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山崎行政書士事務所物語(コメディ小説)シーズン2 第9話(通算第21話)「インシデント演習:本番より怖い(第2弾)」



※本作はフィクションです。登場人物・出来事は創作です。

※インシデント対応・監査・委託管理に関する描写は一般的な範囲の表現であり、特定案件の法的結論や対応の可否を断定するものではありません。必要に応じて弁護士等の専門家と連携してください。


ホワイトボードの右上は、もはや“貼り物”ではなく世界の運用ログだった。

シーズン1の駅名に、シーズン2の概念とリージョンが増え、壁が「広いのに狭い」という矛盾を抱えている。


Tokyo / Singapore / UTC / Zulu / Unicode / NFC(タッチしない方) / SDS / GHS / DPA / SLA / Subprocessor / RACI / Residency / Routing / Japan East / Japan West / West Europe / East US / Australia East / Access Control / Identity Proofing


その隣に、みおの赤字が三段積み。


14:15

14:15

14:15Z


壁の半分には、プリンターの“勝手に監査メッセージ”。


『A brochure is not evidence.』

『Looks professional is not a control.』

『Data residency ≠ data routing.(所在≠経路)』

『写真はマーケじゃない。入構は運用だ。』


ゆいが壁を見上げて、遠い目で言った。


「先生……ここ、もう“事務所”というより“机上演習会場”ですよね」


山崎先生がため息混じりに笑う。


「今日は、まさに机上演習だよ」


さくらが机の上に、真っ黒なファイルを置いた。

表紙に太字で書いてある。


「IR(Incident Response)演習 台本」


りながが目を輝かせる。


「IR!来た!ログ!封じ込め!根絶!復旧!」


みおが儀式のように付箋を貼る。


(① インシデント演習)

(② 連絡網)

(③ タイムゾーン)

(④ RACI)

(⑤ “誰が決める”)


あやのが、にこやかに頷いた。


「今日、燃えるのはシステムじゃなくて、人間関係ですね」


「予告で心を折るな」


相談者は“本番”より先に“恐怖”を持ってくる


10時。

○○化学の△△さんが入ってきた。

今日はバインダーではない。代わりに、顔色が灰色。


「先生……取引先から来ました。追加要請です」


山崎先生が身構える。


「追加要請って、嫌な響きだね」


△△さんはスマホを見せた。英文が短い。短いのに刺さる。


Please provide a summary of your Incident Response Tabletop Exercise results.

Include timelines in UTC.


りながが固まる。


「UTC指定……」


ゆいが反射で言いかけて止まる。


「ズ…(ズじゃない)……」


さくらが淡々と追撃する。


「“UTCでタイムライン”は、逃げられません」


みおが即答する。


「やります。演習して、残します」


△△さんが、肩を落とした。


「先生……演習って、やったことないんです。

“本番が来たらやります”って言ってました」


さくらが一言。


「本番が来たら、終わります」


「言い方が怖い」


あやのが優しく言う。


「でも大丈夫です。

本番より前に“怖さ”を見せるのが演習なので」


机上演習、開幕。まず役割を決める(RACIは便利だが痛い)


山崎先生は、ホワイトボードに大きく書いた。


Tabletop Exercise(机上演習)

目的:本番で詰まらない運用を残す


みおが、黒ファイルを開いて言う。


「本日は演習です。実際の攻撃はしません。

やるのは“判断”と“連絡”と“証跡の残し方”です」


りながが頷く。


「やった!攻撃しない!安心!」


「その安心、危険。油断するから」


さくらが、淡々と参加者を指名する。


インシデント指揮(IC):みお


技術担当(検知・封じ込め):りな


記録係(タイムライン・証跡):さくら


対外コミュニケーション案(社内周知含む):ゆい(※口数制限)


メンタル&段取り(人が倒れない運用):あやの


事業側意思決定(止める/止めない):△△さん


ファシリテーター(進行):山崎先生


ゆいが手を挙げる。


「先生、口数制限って何ですか?」


さくらが目線だけで止める。


「広報は、余計な一言で世界を燃やします」


「燃やすの!?」


あやのが柔らかく言う。


「燃やす前に、台本にしましょうね」


演習シナリオ:14:15Zに“通知”が来る(地獄の時間指定)


みおが台本の1ページ目を読み上げた。


「シナリオ開始。

時刻:14:15Z。

Microsoft 365環境で、管理者権限アカウントに対する“異常サインイン”が検知されました」


りながが反射で言う。


「Impossible travel…!?」


みおが淡々と続ける。


「アラートの内容:


