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山崎行政書士事務所物語(コメディ小説)第6話「ペットと名義と、飼い主のうっかり」


※本作はフィクションです。登場人物・出来事は創作であり、手続や書類に関する描写は一般的な範囲の表現です。個別の案件は事情により必要書類・手順が変わります。本作は特定の手続の結論や可否を断定するものではありません。


ホワイトボードの右上に、駅名ステッカーが五枚並んでいる。

『新静岡』、『日吉町』、『音羽町』、『春日町』、『柚木』。



その横に、みおが赤字で書いた謎の時刻。



14:15



そして、その下。

プリンターが勝手に印刷した“人生に効く言葉”が、じわじわ増殖している。



『それ、残ってない。』

『でも、残せる。』

『要件定義、未完。』

『MVPで、勝つ。』

『句読点は、平和。』



ゆいが壁を見上げて、ぽつりと言った。



「先生……事務所の壁、だんだん宗教みたいになってません?」



「宗教じゃない。反省会だ」



さくらが、いつもの顔で机にファイルを置いた。

置かれた瞬間、紙が“毛”に見えるのは気のせいだろうか。



「先生。今日の相談、ペットです」



りながが目を輝かせた。



「ペット!?癒し回ですね!」



みおが付箋を貼る。



(① ペット)



「癒し回だと油断した時が一番危険です」



「どうして?」



「癒しは、書類と相性が悪いからです」



「え、癒しって書類と喧嘩する概念なの?」



あやのが、静かに頷いた。



「喧嘩します。飼い主の心と、締切とも」


相談者は、書類より先に“可愛い”を連れてくる


10時ちょうど。

ドアが開いて、入ってきたのは小柄な女性だった。

そしてその足元に――小さな犬。

柴犬っぽい、でも表情が妙に賢い。



女性は申し訳なさそうに言った。



「すみません、連れてきちゃって……

この子、置いていけなくて」



犬は堂々としている。

堂々としすぎて、事務所の誰より落ち着いている。



ゆいが即座にしゃがみ込む。



「こんにちは〜!え、なにこの子、天才顔……!」



さくらが一歩前に出て、ゆいを止めた。



「触る前に確認です。毛が、書類に落ちます」



「毛って、落ちますよね!?」



「落ちます。証跡として残ります」



「毛が証跡……!」



りながが、やけに感動した顔で言った。



「先生、今日のキーワード“証跡”が、毛で来るとは……」



「来なくていい」



女性が犬の頭を撫でながら言った。



「この子、“ゆず”って言います」



ホワイトボードのステッカーが、ちょうど 『柚木』 だったせいで、全員の視線が一瞬そっちに吸い寄せられた。



みおが、無意識に付箋を貼る。



(② ゆず/柚木=混乱)



「……名字の話かと思いました」



「犬です」



「犬の方が落ち着いてますね」



犬――ゆずが、みおを見て「当然です」と言いそうな顔をした。

言ってない。たぶん。


「うちの子、書類は苦手なんです」


女性は、封筒を出した。

中から出てきたのは、いろんな紙。

動物病院の控えっぽいもの、登録っぽい案内、ログインIDが書かれたメモ。



「えっと……これ、名義とか住所とか、いろいろ更新しないといけないって言われて……

でも、私、こういうの苦手で……」



そして、少し恥ずかしそうに笑った。



「うちの子、書類は苦手なんです」



一瞬の沈黙。



さくらが、静かに言った。



「……だいたい苦手なのは、飼い主です」



女性が「ですよね!」と即答した。



「そうなんです!この子は賢いのに、私が……!」



ゆずが、うっすら誇らしげに胸を張った。

見える。見えるだけ。



山崎先生は、できるだけ優しく言った。



「大丈夫。一般論として、ペット関連でも“登録情報の更新”や“名義・住所の整合”が必要になる場面はあるし、

実際に何が必要かは状況で変わるけど、ひとつずつ整理していこう」



あやのが、女性の表情を見てうなずく。



「“ひとつずつ”って言葉、安心しますよね」



女性がほっと息を吐いた。


名義変更は、だいたい“表記ゆれ”から始まる


相談の核は、こうだった。


引っ越した(住所が変わった)


