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山崎行政書士事務所物語(コメディ小説)第3話「台帳くんの反乱」

※本作はフィクションです。登場人物・出来事は創作であり、手続や書類に関する描写は一般的な範囲の表現です。個別の案件は事情により必要書類・手順が変わります。

ホワイトボードの右上に、二枚のステッカーが貼られている。『新静岡』と『日吉町』

そして、その横に、みおが赤ペンで書いた謎の数字。

14:15

「先生、これ、消さないでくださいね」

みおが真顔で言う。まるで“呪い”を封印している人の声だ。

「消さないよ。むしろ、覚えておきたい気持ちがある」

りながノートPCを開きながら、嬉しそうに言った。

「14:15って、なんか…連載の“暗号”っぽいですよね」

「暗号は、解ける人だけが楽しいんだよ」

さくらが、机の上の書類束を軽く持ち上げる。紙の束が“カサッ”と鳴っただけで、彼女の目が細くなる。

「先生、今日の相談、台帳です」

その単語だけで、事務所内の温度が一段下がった気がした。

「台帳って言うと…あの“それ台帳に残る?”の人?」

ゆいがポスター筒を抱えたまま、ワクワクしている。なんでそんなに事件が好きなんだ。

みおが付箋を一枚、机に貼る。

(① 台帳)

「はい。今日は“記録の地獄”です」

「言い方」

相談者は、笑顔で地雷を持ってくる

10時ぴったり。相談者が入ってきた。

明るい。軽い。元気。そして、手に持っているのは――

段ボール箱。

「こんにちは!えっと…これ、全部“売ったやつ”です!」

「売ったやつを…持ってきたんですか?」

山崎先生が確認すると、相談者は満面の笑みで頷いた。

「はい!えへへ。フィギュア中心で!あとゲーム機も少し!」

りなが目を輝かせる。ゆいが反射で「推しいます?」と言いかけ、さくらに無言で止められる。

「それで、何に困ってますか?」

あやのが、いつもの“優しい交通整理”で話を引き出す。

相談者は、段ボールの上にもう一つ置いた。今度は、厚いノート。次に、スマホのメモ画面。さらに、Excelを開いたタブレット。

「えっと…記録を付けてるんですけど、どれが正しい記録か分からなくなってきて」

みおが、静かに頷いた。

「典型的な“多重台帳”です」

「言い方が怖い」

相談者は続ける。

「書いたり書かなかったりで…あと、名前も…“青いロボ”とか“赤いやつ”って書いてます」

りながが小声で言う。

「未来の自分が詰むやつ…!」

さくらは、ノートを一ページだけめくって、言った。

「先生。これ、検索できません

「さくらさん、検索って…紙なんですけど」

「だからです」

台帳は“ログ”である(だいたい)

山崎先生は、相談者に笑顔を向けたまま、言葉を慎重に選ぶ。

「一般論として、取引の記録が求められるケースでは、“後から見て追える形”が大事です。『いつ・何を・いくらで・誰から(どこから)』みたいに、事実が辿れるように」

相談者は「なるほど!」と頷く。その反応が素直すぎて、逆に不安になる。

りながが勢いよく手を挙げた。

「先生!じゃあ、私、台帳テンプレ作ります!入力フォーム化して!自動で日付入って!あと写真も添付できて!タグ付けして!“売れたら自動でステータス変更”も――」

みおが、無言で立ち上がり、りなの肩に手を置いた。

「りなさん」

「はい!」

「テンプレを増やすと、台帳が死にます」

「えっ」

「台帳は、続くことが勝ちです」

りながの目から光が一瞬消えた。

「…続くやつに、します」

さくらが淡々と補足する。

「台帳は“綺麗”じゃなくて、“残る”が正義です」

ゆいが頷きながら言う。

「残る…いい言葉…!」

「広報で使うな」

台帳くん、人格を持つ

山崎先生は、机の上にノート・スマホ・Excelを並べた。並べた瞬間、あやのが小さく笑う。

「なんか…三人の“記憶”が同時に喋ってる感じですね」

みおが付箋を貼り直す。

(台帳:ノート/スマホ/Excel)