管理者アカウントで海外IPからサインイン試行


MFAが通ったようにも見える


直後にSharePointから大量ダウンロードの痕跡(可能性)」


△△さんが顔を青くする。


「MFA通った“ようにも見える”って何ですか!?」


さくらが即答する。


「ログの見方が統一されていない時に起きます」


「怖い!」


山崎先生が落ち着いて言った。


「ここが机上演習の良いところ。

“ようにも見える”を潰していこう。まず最初の問いは?」


みおが即答する。


「これはインシデントか。誰が判断するか」


りながが勢いよく言う。


「インシデントです!止めます!アカウントブロック!」


△△さんが反射で叫ぶ。


「止めたら工場の夜間シフトが止まります!!」


空気が燃えた。


ゆいが小声で言う。


「出た、事業継続 vs セキュリティ……」


さくらが即答する。


「広報、黙ってください」


「はい……」


“止める/止めない”より先に「誰が決めるか」が無いと詰む


みおが△△さんに静かに聞く。


「止める判断、誰がしますか」


△△さんが詰まる。


「えっと……情シス……?」


りながが勢いよく頷く。


「私です!」


みおが首を横に振る。


「りなさん、あなたは実行担当です。意思決定ではありません」


りながが固まる。


「えっ……」


さくらが淡々と言う。


「ここで“やる気”が暴走すると事故になります」


「やる気を止めるのも運用か…」


山崎先生がホワイトボードに書く。


意思決定:事業責任者(△△)

実行:情シス(りな)

指揮:IC(みお)

記録:さくら


みおが言う。


「では演習上、こうします。

“暫定封じ込め”は技術担当が即実施できる範囲を定義。

“業務影響が大きい遮断”は事業責任者が判断。

この線引きを、証跡として残します」


△△さんが、少しだけ息を吐く。


「線引き…助かります…」


あやのが小声で言う。


「線引きって、人を救いますよね」


次の地獄:連絡網が“個人のスマホ”にしかない


みおが台本の次ページをめくる。


「シナリオ続き。

インシデント指揮官は、委託先(運用ベンダー)へ連絡し、ログ提供と初動支援を依頼します」


△△さんが頷く。


「はい、鈴木さんに連絡します!」


すぐスマホを取り出す。

…が、手が止まる。


「……鈴木さんの連絡先、僕の個人LINEにしかない」


全員が同時に言った。


「終わった!!」


さくらが、冷たい声で言う。


「個人LINEは証跡ではありません」


みおが付箋を貼る。


(⑥ 連絡先=個人依存)


りながが震える声で言う。


「先生、ここが一番詰みポイント…」


山崎先生が頷く。


「机上演習で一番怖いのは、こういう“当たり前にやってたこと”が、運用として残ってない瞬間だね」


ゆいが、うっかり言う。


「LINEって便利なのに……」


さくらが目線で止める。


「広報、黙ってください」


さらに燃える:通知のSLAが“24 hours”だった(起算点どれ)


みおが淡々と読み上げる。


「委託先契約(SLA)には、

“notify within 24 hours”とあります」


△△さんが必死に言う。


「じゃあ24時間以内に連絡が来るんですよね!?」


さくらが、静かに言う。


「いつから24時間ですか」


△△さんが固まる。


「えっ…発生から…?」


みおが追撃する。


「検知から?確認から?報告書完成から?

そして、その“24時間”はUTCで数えますか」


りながが小声で言った。


「…Zが混ざると死ぬ…」


「死ぬ言うな」


あやのがやさしく言う。


「でも、“言葉が同じでも意味が違う”って怖いですよね」


山崎先生がホワイトボードに書く。


起算点(Trigger)


タイムゾーン(UTC/JST)


通知の方法(メール/ポータル/電話)


証跡(誰が見たか)


「演習の結論として、ここを“質問事項”じゃなく“運用に落とす宿題”にしよう」


みおが頷く。


「宿題にします。期限も決めます」


△△さんが小声で言う。


「期限…また…」


「期限は人を救う。先延ばしは人を殺す」


「言い方!」


最恐イベント:広報ゆい、声明文を作り始める


ここで台本が“炎上”パートに突入する。


みおが淡々と言った。


「シナリオ続き。

SNSで『○○化学で情報漏えいらしい』という投稿が出回りました。

社内チャットもざわついています」


ゆいの目が光る。


「先生!ここ私の出番!声明文作ります!」


さくらが即止める。


「作りません。演習です」


「でも演習でも作れた方が強くないですか!?」


みおが冷静に言う。


「作るのは良い。

ただし“出さない”。そして“誰が承認するか”を決める」


ゆいが震える声で言う。


「承認…社長…?」


△△さんが青ざめる。


「社長、今海外出張で…時差で…」


全員が同時に言った。


「時差!!」


山崎先生が穏やかに言う。


「ほら、燃えるのはシステムじゃなくて、人間関係だろ?」


あやのが頷く。


「燃えてますね、静かに」


机上演習で見える「本番で死ぬポイント」ランキング


みおが、冷静に整理を始める。

この人は火事の中で落ち着くタイプだ。怖い。


「ここまでの“詰まりポイント”を列挙します」


さくらが記録しながら言う。


「タイムラインはUTCで残します。JSTは補助です」


りながが小声で言う。


「正しい……」


みおが読み上げる。


“誰が宣言するか”が曖昧(インシデント宣言・遮断判断)


