。

その時、プリンターが、沈黙を破って鳴いた。

ピピッ。

「……電源抜いてるのに?」

りなが振り向く。さくらが言う。

「先生。プリンター、今、笑いました」

「機械に感情はないよ」

「じゃあ、なんで“勝った顔”してるんですか」

山崎先生は、プリンターの前に立った。そして、言った。

「……まず再起動だ」

今週のチェックリスト(一般論)

  • 書類は「結論」より先に「事実」と「前提」を揃える

  • 日付・署名・押印・表記ゆれは“最後に一括チェック”しない(早めに潰す)

  • 相談内容はメモと証跡が命(口頭だけで走らない)

駅名ステッカー

  • 1枚目:新静岡

プリンター被害状況

  • 紙詰まり(ちぎれた過去が奥で抵抗中)

次回予告

窓口の守護者、現る。番号札は、人生を試してくる。

コメント


Instagram​​

Microsoft、Azure、Microsoft 365、Entra は米国 Microsoft Corporation の商標または登録商標です。
本ページは一般的な情報提供を目的とし、個別案件は状況に応じて整理手順が異なります。

※本ページに登場するイラストはイメージです。
Microsoft および Azure 公式キャラクターではありません。

Microsoft, Azure, and Microsoft 365 are trademarks of Microsoft Corporation.
We are an independent service provider.

​所在地:静岡市

©2024 山崎行政書士事務所。Wix.com で作成されました。

bottom of page