結婚して姓が変わった(名義が変わった)


登録情報の更新をしようとしたが、ログインが通らない


そもそも“ゆず”の表記が、どれが正しいか分からない


ゆず


ユズ


柚子


Yuzu(なぜか英字)


りながが、画面を見ながら言った。



「先生、これ……典型的な“表記ゆれ地獄”です」



みおが、静かに付箋を貼る。



(③ 表記ゆれ)



ゆいが、犬の顔を見ながら言う。



「でも、ゆずちゃんは、どれでも可愛いです」



さくらが即答する。



「可愛いは入力値になりません」



「厳しい!」



山崎先生が笑って、女性に確認する。



「ゆずちゃんの登録上の表記、何になってますか?

更新する先の“元の情報”に揃えるのが早いことが多い」



女性はスマホを取り出し、メモを開いた。



「えっと……“YUZU”って書いてあります」



「英字なんだ」



りながが、妙に嬉しそうに言った。



「先生!英字は表記ゆれ減ります!たぶん!」



みおが冷静に返す。



「減りません。全角・半角で死にます」



「本当に……?」



「本当にです」



ゆずが、二人を交互に見て「人間は大変だな」と言いそうな顔をした。

言ってない。たぶん。


みおのチェックリストが、犬にも効く


整理が進むにつれて、みおの“儀式”が始まった。

付箋が、机の端に整列する。



(住所)

(氏名)

(登録表記)

(本人確認)

(委任の要否)

(提出方法:窓口/郵送/オンライン)