連絡先が個人依存(委託先・サブ委託・社内意思決定者)


SLAの起算点とタイムゾーンが曖昧


対外文の承認経路がない(時差で詰む)


ログの“見せ方”はあるが、“見た証跡”がない


△△さんが、顔を覆った。


「全部…うち…」


山崎先生が優しく言う。


「全部あるから、伸びしろがある」


さくらが淡々と追撃する。


「伸びしろは、残さないと伸びません」


「残す宗教やめて」


そして来る。14:15(ローカル)—草薙が“火事場”に水じゃなく紙を置く


演習が佳境に入った頃、インターホンが鳴った。


ピンポーン。


全員が時計を見る。


14:15(ローカル)


「……来る」


りながが、もう観測装置みたいに言った。慣れるな。


ドアが開く。

草薙(監査官)が、当然の顔で入ってくる。


「失礼します。少しだけ」


△△さんが半泣きで言う。


「今日も来るんですね…」


草薙は机上演習の付箋群を見て、一言。


「良い炎上です」


「良い炎上って何!?」


草薙は淡々と続ける。


「本番で炎上するより、演習で燃えた方が安い」


みおが真顔で頷く。


「コストの話、好きです」


「そこ意気投合するな」


草薙は机にステッカーを二枚置いた。


Tabletop

Comms


ゆいが反射で言った。


「Comms…!広報の響き…!」


さくらが目線で止める。


「広報、黙ってください」


草薙はホワイトボードの“連絡網がLINE”付箋を見て、淡々と聞いた。


「それ……連絡網、残る?」


みおが即答する。


「残します。

連絡先の台帳、社内共有、更新責任者、更新頻度まで含めて残します」


さくらも即答する。


「残します。個人依存を排除します」


りながが乗る。


「残します!オンコール表も作ります!」


草薙が小さく頷いた。


「合格です。

そして“タイムラインはUTC”も良い。

ただし——」


草薙は机上演習の台本を指でトントン叩いて言った。


「誰が“終息宣言”するかも、残してください」


空気が一段、冷えた。


△△さんが弱々しく言う。


「終息…宣言…」


あやのが優しく言う。


「終わり方って、決めてないと終われないですよね」


草薙は去り際に、いつもの言葉。


「インシデントは“止める”より“終わらせる”方が難しい。

——証跡、大事なんで」


ドアが閉まった。


オチ:プリンターが“人間関係が燃える”を一行でまとめる


演習の締め。

山崎先生が△△さんに言った。


「今日の成果は“うまくやれた”じゃない。

“詰まる場所が見えた”こと。詰まりは改善できる」


△△さんが、力なく笑った。


「本番より怖かったです…」


みおが真顔で言った。


「本番はもっと怖いので、今日で正解です」


「正解だけど言い方」


その瞬間、プリンターが「ピッ」と鳴った。

やめろ。今日は静かに終わりたい。


ウィーン。


吐き出された紙には、一行だけ。


『インシデントで一番遅いのはネットじゃない。承認だ。』


りながが震える声で言った。


「先生……プリンター、人間関係に刺してきました……」


ゆいが、しょんぼり言う。


「承認…私の天敵…」


さくらが淡々と締める。


「承認は敵ではありません。仕様です」


「仕様で全部片付けるな」


あやのがにこやかに言った。


「でも、承認フローを“先に決めておく”と、人が倒れにくいですよね」


みおが付箋を貼る。


(⑦ 終息宣言=残す)

(⑧ 承認=ボトルネック)


「付箋でボトルネックを残すなぁ!」


今週のチェックリスト(一般論)


机上演習(Tabletop)は「本番で詰まる場所」を可視化するためにやる(成功より“詰まりの発見”が成果)


連絡網・オンコール・委託先連絡先が個人依存だと本番で止まる(台帳化・更新責任・更新頻度まで含めて残す)


タイムラインはUTCで残すと越境案件で説明しやすい(JSTは補助として併記)


“24 hours”などのSLAは、起算点(発生/検知/確認)とタイムゾーン、通知方法まで揃えると事故が減る


対外コミュニケーション(Comms)は“作れる”より“承認できる”が重要。終息宣言の責任者も決めて残す


ステッカー(シーズン2・概念編:演習と広報が追加)


Tabletop(NEW)


Comms(NEW)


プリンター被害状況


「承認が一番遅い」を勝手に印刷(刺さりすぎる正論)


ただし信用はしない(前科が多い/今日も正しいのが腹立つ)


次回予告


「データの旅路」と「責任の旅路」は別。

どこに置くかより、誰が守るか。

そして、責任は“境界”で割れる。

次回、シーズン2第10話 「“データの旅路”と“責任の旅路”は別」。


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