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「クラウドに詳しい行政書士? はい、うちです」

  • 山崎行政書士事務所
  • 9月19日
  • 読了時間: 9分
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——山崎行政書士事務所・全員キャラ篇

プロローグ ポスターの夜

新静岡駅の最後の電車が出て、構内に人の声が消える。薄い紫で塗られた壁に、大判のポスターが一枚だけ残光を抱いて立っている。「クラウドに詳しい行政書士? はい、うちです」太い活字は笑っていないが、見上げるたびにどこか楽しそうで、あちこちの色で切り取られた九つの顔が、こちらへ肩を寄せてくる。

白猫が一匹、ポスターの前で背伸びをした。しっぽの先はUSB Type-C。やまにゃんは首をかしげ、ポスターの笑顔を指先で数えてから、しっぽで床をとんと叩く。約束の合図。——明日も、お客さまが来る。

やまにゃんはガラスの外の夜を振り返り、事務所の方向へ小走りに消えていった。

第一章 依頼の見出しは「Bicep × DPA 読み合わせ」

朝。山崎行政書士事務所の会議室。窓の向こうでは静鉄が行き来し、カップに注がれた緑茶の湯気がまだ細い。受付で手を振ったのは広報のふみか。胸に手を当てる見慣れた仕草で、今日のアジェンダを短く唱える。

「星織ロボティクス社。欧州販売代理店とのDPA(データ処理契約)の最終読み合わせ。同時に、Azure に展開済みのBicep設計図の解釈を条文へ写す。期限は三日。監査も同伴。〆切の色は“赤”です」

「赤、か」——そう言って腰を上げたのは、リーダーの律斗。パーカーにヘッドホン、けれど目は驚くほど静かだ。「設計の凡例を先に作る。図面は人を優しくするための固有名詞がいる」

りなが頷き、ホワイトボードに細い線を引く。線の左に事実、右に解釈。これがりなの儀式だ。「右へ行き過ぎたら一呼吸。左で言い直す」。法務担当のあやのはボタンを一つ留め直し、「shall と will の境界も凡例に載せておくわ」とペン先を整える。

「僕はSCOREを確認します」と奏多。SCORE——Signal / Cost / Ownership / Runbook / Evidence。彼の黒いヘッドホンは飾りじゃない。テンポを決めるのが奏多の仕事だ。コストの譜面を持つ陽翔は笑って片手を上げ、モニタを指した。「Savings Plan は来月。今日は**“眠れる曲線”を守るね」検知の線を引く蓮斗は、KQL の“味見”を走らせる準備を黙って始め、悠真はRetention**の温度を測るためのメタ監視を追加した。

叶多は手帳を開く。「承認とやめ方を図に入れます。PIM のテンプレ権限と Access Reviews を“期限付きの橋”に」みおは口笛を小さく鳴らした。「じゃ、私はいたずらの責任者。合法で可愛げのやつ。サプライチェーンの演習、夜に一回だけ」さくらは手を叩いた。「私、全部の速度を笑顔の速さに合わせます!」

「にゃじゅ〜る!」やまにゃんがテーブルを駆け抜け、USBのしっぽでポンと卓上の資料を叩く。——準備完了。

第二章 星織ロボティクス、三色の会議室

星織ロボティクスの会議室には、三色のホワイトボードがあった。青(技術)・紫(法務)・緑(運用)。社内法務の橘、情報システムの岸、営業の山村、そして欧州販売代理店の担当者マリーがビデオで入る。監査会社からも二名。

ふみかが挨拶を置き、断言より連絡先の紙をテーブルの端にそっと差し込む。心拍が上がったときに目が行く場所を決めておくのが、彼女の流儀だ。

最初の議題は DPA の条文 28/32/33/34。りなが紫のボードに短い句を並べ、あやのが日本語の主語を太字で添える。「いつ」。同時に律斗は青のボードにHub&SpokePrivate Linkの線を引き、Azure FirewallAppGW/WAFの置き場所を“夜に鳴らない図”へと並べ替える。

の所在は?」と監査。悠真が答える。「Managed HSM(日本)。操作は誰・いつ・どこで・なぜをログに。Retention は“骨格二年・細部三ヶ月・影五年”。影は優しく保存します」「場当たりの塩はやめて、味噌を仕込むのね」とみおが囁き、蓮斗が微笑む。「ログは塩、記憶は味噌」

