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安倍川の月と、やさしい餅 — 夕風にとける甘い香り


1. 安倍川のほとりと餅屋の朝

 静かな朝、川面(かわも)を渡ってくる風には、まだ少し冷たい気配が混じっていた。 安倍川のほとりにある小さな餅屋、「栗原もち店」。そこでは夜明け前から、柚(ゆずる)の父と祖父が蒸したもち米を杵(きね)でついている。蒸気と湯気、そしてお米のやさしい香りが店じゅうに満ち、外まで漂っていた。 柚はいつものように店の前を掃いていたが、ふと遠くにある川面を見つめる。「今朝はどんな水の色かな……」とつぶやく。ほんの少し青みがかった川が、今日もおいしい水を運んできてくれるような気がするのだ。 そんな折、見慣れぬ少女が店先に立ち止まった。「おはようございます。ここに“安倍川餅”があるって聞いて……」 その少女は佐野 まどかと言い、最近この町に越してきたという。柚が「ちょうど出来たてがあるよ」と店へ通すと、まどかは一口食べて目を丸くし、「こんなに柔らかくて、きな粉の香りがほんわり広がるんですね……川の香りみたい…」と感嘆した。 初めて味わう安倍川餅に感動するまどかを見て、柚はこそばゆい嬉しさを感じる。朝のすがすがしい空気と、やさしい餅の香りが混ざり合い、二人はすぐに打ち解けた。

2. 川辺の夕暮れ、風が囁く

 それからしばらくして、日が落ちかけたころ、まどかは川辺を散策するうちに、柚を見つけた。彼女は仕入れの帰りに川のほうへ寄り道していた。 「こんな時間だけど、何してるの?」と尋ねるまどかに、柚は「夕方の安倍川が好きなんだ。夕陽が水面に映ると、まるで餅に絡むきな粉の色みたいでさ」と笑う。 まどかは思わず吹き出す。「ほんとだ、きな粉色に見えるかも……。やっぱり川は不思議だね」 しばらく二人で川岸の石に腰を下ろし、流れる水の音に耳を澄ませる。すると風がそよそよと彼女たちを包みこみ、葉や水面をさらさらと撫でていった。 あれは“囁き”かもしれない。まるで「餅の甘さは、川が育む命と人の心が溶け合ったもの……」と語っているようにも聞こえ、二人は思わず目を合わせ、なぜか神妙な気持ちになった。

3. 問題:お店の餅がうまく膨らまない?

 ある日、餅屋で不思議な出来事が起こる。いつもと同じ材料、同じ工程でついているはずなのに、なぜか餅の仕上がりが悪く、硬さやコシがイマイチに感じられるのだ。 父と祖父は原因を探るが分からず、客足も心なしか減ってきた。「何がいけないんだろう……」とみんなが頭を抱える。 柚も「水はいつも同じ安倍川のものだし、お米も変わらないはずなのに……」と戸惑う。まどかは心配して店を訪れ、「もし川の声に問うたら何かわかるかも」と冗談めかして言ってみたが、柚は「でも本当に、何かあるかもしれない」と目を輝かせる。 そこで二人は夕暮れ、再び川岸へ向かった。

4. クライマックス:川の夜風と安倍川餅の秘密

 月が昇るころ、川面には薄い霧が立ちこめていた。そっと川へ近づき、まどかと柚は黙って耳を澄ます。すると、やわらかな夜風が二人の髪を撫で、「おまえたちの想いが足りない。餅は人の心がこもるほどやわらかく、あまくなるのだよ……」と囁いた……気がした。 まるで川や風が語っているかのように聞こえたが、あたりには誰もいない。ただ水の流れと、月光が石を照らしているだけだ。 翌朝、柚は父や祖父に「もっと気持ちをこめてみよう」と提案した。昔のように、餅をつくときの祝詞(のりと)や節回しを復活させる。安倍川餅への感謝を唱えつつ、家族みんなで餅をついてみたのだ。まどかもお手伝いしながら「がんばっておいしくなってね」と、一緒に声をかける。

5. 結末:再びおいしい安倍川餅に戻り、川が微笑む

 するとどうだろう。出来上がった餅は、前よりもふっくら柔らかく、きな粉や砂糖の甘さが優しく溶け合う仕上がりとなった。味見をしたまどかは「これだよ、私が初めて食べたときの安倍川餅は……!」と瞳を輝かせる。 店に訪れた客も「やっぱりこの餅屋が一番だね」と笑顔を取り戻す。父や祖父も胸をなでおろし、「やはり心をこめることが大事だったんだなあ」としみじみつぶやいた。 その夜、柚とまどかはふたたび川岸へ行き、月の光が鏡のように映る川を見下ろした。風がそよぎ、「ありがとう、これからもよろしくね……」と、ほんのかすかな声音が漂う。二人は言葉を交わすことなく、ただ笑みを浮かべてうなずく。 そっと流れる川の水音は甘く、きな粉のようにほろりとした幸せを運んでくるようだ。安倍川の岸辺に住む人々は、こんなふうに日々を送りながら、小さな奇跡を当たり前のように享受しているのかもしれない。 月がゆっくりと雲に隠れるころ、二人は家路についた。明日もまた、餅屋は甘い香りとともに朝を迎え、川は変わらぬ流れを携えて町を潤す。誰にも分からない静かな物語が、水面の奥底で、そっと息づき続けているのだと信じながら——。

(了)

 
 
 

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