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山崎行政書士事務所物語(コメディ小説)第8話「委任状が未来から来た」

※本作はフィクションです。登場人物・出来事は創作であり、手続や書類に関する描写は一般的な範囲の表現です。個別の案件は事情により必要書類・手順が変わります。本作は特定の事案の結論や可否を断定するものではありません。

ホワイトボードの右上。駅名ステッカーが七枚、きっちり並んでいる。

『新静岡』『日吉町』『音羽町』『春日町』『柚木』『長沼』『古庄』

その隣に、みおが赤字で書いた呪文。

14:15

そして、その下に「プリンターの勝手に名言コーナー」。もう、壁がうるさい。

『それ、残ってない。』『でも、残せる。』『要件定義、未完。』『MVPで、勝つ。』『句読点は、平和。』『空でも、フォルダは残る。』『クラウドは場所じゃない。運用だ。』

ゆいが壁を見上げて、ぽつりと言った。

「先生……壁が“人格”持ち始めてません?」

「持ってない。持ってるのは反省」

さくらが、机にファイルを置いた。置き方が、完全に“嫌な予感”のそれだ。

「先生。今日は委任状です」

りながが、反射で言った。

「委任状!昨日の“原本がプリンターに人質”の続編ですか!?」

「続編にしないで」

みおが付箋を貼る。

(① 委任状)

そして続けて、もう一枚。

(② 日付)

山崎先生は、嫌な予感の正体を悟った。

「……日付、やらかした?」

さくらが、静かに頷いた。

「やらかしてます。未来です」

「未来」

「未来」

「未来って言った」

相談者は、明るく“時空のズレ”を持ってくる

10時ちょうど。ドアが開いて、前に来たことのある男性が入ってきた。(あの、役所で“またお越しください”を受けた人だ。人は弱い。役所は強い。)

「先生!この前はすみませんでした!今日は“原本”持ってきました!」

男性は、誇らしげに封筒を差し出した。確かに、封筒の中には立派な紙。署名も押印もある。

あやのがにこやかに言う。

「原本、持ってこれたの大きいですね。前進です」

男性が頷く。

「はい!前回の反省を活かして…!」

さくらが、その紙を目で追う。たった一秒。

「先生」

「うん」

「日付が、明日です」

「……明日?」

男性が首を傾げた。

「え?だって、役所に行くの明日じゃないですか」

山崎先生は、ゆっくり深呼吸した。“結論は急がない、事実を揃えよう”。自分に言い聞かせる。

「なるほど。明日に提出するから、明日の日付にした、と」

「はい!縁起も良いかなって!」

ゆいが、なぜか乗る。

「未来日付、縁起良さそう!」

みおが即座に遮断する。

「縁起で手続は通りません」

りながが小声で囁く。

「縁起より整合…縁起より整合…(学習)」

山崎先生は、男性に向き直って言った。

「一般論としてね。書類って“いつ作ったものか”が整っていることを求められる場面が多いんだ。提出日と作成日が同じとは限らないし、窓口の運用もある」

男性が、しょんぼりする。

「未来日付って…ダメなんですか?」

山崎先生は、優しく、でもはっきり言った。

「縁起より、整合性です」

さくらが頷く。

「整合性です」

みおも頷く。

「整合性です」

ゆいだけが、遅れて頷く。

「……整合性、キャッチコピーに使えます?」

「使うな」

“日付”は、紙より強い

男性は困った顔で言った。

「じゃあ…これ、どうしたら…?」

山崎先生は、さくらとみおを見る。この二人が揃っているとき、選択肢はだいたい“安全側に倒す”だ。

さくらが言う。

「書き直しです」

男性が青ざめる。

「えっ、書き直し…?」

みおが補足する。

「“訂正”でいけるかは、窓口や書面の扱いで変わることがあります。なので、ここでは“きれいに作り直す”が安全です」

りながが、なぜか元気よく言った。

「先生!テンプレあります!最小構成で!」

みおが釘を刺す。

「“最小構成”でお願いします。盛らない」

「盛りません!」

ゆいが、うっかり口を挟む。

「盛ると映えますけどね」

さくらが目線だけで止める。

「広報、黙ってください」

「はい……」

男性は苦笑いした。

「なんか、ここに来ると…“言い訳”が全部剥がされる感じしますね」

あやのがやさしく言った。

「剥がすのは言い訳じゃなくて、“不安”かもしれないです。ちゃんとしたいって気持ちが強いほど、日付って迷いますよね」

男性が頷いた。

「そうなんです。ちゃんとしたくて…」

みお、“時間軸チェックリスト”を作り始める

委任状の書き直しが決まった瞬間、みおの目が光った。あ、来る。

みおが付箋を貼り始める。

(作成日)(提出日)(署名日)(押印日)(印影の乾燥時間※?)

