塩素/臭素などハロゲンの「取り切れなさ」と、下流腐食・副生成物の管理
- 山崎行政書士事務所
- 1月17日
- 読了時間: 12分

―脱ハロゲンの到達目標と「落ち残り」をどこで許容するかが、超ニッチに効く理由―
要旨
ポストコンシューマー由来の廃プラスチック熱分解油(WPO/PPO)をスチームクラッカー原料へ接続する際、塩素(Cl)および臭素(Br)に代表されるハロゲンは、(i) 原料由来の混入変動が大きいこと、(ii) 形態(無機塩、溶存HX、有機ハロゲン化物)が多様で除去機構が分断されること、(iii) 除去の過程でHX(HCl/HBr)や塩析物(例:NH₄Cl)など「下流側の腐食・閉塞・環境負荷」を生むこと、により“取り切れなさ”が工業リスクとして顕在化する。現行のクラッカー原料仕様ではClが数ppmレベルで管理される一方、実際のポストコンシューマー熱分解油ではClが三桁〜四桁ppmに達する例が示されており、単一工程での解決が難しい。本稿は、脱ハロゲンの「どこまで落とすか」を、単なる目標濃度ではなく、工程内で許容できる“ハロゲン負荷(g/h)”と“腐食・塩析の発現位置”として再定義し、落ち残りをどこで許容するか(受入基準・検査法・運転条件)を決めることが、なぜ超ニッチに効くのかを、材料腐食・装置設計・分析標準化の観点から論じる。末尾に、行政書士的観点から許認可・届出上の論点を付記する。
1. 問題設定:「取り切れなさ」は、濃度の話ではなく“形態×分配×反応”の話である
ハロゲンが厄介なのは、Cl/Brが「一種類の不純物」として存在するのではなく、少なくとも三つの顔を持つ点にある。第一に、PVC等に由来するCl、難燃剤等に由来するBrが、熱分解・触媒反応でHX(HCl/HBr)や有機ハロゲン化物へ転換し得る。第二に、無機塩(塩化物・臭化物)として微粒子や水相に分配し、物理的に持ち込まれる。第三に、油相中の有機ハロゲン化物として残存し、後段の水素化精製などで遅れてHXとして“顕在化”する。この形態差は、除去手段の“効き方”を根本から分断する。たとえば水洗・抽出は無機塩・溶存HXに効きやすいが、有機ハロゲンには効きにくい。一方、吸着(ゼオライト等)は油相中のCl含有化合物を捕捉できても、容量の尽き方(ブレークスルー)を持つ。さらに水素化脱ハロゲン(hydrodehalogenation)は有機ハロゲンをHXに変換できるが、HXは腐食・塩析という別の制約を生む。したがって「脱ハロゲンでどこまで落とすか」は、最終製品の濃度だけを見ても決められず、「どの形態をどの段で潰すか」「潰した結果として生じるHX・塩・廃棄物をどこで受け止めるか」を同時に決める必要がある。
2. スチームクラッカー仕様が要求する“桁”と、そこから生じる必然
公開レビューでは、現行の工業スチームクラッカー原料仕様の一例として、Clの最大値が約3 ppmであることが示される一方、ポストコンシューマー熱分解油の代表値としてClが約1460 ppmに達する例が挙げられている。このギャップは、単なる「差が大きい」では終わらない。仮に1460 ppmから3 ppmへ落とすなら、必要な低減係数は約487倍、除去率で約99.8%に相当する。ここで現場が直面する“取り切れなさ”とは、除去操作が一桁(10倍)改善できても足りず、複数段の積み上げが必須になり、しかも各段が別の副作用(HX、塩析、廃棄物)を生むという、システム問題である。
さらに、未処理の熱分解油の分析例では、主要不純物としてClだけでなくBrも検出され、Cl/Brが同時に存在すること自体が一般的であることが示唆される。 ここに「単一毒ではなくカクテルで効く」構造が重なるため、除去目標は“Clだけ3 ppm”の話では終わらず、Brや窒素(後述のNH₄塩問題)を含めた相互作用の管理へ拡張される。
3. 「上流で落とす」ほど下流は楽になるが、Brは上流で落ちにくいという非対称性
ハロゲン対策の第一原理は、可能な限り上流(廃プラ側)で混入を止めることである。ところが、上流対策が常に万能ではないことが、WEEE由来プラスチックを例にした連続系の研究で具体的に示されている。水洗前処理により原料中Clは約32%低減したが、Brは影響を受けないと報告されている。この非対称性は、Brが難燃剤(BFR)起源で樹脂マトリクスに強く紐づきやすいこと、Clが表面汚れや無機塩としても入り得ること、など複数の要因で説明できるが、重要なのは実装の帰結である。すなわち「水洗・簡易前処理でClはある程度落ちるが、Brは残りやすい」ため、Brは“後段で対処せざるを得ないハロゲン”になりやすい。
また同研究では、熱分解チャーが原料中Br/Clの90%以上を保持するにもかかわらず、油相のハロゲン濃度が約700 ppmと依然高いことが示されている。 これは直観に反しやすいが、実務的には重要な示唆を含む。すなわち「多くをチャーに閉じ込めても、油相がクラッカー仕様(数ppm)に到達する保証にはならない」ということである。チャー捕捉は“必要条件”として効いても、“十分条件”にはなりにくい。
4. 油相側の脱ハロゲン:吸着は効くが、到達濃度と容量(ブレークスルー)が壁になる