次に Bicep の読み合わせ。奏多がヘッドホンを首にかけたまま、テンポをゆっくり落とす。「what-if の差分は人間承認。GitHub の OIDC は audience を固定して“鍵を置かない勇気”を」叶多が承認フローの図をに変えた。「走る(赤)/歩く(黄)/朝読む(緑)。赤以外、夜は走らない。橋には期限を」陽翔は譜面をめくり、「出口課金の息継ぎ」を示す。“成功は一声/失敗は明確”。眠れる曲は、朝にだけ小さく光る。

「図と条文が同じ言葉で話してる……」と岸が呟いた。橘は頷いた。「凡例に条文番号が刺さっているのは、心強いね。shall で守る線、will で協力する線——見える」

マリーが画面越しに笑った。「短い説明は、長い誠実さ。このリズム、好きです」

第三章 匿名の刃、さざなみの鞘

その夜、匿名掲示板に**「星織でログ消した」**が落ちた。“消した”は強い。真偽より先に、心拍だけが走り出す。

ふみかは深呼吸一つ。夜は詩を嫌う。だから短い。

本日、到達件数に短い谷を確認。現在復旧、二重化で補足済み。判断が要る事象はありません。困ったら、ここへ。

——断言より連絡先。

さくらが「ありがとうの練習しましょう」と社内チャットの冒頭に置き、りなが凡例のリンクを綴じる。悠真はメタ監視のアラートを再点検し、「ゼロの谷」の検出ルールをもう一段賢くした。みおは“踏んだ人のためのおやつ”を準備する。笑いは罰ではない、記憶の味だ。

翌朝、橘から**「眠れました」**の一行が届く。ふみかは画面を閉じて目を細めた。眠りは最上のKPI——それは事務所の合言葉でもあった。

第四章 “Bicep × DPA 読み合わせ合宿”

合宿、と言っても会議室から出ない。代わりにを変えた。青(技術)・紫(法務)・緑(運用)のボードに、それぞれ“短い文”を生やしていく。短い文こそ長い約束——ふみかの祖父の言葉を全員が知っている。

青の時間(設計)

律斗が線を一本引くたび、蓮斗は“味見”のクエリを仕込む。Hub&SpokePrivate LinkAzure FirewallFront Door。奏多は main.bicep の変数に env を明示的に渡し、「workspaces も名前規則も“夜の迷子”を出さないように」とテンポを一段落とす。叶多が「Break Glass封筒は金庫、年次更新」と橋に標識を付け、陽翔がコスト曲線の休符を描いた。

紫の時間(条文)

りなが条項 28/32/33/34 を動詞で刻む。処理保管報告。あやのは主語を太字にして、「shallで守り、willで支える」。**“やめ方の手順”**は最初のページ——これはあやのの美学だった。

緑の時間(運用)

悠真が Retention を温度で語り、骨格二年/細部三ヶ月/影五年を台所に例える。ふみかは Runbook の一行目を誰・いつ・どこで・何を・なぜに揃え、「成功は一声/失敗は明確」を置く。さくらは笑顔の取扱説明書をホワイトボードの隅に貼った。

笑顔は命令じゃない、合図。まず呼吸。事実→解釈→行動。ありがとうは先に。困ったは早めに。やめ方は最初に。

やまにゃんはにゃと鳴いて、USB のしっぽでとんと机を叩いた。合宿終了。

第五章 遠い風と十秒の言葉

欧州の港町から潮の匂いが画面に乗って届く。NUMA FISH のデモ初日。報道が集まり、コメントを求められる。「十秒で」と現地の広報。ふみかは短い言葉を三つだけ置く。

鍵はEU内。処理はEU優先、越境は同意と契約。失敗は隠さない。報告は72時間。連絡先は最初の行。

短い沈黙ののち、拍手がほんの少し遅れて返ってきた。遅い拍手は、届いた合図だ。

第六章 みおの合法いたずら

夜。みおの仕掛けたサプライチェーン演習が回る。依存に紛れた見えない針、audience を曖昧にした OIDC、what-ifを素通りさせる油断。

だが、譜面は準備済みだ。律斗が“破壊的差分”を自動で止め、蓮斗が味見で不穏を炙り、叶多が二段承認理由テンプレを必須化。悠真はメタ監視の“谷”を音で拾い、陽翔は曲線の外れ値を静かに潰す。りなとあやのは、凡例の注釈に**「鍵を置かない」**の小さな一文を足した。

