top of page

山崎行政書士事務所物語(コメディ小説)第4話「事業目的50連発:定款ポエム事件」


※本作はフィクションです。登場人物・出来事は創作であり、手続や書類に関する描写は一般的な範囲の表現です。個別の案件は事情により必要書類・手順が変わります。

ホワイトボードの片隅に、駅名ステッカーが三枚並んでいる。『新静岡』『日吉町』『音羽町』

そのすぐ横に、みおが赤字で書き残した呪文。

14:15

そして、その下に――プリンターが勝手に印刷した煽り紙。

『それ、残ってない。』『でも、残せる。』

「先生、これ…貼っておくんですか?」

りなが、引きつった笑顔で聞いた。

「貼る。事務所の戒めとして」

「戒めが増えると、壁が足りませんよ」

「壁が足りないのは、だいたい現場と同じだね」

さくらが、机の上に今日のファイルを置いた。置き方が、もう“良くないニュース”のそれだ。

「先生。今日は…目的です」

「目的?」

みおが付箋を一枚、追加する。

(① 目的)

「法人化っぽい相談です。事業目的が…多い」

「多い、程度にもよるけど」

さくらは、息を吸って吐くみたいに言った。

50です」

「多いね」

ゆいがポスター筒を抱えたまま、キラキラした目で言う。

「50…!いいですね!“50の夢”!」

「広報目線を一旦しまって」

相談者は、段ボールの次は“詩”を持ってくる

10時。ドアが開いて、見覚えのある明るい声がした。

「こんにちは!この前はありがとうございました!台帳…続いてます!」

入ってきたのは、あの“フィギュア中心で売ったやつ全部持ってきた人”。段ボールの代わりに、今日は分厚いバインダーを抱えている。

「おお、続いたんだ。すごいね」

山崎先生が言うと、相談者は誇らしげに胸を張った。

「はい!“続くやつ”にしました!それで…次のステップに進みたいんです!」

「次のステップ?」

相談者はバインダーを机に置いた。ドン、と音がした。重い。未来が詰まっている音。

「法人化を考えてて…それで“事業目的”を考えてきました!」

みおの目が細くなる。りなの背筋が伸びる。ゆいがペンを構える(やめて)。

相談者はバインダーを開き、A4用紙を取り出した。そこには、びっしりと文章が並んでいる。

「えっと…読みますね」

さくらが即座に言った。

「先生、止めないと、ここで連載が終わります」

「読むのか…全部?」

相談者は、嬉しそうに頷いた。

「はい!まず一つ目。『当社は、世界に夢を届けるため…』」

「もう、ポエムが始まってる」

ゆいが小声で言う。

「先生、これ…キャッチコピーとして強いです」

「ダメです」

相談者は気づかず続ける。

「『…クラウドとフィギュアと人類の未来を架橋し…』」

りながが思わず手を挙げた。

「えっ、“クラウド”って入れるんですか!?(入れるの!?)」

「入れたいんです!クラウド!だってかっこいい!」

みおが静かに言った。

「“かっこいい”は要件ではありません」

「でも…夢が…!」

あやのが、ふわっと間に入った。

「夢、いいですよ。ただ、“手続で伝わる夢”と“心で伝わる夢”って、違うところもあるので…」

相談者が「なるほど…」と少し落ち着く。さすが、感情の交通整理。

山崎先生、SEの顔になる

山崎先生はバインダーの紙を一枚だけそっと引き寄せ、全体をざっと見た。見た瞬間、脳内に“あの言葉”が浮かぶ。

スコープクリープ。

でも口に出したら、みおに怒られる。

「えっと…一般論としてね。事業目的って、“やりたいこと全部”というより、まずは“実際にやること”に寄せて整理した方が、運用しやすいんだ」

相談者がキョトンとする。

「運用?」

さくらが即答する。

「後から自分が困らないことです」

「なるほど!」

納得が速い。速いのに、危うい。

りながが、なぜかテンションを上げる。

「先生!じゃあ“目的MVP”ですね!最小実行可能目的!」

みおが、冷静に付箋を貼る。

(目的MVP)

ゆいが、すかさず言う。

「“目的MVP”…響きいいですね!」

「広報、黙って」

事業目的、増やすと“自分”が死ぬ

相談者は、紙をめくる。二枚目。三枚目。四枚目。

  • フィギュアの売買

  • ゲーム機の売買

  • ECサイト運営

  • イベント企画

  • コンサルティング

  • AI活用

  • メタバース

  • 海外輸出入

  • 宇宙関連(?)

  • 農業(!?)