油相中のClを直接下げる方法として、吸着脱塩素は現実的な武器になり得る。Na型ゼオライト(4A、13X、Y)を用いた固定床トラップで、180℃未満の温和条件下でも脱塩素が可能であり、例としてCl 421 ppmを45 ppmまで低減できたと報告されている。しかし同報告は同時に、時間経過とともに除去効率が低下し(3時間程度から低下が始まる)、燃焼600℃による再生で性能回復することも示している。 ここから分かる“超ニッチに効く点”は、吸着が「どれだけ落ちるか」だけでなく、「どの形態を捕まえ、何がすり抜け、いつブレークスルーするか」が運転設計(塔の並列・切替、再生炉、廃ガス処理)を支配することである。さらに、45 ppmという到達点は、クラッカー受入(3 ppm級)から見るとまだ一桁以上高い。したがって吸着は、単独で最終仕様を満たす“仕上げ”というより、後段の水素化精製へ投入する前にハロゲン負荷を削って腐食・塩析リスクを下げる“前段保護”として位置づける方が、整合的な場合が多い。
5. 水素ベース技術は中核だが、ハロゲンは「HXとして顕在化」し腐食・塩析を誘発する
総説では、廃プラ熱分解油の後処理として脱塩素・蒸留・触媒アップグレード・水素化精製(hydroprocessing)が必要であり、さらに廃プラ側の前処理として選別・洗浄・脱ハロゲンが必要だと整理されている。 また同総説は、水素化精製が塩素などの汚染物を一桁程度低減し得るという見通しも述べている。しかし、ここに“取り切れなさ”の核心がある。水素化脱ハロゲンで油相の有機ハロゲンを落とすほど、生成するHX(HCl/HBr)負荷が増え、下流の腐食・塩析・排水負荷が増える。つまり、ハロゲンは「油相から消えた」のではなく、「装置腐食のドライバーとして姿を変えて現れる」のである。
このとき、超ニッチに効くのが、窒素(NH₃源)との相互作用である。ハイドロプロセシング系では、NH₃とHClが反応してNH₄Clが析出し得るが、析出温度はNH₃分圧とHCl分圧の積で表され、Clだけでなく供給窒素が同等に重要であることが明示されている。 さらに、アミンを上流で使うことが塩化物問題を悪化させ得ること、NH₄Clが沈着すると圧力損失増大・熱伝達低下・デポジット下腐食(pitting等)を引き起こすこと、水が凝縮し始めると影響が強まって「最初の一滴の水」が酸性ガスに富んで極めて腐食性が高いことが述べられている。ここまで来ると、脱ハロゲンの目標は「最終油のCl/Br濃度」だけでは決められない。水素化精製装置の許容できるHX生成量、塩析の発現位置(どの熱交換器で出るか)、水洗(wash water)設計、材料選定、腐食監視の能力といった、運転・設備の“受け止め能力”で逆算されるべきになる。
6. 「落ち残りをどこで許容するか」を決める設計思想:濃度規格ではなく“負荷予算”で扱う
ユーザの指摘する「落ち残りをどこで許容するか」は、実務上は次の問いに置き換えられる。すなわち、(1) どの工程でCl/Brを油相から除去し、(2) その結果として生成・移動するHXや塩をどこで捕捉し、(3) どの地点で最終受入仕様(クラッカー仕様)を満たすか、である。この問いに対し、最も誤差が少ない考え方は、Cl/Brを「ppm」ではなく「流量×濃度」で得られる“ハロゲン負荷(例:g/h)”として管理し、各工程に負荷予算を割り当てることである。クラッカー入口のCl 3 ppmは“最終予算”であり、上流工程では、それより大きい濃度を許容してもよいが、その代わりに、次工程が受け止められる負荷に収める必要がある。この負荷予算型の管理は、混合プラ由来の組成変動に強い。なぜなら、短時間のスパイクは「予算の急速消費」として可視化でき、吸着塔のブレークスルー、ガード材の寿命、排水処理の塩負荷、腐食モニタのアラームなどと、因果を結びやすいからである。
7. 受入基準と検査法:低ppm領域では「何を測ったか」がそのまま仕様になる
ハロゲン管理が超ニッチに効く第二の理由は、受入基準が“測定方法の定義”なしに成立しないことである。Cl/Brは、総量(total halogens)として測るのか、有機ハロゲンとして測るのか、無機ハロゲン(抽出で水相に出るもの)として測るのかで、結果が変わる。しかも3 ppm級の仕様では、分析法の感度・精度・マトリクス影響がそのまま合否を左右する。
実務上よく用いられる枠組みとして、油中の有機ハロゲン(Cl/Br/I)を酸化的マイクロクーロメトリーで定量し、塩化物イオン換算で報告する方法があり、適用範囲が2〜100 mg/kg(ppm)程度とされる。 この方法は「無機ハロゲンを除いて有機ハロゲンだけを測るための前処理」が重要であることも明記されている。一方、Cl/Brの総量を波長分散型XRFで測る国際規格として、ISO 15597があり、最新版(2025年版)ではClが質量分率0.0005%〜0.1%(概ね5〜1000 ppm)、Brが0.001%〜0.1%(概ね10〜1000 ppm)の範囲で適用されるとされる。 ここから分かる通り、クラッカー仕様のCl 3 ppm級は、この種のXRF規格の下限近傍あるいは下回り得るため、受入判定の“主法”にするのか、スクリーニングに留めて別法で裁定するのかを、最初に決めておかないと運用が破綻しやすい。総塩素を燃焼−マイクロクーロメトリーで測る枠組みとしては、酸化燃焼とマイクロクーロメトリーによる総塩素測定を扱う公的な試験法も存在する。 WPOのような複雑マトリクスでは、「総量(total)で抑える」のか「有機のみ(organic)を抑える」のかで、腐食リスクの評価も変わるため、受入基準は“測定定義を含む仕様書”として書き切る必要がある。