演習後、みおは肩をすくめる。「止められるの、悔しいけど嬉しい」ふみかは拍手を一度だけ。「止められて嬉しいは、文化の体温」

第七章 駅のポスターと近くの助け

翌日。駅務室の前で、ベビーカーの列。さくらが**“やめ方ステッカー”**を配る。

解約1分|ここから(QR)連絡先受付時間ありがとうの一言

“やめられる店”は戻ってきやすい」——さくらの言葉に、商店街の人たちが頷いた。ふみかは駅の掲示に小さな札を追加する。「困ったら近くへ」。遠い専門家より、まず近くの助け。近くで解けなければ、うちへ

第八章 監査の日、凡例の雨

三日目。監査の日。星織ロボティクスの会議室には、雨が細く降っていた。窓に映る滴の形が、りなには凡例の行に見えた。

最初に出したのはだった。Hub&Spoke と Private LinkFirewall と WAFFront Door。凡例の左に条文番号、右に呼び名。A-1-1「処理の場所」/A-2-1「保管と複製」/A-3-1「鍵の所在」/A-4-1「報告の窓口」。図の端に小さな辞書。これが、今日の傘だ。

監査人は短く笑い、「読める」と言った。読めると、話が短くなる。短くなると、眠りが近づく。

ふみかは Runbook を人間語で読み上げ、「成功は一声」の場所を指で示した。悠真はRetentionの温度を説明し、「骨格二年/細部三ヶ月/影五年」の比喩を台所に戻した。奏多は what-if の差分を譜面で見せ、叶多は**“期限付きの橋”の手すりを太くした。陽翔は費用たいそうを二拍で踊り、蓮斗は“ゼロの谷”**の見分け方を十行で語った。りなとあやのは、shall と will の塗り分けを、紫のインクで最後にそっとなぞる。

会議室に静けさが降りた。良い静けさだ。橘が小さく息をつき、マリーの画面の向こうで誰かがコーヒーを置く音がした。監査人の結びは短かった。「眠って、次へ進めます

第九章 ポスターの前で

夜。新静岡駅のコンコースに、風が戻ってくる。ポスターの前に、全員が偶然集まっていた。帰り道が一緒になっただけの、他愛ない偶然。

律斗はヘッドホンを外し、「図面は、舞台裏で鳴らない音を作るものだね」とぼそり。あやのはボタンを緩め、「断言より連絡先。きょうも嘘にならなかった」りなはメガネを押し上げ、「凡例は橋梁。橋は人の重さで強くなる」ふみかは胸に手を当て、「短い文こそ長い約束」みおはウィンクして、「可愛いまま、仕事させる」さくらは拳を握って、「笑顔は共同作業」奏多はメトロノームをしまい、「テンポを決めてからログイン」陽翔は肩を回し、「眠れる曲線を今日も守れた」蓮斗はペンを噛んで、「味見ができれば、夜は静か」悠真は小声で、「保存は優しさの形式」叶多は橋の図を畳み、「通す構成、走らない夜

やまにゃんは、ポスターの中央でしっぽを高く掲げ——とんと床を叩いた。Justice Vault の小さな青い灯が、誰のポケットの中でもないところで一斉に点く気がした。

「クラウドに詳しい行政書士?」誰かが口にすると、全員が笑ってうなずく。

「はい、うちです」

エピローグ 明日の凡例

明日の朝も、駅には風が吹く。ポスターは変わらないが、読む人は変わる。読む人が変わるたびに、約束は少しずつ新しくなる。約束が新しくなるたびに、線は一本増えるが、ごちゃつかない。なぜなら線は礼儀で、礼儀は眠りのためにあるから。

Bicep設計図とDPAの読み合わせ?そんな案件、僕らにちょうどいい。図は短く、文はもっと短く、Runbookは人間語で。凡例に橋を、やめ方に美学を。断言より連絡先を、成功は一声を。そして、眠れましたの一行を。

山崎行政書士事務所やまにゃんがまた、しっぽで床をとんと叩いた。

ここから、また。

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