「先生、統合します。どれか一つに」

「そうだね。どれが続く?」

相談者は少し考えて言った。

「…スマホが楽です!」

さくらが即答する。

「スマホは、電池が切れます」

「現実的すぎる」

「でも、スマホで入力して、定期的にバックアップする形なら…」

山崎先生が言いかけたところで、プリンターが“ピッ”と鳴った。今、誰も触ってないのに。

りながが怯えた声を出す。

「先生…プリンター、また自己主張してます…」

さくらが、プリンターに向かって言った。

「あなたは、黙ってて」

プリンターが黙るわけがないのに、なぜか静かになった。

相談者がノートを指差して言う。

「これ、最初はちゃんと書いてたんですよ。でも…だんだん、台帳が怒ってる気がして」

「台帳が怒る?」

「書かないと、なんか…視線感じるんですよね」

ゆいが笑いながら言う。

「台帳くん、人格持った」

「持たせないで」

でも、その瞬間。山崎先生の頭の中に、想像が浮かんでしまった。

机の上に、ちょこんと座る小さな台帳。腕を組んで、眉間にシワ。言うことは一つ。

「それ、残ってない」

最悪だ。想像したら負けなのに。

“青いロボ”を特定せよ

相談者が段ボールから一つ取り出す。箱の側面に手書きの付箋。

「青いロボ(でかい)」「たぶん限定」

みおが、しずかに目を閉じた。

「先生、これ、監査で聞かれたら詰みます」

「監査は今は来ない。たぶん」

さくらが付箋を指でトントン叩く。

「“青いロボ”っていう情報は、世界に多すぎます」

りながが言った。

「せめて型番か、作品名か、写真か…!」

相談者は「写真あります!」とスマホを出した。そこには、棚一面のフィギュア。

ゆいが反射で叫んだ。

「圧が強い!」

あやのが優しく言う。

「大丈夫です。大事にされてるの、伝わります」

さくらは、棚の写真の隅に写り込んだラベルを見て言った。

「先生、ここに…商品名、書いてあります」

「えっ、どこ」

「右下の、反射してるところです」

「目が良すぎる」

相談者が「すごい!」と拍手しそうになり、みおが止めた。

「拍手は後で。まず残します」

14:15、また来た

台帳の“最低限の軸”を決める。入力ルールを決める。“綺麗”より“続く”に寄せる。

その方向が決まった瞬間、事務所の空気が少し明るくなった。

その時、インターホン。

ピンポーン。

あやのが出ようとして、止まった。時計を見る。

14:15

全員が、同時に目だけで会話する。

(来る?)(来る)(来た)

ドアが開く。

キャップを深く被った人物が立っていた。低い声で、丁寧に言う。

「失礼します。…少しだけ」

ゆいが囁く。

「事件の人…!」

人物の視線が、机の上の台帳群に落ちる。そして、例の一言。

「それ…台帳には残る?」

山崎先生は、できる限り平常心で答えた。

「残します。続く形で」

人物は、わずかに頷くと、机に何かを置いた。駅名ステッカーだ。

『音羽町』

そして、もう一言だけ残した。

「残るなら、いい。“証跡”は、未来の自分を助けるから」

そう言って、静かに去っていった。

ドアが閉まったあと、事務所内に数秒の沈黙が落ちた。

りながが小声で言う。

「先生、私たち…試されてます?」

みおが付箋を貼る。

(② 謎の来客:14:15)

さくらがホワイトボードに向かい、音羽町ステッカーを貼った。新静岡、日吉町、その隣に。

「……三駅目」

ゆいが言う。

「先生、これ、シーズン1の地図、できますね」

「地図ができる前に、台帳を完成させよう」

台帳くんの反乱、そして和解

相談者が帰ったあと。りながは“続く台帳”を作るために、シンプルな入力表を作っていた。シンプル、シンプル、シンプル…と唱えながら。

そこへ、プリンターが“ウィーン”と動き出した。

「今度は何!?」

りながが身構える。

プリンターから出てきた紙には、文字が一行だけ印刷されていた。

『それ、残ってない。』

全員が固まる。

みおが最初に口を開いた。

「先生、プリンターが煽ってきました」

「煽ってるね」

さくらがプリンターを見て言った。

「あなた、さっき黙ってって言いましたよね」

プリンターは当然返事をしない。が、なぜか、もう一枚出てきた。

『でも、残せる。』

ゆいが笑いをこらえきれずに言った。

「プリンター、ツンデレですか?」

「違うと思う」

山崎先生は紙をそっと回収し、ホワイトボードの端に貼った。

「……今日の名言として残しておこう」

さくらが頷く。

「残すなら、いいです」

りながが小さくガッツポーズをした。

「台帳くん、機嫌直した…!」

「台帳くん人格持たせるのやめなさい」

でも、その瞬間だけは、確かに感じた。事務所の空気が、「次は大丈夫」と言っているような。

今週のチェックリスト(一般論)

  • 記録が求められる業務では「後から追える」形が重要(いつ・何・いくら・どこ/誰 などの事実を残す)

  • “完璧な仕組み”より“続く仕組み”を先に作る(運用が勝つ)

  • 表記ゆれ・呼び名の曖昧さは、未来の自分を詰ませる(写真・型番・名称などで補強)

駅名ステッカー

  • 1枚目:新静岡

  • 2枚目:日吉町

  • 3枚目:音羽町

プリンター被害状況

  • 煽り文を勝手に印刷(精神攻撃)

  • ただし、今回は少し協力的(たぶん気まぐれ)

次回予告

「事業目的、全部入れたいんです!」――定款ポエムが、事務所を襲う。次回、定款ポエム事件

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