8. 運転条件(腐食・塩析・副生成物)を前提にした「許容」の設計
ハロゲンの落ち残りをどこで許容するかは、運転条件で意味が変わる。水素化精製で有機ハロゲンをHXへ転換しても、熱交換器列のどこかで水が凝縮し、そこにHXが濃縮し、さらにNH₃があれば塩析して閉塞・腐食を起こし得る。NH₄Clの沈着は圧力損失と熱伝達を悪化させ、デポジット下腐食で管損傷に至り得ること、そして析出温度がNH₃とHClの分圧積で決まることは、実務上の重要な関係として明示されている。この関係は、受入基準がClだけで完結しないことを意味する。Clが同じでも、供給窒素(→NH₃生成)が増えれば塩析温度が上がり、析出位置が前倒しになる。さらにアミン使用が問題を悪化させ得るという指摘は、腐食対策薬剤の選択が、塩化物対策と矛盾する可能性を示す。 ここがまさに「超ニッチに効く」ポイントであり、脱ハロゲンの達成度だけでなく、腐食制御の流儀(アミン、洗浄水、pH運用、材料選定)が、最終的に許容できる“落ち残り”を決めてしまう。
副生成物管理の観点では、熱分解油の後処理は望ましくない物質(例:HCl)を除去するために必要である、と総説は述べている。 また、WEEE系ではハロゲンが有害種の生成につながり環境へ負の影響を与え得ることが指摘されている。 したがって「落ち残りを許容する」という判断は、腐食だけでなく、オフガス処理(酸性ガスのスクラビング)、排水(塩化物・臭化物負荷)、固体廃棄物(ハロゲン捕捉チャーや使用済み吸着材)の処理までを含む、環境・安全上の許容設計でもある。
9. 行政書士の観点:ハロゲン対策は“装置の追加”と同時に、環境・保安の手続きが増えやすい
脱ハロゲンを真面目にやるほど、設備構成は「分離・吸着・水素化精製・洗浄・中和・排水」に厚みが出る。すると、許認可・届出・設計審査の論点が増えやすい。ここでは一般論として、実務で論点化しがちな方向性だけ述べる。
まず、油(WPO)の貯蔵・取扱いは、引火点等の性状により危険物規制(消防法)側の設計・許可(あるいは届出)論点を持つことが多い。そこに、脱ハロゲンで発生する酸性ガス(HCl/HBr)をスクラバー等で処理する場合、排ガス処理設備として大気関係の規制・自治体協議が絡み得る。次に、洗浄水や中和工程が入ると、排水中の塩化物・臭化物負荷、pH、COD等の管理が必要になり、水質汚濁防止法・下水道条例・工場排水基準との整合確認が必要になることがある。さらに、ハロゲンを捕捉したチャー、使用済み吸着材、スクラバーで回収した塩類スラッジなどは、性状により産業廃棄物としての処理委託・マニフェスト運用が必要になり、含有する有害性や溶出性によっては管理が厳しくなる可能性がある。また、水素化精製を増強する場合は、水素を高圧で扱うことから高圧ガス保安法や労働安全衛生法の枠組みで、設備変更の設計審査・完成検査・変更届などが関係してくることがある。ハロゲン対策は“腐食対策”と不可分であり、材料変更や腐食モニタ追加といった改造も伴いやすいので、技術検討の早い段階で、所轄(消防・労基・高圧ガス・自治体環境部局)との事前相談の線表を引いておくことが、後戻りを減らす上で有効である。
結論
塩素/臭素などハロゲンの「取り切れなさ」は、単に除去率が足りないという話ではなく、ハロゲンが形態を変えながら工程内を移動し、除去のたびにHX・塩析・廃棄物という別の制約を立ち上げる“システム問題”である。クラッカー仕様のCl数ppmに対し、ポストコンシューマー熱分解油ではClが千ppm級に達する例が示されており、複数段の積み上げが不可避である。 一方で、上流の水洗はCl低減に一定効果があってもBrには効きにくく、チャー捕捉が強くても油相の残留ハロゲンが高いままという現象が報告されている。 吸着脱塩素は油相Clを下げ得るが、到達点と容量劣化が運転設計を支配し、単独で最終仕様を満たすより、後段保護として位置づける方が整合的になりやすい。そして何より、落ち残りをどこで許容するかは、NH₃とHClの分圧積で決まるNH₄Cl沈着、そこからの圧損・熱伝達低下・デポジット下腐食といった運転制約により、Cl単独では決められない。 受入基準は測定法の定義(総量か有機か、Cl/Br別か)を含めて設計し、低ppm領域では分析法の感度・精度が仕様そのものになる点を織り込む必要がある。以上より、脱ハロゲンの到達目標は「濃度」ではなく「工程ごとの負荷予算」として設計し、落ち残りを許容する地点では、腐食・塩析・排水・廃棄物まで含めた“受け止め能力”を工学的に明示することが、超ニッチだが決定的に効く。
参考文献