「ちょっと待って、最後なんだ」

りながが笑いながら止める。

「印影の乾燥時間、チェックするんですか?」

みおが真顔で言う。

「焦って触って滲む人がいます」

「いるね…」

さくらが淡々と追撃する。

「滲んだ印影は、戻りません」

「怖い」

山崎先生は笑って、みおの手を止めた。

「時間軸チェックリスト、気持ちは分かる。でも“現場が回る形”にしよう。チェックリストは軽く」

みおが、しぶしぶ付箋をまとめる。

「……軽量版にします」

ゆいが小声で言う。

「軽量版チェックリスト、販売できます?」

「販売するな」

プリンター、時空に口を出す

印刷に入る。ここが、最大の不確定要素だ。プリンターは“書類”より“気分”で動く。

りなががプリンターに向かって、祈るように言った。

「お願い…今日は素直に出て…」

プリンターが「ピッ」と鳴った。嫌な鳴り方だ。

ウィーン。紙が吐き出される。

……日付欄に印字されているのは、なぜかまた“明日”。

りながが叫ぶ。

「なんで!?テンプレは今日なのに!!」

みおが静かに言った。

「PCの時刻、ズレてます」

さくらが言う。

「先生。今、事務所の時空がズレてます」

ゆいが、なぜか嬉しそうに言う。

「時空がズレる行政書士事務所……」

「広報、黙って(本日1回目)」

山崎先生は、SEの顔になった。(本人は否定しているが、なっている。)

「時刻同期、切れてる?」

りながが画面を見て固まる。

「先生…PCの時計、明日になってます…!」

「犯人、PCだったか」

みおが付箋を貼る。

(③ NTP的な何か)

「NTPって言いたいだけでしょ」

「言いたいです」

さくらが冷静に言う。

「先生。時刻を直しましょう。未来から戻しましょう」

「戻そう」

時刻を合わせ、再印刷。今度は、ちゃんと今日の日付が入った。

りながが、小さくガッツポーズ。

「帰ってきた…現代に…!」

男性が笑った。

「すごい…未来から帰還した委任状…」

山崎先生は、ここで決め台詞を言うべきだと悟った。

「委任状は、タイムマシンじゃない」

さくらが頷く。

「書類は、現実です」

そして来る、14:15

書き直した委任状に、男性が署名と押印をする。今度は、日付も整う。表記も整う。“またお越しください”の気配が、少し遠のく。

そのとき、インターホンが鳴った。

ピンポーン。

みおが時計を見る。全員が見る。

14:15

男性が目を丸くした。

「え…この時間、何かあるんですか?」

あやのが、穏やかに言う。

「“毎日来るかもしれない人”が来る時間です」

「何それ怖い」

ドアが開く。キャップを深く被った人物。例の、謎の人。

低い声で、丁寧に。

「失礼します。……少しだけ」

視線が、机の上の委任状に落ちる。そして、今日の質問が来た。

「それ……日付、残る?」

男性が反射で答えた。

「残ります!今日は今日です!」

謎の人は、ほんの少しだけ頷いた。

「未来日は、縁起じゃない。“いつ作ったか”がズレると、証跡がズレる。証跡がズレると、人が困る」

みおが、静かに頷く。

「人が困るのが一番コスト高い」

「コストで言うな」

謎の人は机に、駅名ステッカーを一枚置いた。

『県総合運動場』

そして、もう一枚。小さなメモ用紙。

そこには、ただ数字が書いてあった。

14:15

……二枚目だ。

りながが震える声で言った。

「先生…14:15が…増えました…」

謎の人は最後に言う。

「じゃ。証跡、大事なんで」

そして去っていった。

ドアが閉まったあと、男性がぽつり。

「……あの人、何者なんですか?」

山崎先生は真顔で言った。

「分かりません。でも、時刻に厳しい人です」

さくらが補足する。

「たぶん、あなたより」

「僕より!?」

オチ:縁起より整合性、そしてプリンターは勝ち誇る

男性が帰った後。ホワイトボードに『県総合運動場』が追加され、ステッカーが八枚になった。

そして、赤字の 14:15 の横に、二枚目のメモが貼られた。時刻が、“仕様”として固定された感じがする。嫌だ。

その瞬間、プリンターが「ピッ」と鳴った。またか。

ウィーン。吐き出された紙には、一行だけ。

『時刻は仕様。ズレは障害。』

りながが言った。

「先生…プリンター、完全に現場監督…」

みおが付箋を貼る。

(④ 時刻=仕様)

ゆいが、うっとりした顔で言う。

「“ズレは障害”……刺さる……」

「刺さってる場合じゃない」

さくらがプリンターに言った。

「今日は…褒めません。調子に乗るので」

プリンターは返事をしない。でも、なぜか“勝った顔”をしている気がした。

山崎先生は壁を見上げて、ため息をついた。

「……次は、昼休みトラップの前に全部整えておこう」

みおが即答する。

「はい。今度は“時空整合”込みで」

「言い方」

今週のチェックリスト(一般論)

  • 委任状などの書面は、日付・署名・押印・表記の整合が重要になりやすい(扱いは手続・窓口で異なる)

  • “提出日”と“作成日(署名日)”を混同しやすいので、目的と運用を先に確認すると迷いが減る

  • テンプレの自動日付入力は便利だが、PC時刻・タイムゾーンのズレで事故ることがある(印刷前チェックが効く)

駅名ステッカー

  • 1枚目:新静岡

  • 2枚目:日吉町

  • 3枚目:音羽町

  • 4枚目:春日町

  • 5枚目:柚木

  • 6枚目:長沼

  • 7枚目:古庄

  • 8枚目:県総合運動場

プリンター被害状況

  • PC時刻ズレに便乗して未来日付を印刷(共犯)

  • 「時刻は仕様。ズレは障害。」を勝手に印刷(正論で殴る)

次回予告

昼休みで全てが止まる。そして、ポスターが“なぜか”一枚だけズレている。次回、「昼休みトラップと、ポスター貼り替え犯」

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