「……農業?」

山崎先生が確認すると、相談者は真顔で言った。

「将来、畑でフィギュア撮影したいので」

「それは、事業目的というより撮影ロケーションだよ」

さくらが紙の端を軽く叩いた。

「先生。目的に“畑”が出てくる時点で、本人の脳内がもう“全方位”です」

みおが言う。

「全方位は、管理できません。先生、分類しましょう。主目的・付随目的・将来目的」

相談者が不安そうに言った。

「でも、将来やるかもしれないのに、今書いてなくて大丈夫なんですか?」

あやのが、ゆっくり頷いた。

「心配、分かります。“書いておけば安心”って気持ち、ありますよね」

相談者が頷く。その瞬間、ゆいがまた口を開く。

「“安心のための50目的”!」

「広報、黙って(2回目)」

山崎先生は、できるだけ柔らかく言った。

「安心は大事。ただ、目的って“増やせば安心”じゃなくて、増やすと逆に“何の会社か分からない”状態になったり、運用で困ることもある」

みおが追撃する。

「目的が多いほど、未来の自分が説明地獄です」

りなががポツリと言った。

「“青いロボ”の時も、未来の自分が詰むって…」

相談者が顔を赤くする。

「うっ…確かに…!」

定款ポエム事件、核心

相談者は、最後のページを取り出した。そこだけ、紙質が違う。妙に良い紙。

「先生、これは…“最後の締め”です」

「締め?」

相談者が深呼吸して読み始める。

「『当社は、愛と誠実と推しへの忠誠をもって――』」

「やめて!定款は誓いの儀式じゃない!」

山崎先生のツッコミが出た瞬間、プリンターが「ピッ」と鳴った。

誰も触ってない。なのに鳴る。

さくらがプリンターに目線だけ投げる。

「…黙ってて」

プリンターは黙らない。ウィーン、と勝手に動いて紙を吐き出した。

そこには一行。

『要件定義、未完。』

みおが静かに言う。

「先生、プリンターが正論を言い始めました」

「機械に正論を言われると、こっちが悪者になる」

ゆいが笑いを堪えながら言う。

「プリンター、連載に参加してきましたね」

「参加しなくていい」

14:15、目的の前に“誰が運用するか”

目的を分類し、主目的を絞り、文言を“ポエムから現実へ”戻していく。相談者の顔が、だんだん落ち着いていく。

その時、インターホンが鳴った。

ピンポーン。

全員が時計を見る。

14:15

りながが息を吸う。

「来る…!」

ドアが開く。キャップを深く被った人物。あの、謎の人。

低い声で、丁寧に言う。

「失礼します。…少しだけ」

視線が、机の上の“事業目的50連発”に落ちる。そして、いつもの質問の変形が来た。

「それ…目的、残る?」

相談者が戸惑う。

「目的…残る?」

謎の人は続けた。声は静か。でも刺さる。

「残すなら、運用も残る。“誰が”、その目的を説明して、守って、更新する?」

みおが、ほんの少しだけ頷いた。さくらも、ほんの少しだけ。

山崎先生は、相談者に目を向ける。

「…今の質問、大事だね」

相談者は、しばらく考えてから言った。

「…僕、ですね」

「その“僕”が、未来でも言える形にしよう」

謎の人は、満足したのか、小さく頷いた。そして机に、駅名ステッカーを一枚置いた。

『春日町』

「じゃ。証跡、大事なんで」

そう言って、いつものように去っていった。

ドアが閉まった後、ゆいが囁く。

「先生…この人、何者なんですか」

「まだ分からない。でも…こっちの“甘え”を正確に突いてくる」

みおが付箋を貼る。

(③ 目的=運用)

さくらがホワイトボードに、春日町ステッカーを貼った。三枚の隣に、四枚目。

地図が、また一駅伸びた。

最後に残った“たった一つの目的”

整理が終わった頃、相談者がぽつりと言った。

「…僕、本当は」

みんなが見る。相談者は、少し照れた顔で言う。

「結局、やりたいの…フィギュア通販なんですよね」

沈黙。そして、全員が同時に頷いた。

「うん」

「はい」

「それが一番、残ります」

さくらが言うと、相談者は笑った。

「なんか…50個書いたの、恥ずかしいですね」

あやのが、やさしく言う。

「恥ずかしくないですよ。“ちゃんとしたい”って気持ちが、そこに全部入ってたんです」

相談者の肩が、ふっと下がった。少しだけ、軽くなった顔。

山崎先生は、最後に言った。

「“ちゃんとしたい”は、書類の原動力だ。でも、書類は“続けられる形”が一番強い」

プリンターが、また勝手に動いた。今度は煽りじゃない。一行だけ、静かに。

『MVPで、勝つ。』

りながが小さくガッツポーズをした。

「先生、プリンター…今、味方です!」

「たぶん一時的だよ」

今週のチェックリスト(一般論)

  • “事業目的”は「将来の夢」よりまず「現実にやること」を軸に整理すると運用しやすい

  • 目的を増やすほど「説明・管理・更新」の負担が増える(未来の自分の仕事が増える)

  • “綺麗な文章”より「誰が読んでも同じ意味に読める」表現に寄せる(ポエムは心に置く)

駅名ステッカー

  • 1枚目:新静岡

  • 2枚目:日吉町

  • 3枚目:音羽町

  • 4枚目:春日町

プリンター被害状況

  • 勝手に正論を印刷(精神攻撃→今回は支援)

  • ただし、信用はしない(前科あり)

次回予告

「この文章、冷静に書いたはずなのに…怒りが漏れてる」感情と文章の攻防戦。次回、内容証明は感情を運ばない

コメント


Instagram​​

Microsoft、Azure、Microsoft 365、Entra は米国 Microsoft Corporation の商標または登録商標です。
本ページは一般的な情報提供を目的とし、個別案件は状況に応じて整理手順が異なります。

※本ページに登場するイラストはイメージです。
Microsoft および Azure 公式キャラクターではありません。

Microsoft, Azure, and Microsoft 365 are trademarks of Microsoft Corporation.
We are an independent service provider.

​所在地:静岡市

©2024 山崎行政書士事務所。Wix.com で作成されました。

bottom of page