[1] Kusenberg, M. et al., “Opportunities and challenges for the application of post-consumer plastic waste pyrolysis oils as steam cracker feedstocks: To decontaminate or not to decontaminate?” Waste Management (2022). [2] Kusenberg, M. et al., “Assessing the feasibility of chemical recycling via steam cracking of untreated plastic waste pyrolysis oils: Feedstock impurities, product yields and coke formation” Waste Management (2022). [3] López, J. et al., “Enhanced oil dehalogenation during catalytic pyrolysis of WEEE-derived plastics over Fe- and Ca-modified zeolites” Journal of Analytical and Applied Pyrolysis (2023). [4] Romero, A. et al., “Dechlorination of a real plastic waste pyrolysis oil by adsorption with zeolites” Journal of Analytical and Applied Pyrolysis (2024). [5] Belbessai, S. et al., “Recent Advances in the Decontamination and Upgrading of Waste Plastic Pyrolysis Products: An Overview” Processes (2022). [6] Treese, S., “Origins and Fates of Chlorides in Hydroprocessing Units – Part 1: Recognizing the Problem” Becht (2020). [7] Energy Institute, “IP 510: Petroleum products – Determination of organic halogen content – Oxidative microcoulometric method” (reapproved 2022). [8] ISO 15597:2025, “Petroleum and related products — Determination of chlorine and bromine content — Wavelength-dispersive X-ray fluorescence spectrometry” (2025). [9] US EPA, SW-846 Test Method 9076, “Total Chlorine in New and Used Petroleum Products by Oxidative Combustion and Microcoulometry” (1994; web page updated 2025).
参考リンク集
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8769047/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35101750/
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213343723025290
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213343724007681
https://www.mdpi.com/2227-9717/10/4/733
https://becht.com/becht-blog/entry/origins-and-fates-of-chlorides-in-hydroprocessing-unitspart-1-recognizing-the-problem/
https://www.energyinst.org/technical/publications/topics/ip-test-methods/ip-510-petroleum-products-determination-of-organic-halogen-content-oxidative-microcoulometric-method
https://www.iso.org/standard/89559.html
https://www.epa.gov/hw-sw846/sw-846-test-method-9076-test-method-total-chlorine-new-and-used-petroleum-products
https://www.epa.gov/sites/default/files/2015-12/documents/9076.pdf


コメント