「先生、ここだけは先に決めます。

“どこに、何を、どう出すか”」



「うん、出口を決めるの大事」



あやのが女性に言う。



「分からないときは“いま何が分かってて、何が分からないか”を書き出すだけでも前に進みますよ」



女性は頷きながら、ゆずのリードを握り直した。

ゆずは、椅子の下にちょこんと座っている。



さくらが、ゆずを見て言った。



「この子、待てが完璧です」



女性が得意げに言う。



「ちゃんと訓練しました!」



さくらが女性の紙束を見て言った。



「飼い主も、訓練しましょう」



「ひどい!」


そして、来た。14:15


書類の“整合”を取るため、

女性の旧姓・現姓、旧住所・現住所、登録上の表記を一つの表に落としていく。



「いまの情報」

「登録上の情報」

「差分(どこが違うか)」



りながが言った。



「先生、差分管理ですね!」



みおが頷く。



「差分を潰すと、通ります」



「通るって何が」



「ログインです」



「現代だね」



そのとき、インターホンが鳴った。



ピンポーン。



みおが時計を見る。

りなも見る。

ゆいも見る。

あやのも見る。

さくらは、最初から見ている。



14:15



女性が小声で聞く。



「あの……毎日この時間に来るんですか?」



「だいたい来ます」



「何者なんですか?」



「まだ分かりません」



ゆずが「分からないなら吠えますよ?」という顔をした。

吠えない。賢いので。



ドアが開く。

キャップを深く被った人物。例の、謎の人。



低い声で、丁寧に言った。



「失礼します。……少しだけ」



視線が、机の上の“名義・住所・表記”の整理表に落ちる。



そして、今日の質問が来た。



「それ……名義、残る?」



女性が戸惑って、山崎先生を見る。



山崎先生は落ち着いて答えた。



「残します。

“何が違ってて、何を揃えるか”が分かる形で」



謎の人は、ほんの少し頷いた。



「整合が取れてるなら、いい。

名義は、未来の自分を助ける。――あと、窓口も助ける」



「窓口も助けるんだ」



謎の人は机に、駅名ステッカーを一枚置いた。



『長沼』



そして――もう一つ。

小さなUSBメモリを、コトンと置いた。



透明なケースに、黒い文字で書いてある。



「空」



ゆいが小声で言った。



「……空?なにそれ、怖い」



りながが反射でUSBを手に取る。



「先生、これ、証跡……?」



みおが止める。



「差していいか、まだ判断できません」



さくらが、USBを見て言った。



「先生。これ、触ると面倒が増えます」



「触らなくても増えてる気がする」



謎の人は最後に一言。



「じゃ。証跡、大事なんで」



そして去っていった。



ドアが閉まったあと、女性がゆっくり言った。



「……何の事務所なんですか、ここ」



山崎先生は真顔で答えた。



「行政書士事務所です」



「ですよね!?」


“ゆず”の書類は、結局“人間の整合”だった


女性の相談は、結論としてはシンプルになった。

“やること”は、増えなかった。

ただ、“揃えること”が見えただけで、ぐっと楽になった。



女性が整った表を見て、ぽつりと言う。



「……私、これだけで、もう少し頑張れそうです」



あやのが笑う。



「頑張るの、偉いです。

でも頑張りすぎると疲れるので、続く形にしましょう」



さくらが頷く。



「続くのが正義です」



りながが言う。



「ゆずちゃんの表記は、まず“登録上の表記”に寄せて、

自分の記録も統一、ですね!」



ゆいが、ゆずの頭を撫でたくてうずうずしながら言う。



「“ゆずちゃん、表記ゆれ卒業!”」



「広報、黙って(本日1回目)」



女性が笑って、ゆずのリードを握った。



「ゆず、帰るよ」



ゆずが立ち上がり、事務所のみんなを一周見てから、

まるで会釈するみたいに尻尾を一回振った。



……賢い。

これは確実に、飼い主より賢い。


そして“空”のUSB


相談者が帰り、事務所が落ち着いた。

ホワイトボードに『長沼』ステッカーが追加され、地図が一駅伸びた。



『新静岡』→『日吉町』→『音羽町』→『春日町』→『柚木』→『長沼』



りながが、机の上のUSBを見つめる。



「先生……差します?」



「差さない、とは言い切れないけど……今じゃない」



みおが付箋を貼る。



(④ USB:空)



さくらがプリンターを見て言った。



「先生、プリンターの方が先に反応しそうです」



その瞬間、プリンターが「ピッ」と鳴った。



「やっぱり!」



プリンターは勝手に動いて、紙を一枚吐き出した。



そこに印刷されていたのは、たった一行。



『空でも、フォルダは残る。』



全員が固まる。



ゆいが震える声で言った。



「……先生、プリンター、未来のこと言い始めました」



りながが小声で言う。



「フォルダ……?」



山崎先生は、深く息を吸って言った。



「……今日は、もう帰ろう」



みおが即答する。



「帰れません。明日もあります」



「現実が強い」



さくらが、ホワイトボードの「14:15」を見て言った。



「先生。これ、続きますね」



「続くんだろうね」



USBは、机の上で静かに光っていた。

“空”のくせに、存在感だけは重い。


今週のチェックリスト(一般論)


ペット関連の手続でも「登録情報(名義・住所・表記)」の整合が重要になりやすい


“表記ゆれ”は、更新や照合で詰まりやすい(登録上の表記に揃える/自分の記録も統一する)


迷ったら「今の情報」「登録上の情報」「差分」を表にして整理すると前に進みやすい


駅名ステッカー


1枚目:新静岡


2枚目:日吉町


3枚目:音羽町


4枚目:春日町


5枚目:柚木


6枚目:長沼


プリンター被害状況


USBの未来を予言(精神攻撃なのか支援なのか不明)


「空でも、フォルダは残る」を勝手に印刷(怖い)


次回予告


「クラウドに置けば大丈夫」

――“全部”って言葉、だいたい危ない。次回、クラウド移行は、書類より人が重い。

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