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山崎行政書士事務所物語(コメディ小説)第9話「昼休みトラップと、ポスター貼り替え犯」

※本作はフィクションです。登場人物・出来事は創作であり、手続や書類に関する描写は一般的な範囲の表現です。個別の案件は事情により必要書類・手順が変わります。本作は特定の事案の結論や可否を断定するものではありません。

ホワイトボードの右上には、もう駅名ステッカーが八枚並んでいる。

『新静岡』『日吉町』『音羽町』『春日町』『柚木』『長沼』『古庄』『県総合運動場』

その隣に、みおが赤字で書いた呪文が、二重に増えている。

14:1514:15

「先生……時刻が二重って、どういう仕様ですか?」

りなが、真顔で聞いた。

「仕様じゃない。現象だ」

さくらが淡々と言う。

「先生。今日の外出、昼休みを避けます」

「うん。今日は避ける」

みおが付箋を貼る。貼り方が儀式。

(① 昼休み回避)(② 受付時間)(③ 原本)(④ 時刻整合)

「先生、今日は“昼休みトラップ”に勝ちます」

ゆいがポスター筒を抱えたまま、変なテンションで言った。

「勝利条件は“差し戻されない”でしたよね!」

「勝利条件を増やすな」

机の端には、例のUSB。

透明ケース、黒文字で 「空」

さくらがそれを見て、一言。

「先生。今日も刺しません」

「刺さない。たぶん」

「“たぶん”は不安です」

ダンジョンに行く前に、チェックリストで自己暗示

出発直前、みおが“軽量版チェックリスト”を読み上げた。

「はい、先生。声出し確認です。原本、日付、押印、表記ゆれ、受付時間、昼休み、帰りの郵便局。以上」

「声出し確認、工場みたいになってきたね」

「工場は事故が減ります」

「言い方が現場」

りながが小声で言う。

「先生、昼休み回避って、いわば“メンテ時間”を避ける…」

「言いたいことは分かる。口には出さないで」

ゆいが、ポスター筒を肩に担ぎ直す。

「先生、役所の前に、駅サイネージの“貼り具合”見ていいです?」

「貼り具合って何」

「ポスターの魂の入り具合です」

「魂を貼るな」

役所は今日も“静かな圧”を出してくる

静鉄に乗って、数駅。車内の静けさが、今日も真面目だ。

みおが窓の外を見ながら言った。

「先生。前回の反省を踏まえて、今日は“受付開始直後”に番号札を取ります」

「強い意志」

「昼休み前に呼ばれることが勝ちです」

「勝ちの定義が渋い」

役所に着く。番号札発券機が、無言で待っている。

みおが迷いなくボタンを押す。

ピッ。

『B-103』

「……100番台、早い方?」

りながが恐る恐る聞く。

「今日は早いです」

「世界線が違う……!」

しかし、役所は油断した瞬間に刺してくる。

B-101。B-102。B-103――

「B-103番の方、3番窓口へどうぞ」

みおが息を吸う。

「来ました。昼休み前です」

3番窓口の奥には、あの存在がいた。窓口の守護者。言葉が丁寧で、質問が鋭い人。

守護者は微笑んで言う。

「お待たせいたしました。ご用件を伺いますね」

山崎先生は、用意した紙を順に出す。原本。控え。本人確認。整理メモ。

守護者は紙を揃え、目だけで読む。そして、言う。

「こちらの…“必要な部分”は、揃っていますね」

その言い方が、怖い。“必要じゃない部分”が存在する世界。

山崎先生が、ほっとした瞬間――

館内放送が来た。

「ただいまより、窓口は昼休みに入ります」

守護者は声の温度を一切変えずに言った。

「恐れ入ります。本件の処理は、午後に続けますね」

りながが崩れ落ちそうな声を出す。

「あと、数分だったのに……!」

みおが拳を握る。

「仕様が強い……」

「仕様って言うな」

守護者は、笑顔のまま一言添えた。

「午後もお待ちしております」

……それ、帰す前提じゃない?帰らせない前提の優しさ、怖い。

昼休み、空白時間が“事件”を呼ぶ

役所のロビーで待つ。時間が、やけに長い。

ゆいがぽつりと言った。

「先生、こういう空白時間って、連載だと事件が起きません?」

「やめて、メタ発言」

りながが机の端のUSBのことを思い出した顔をする。

「“空”って、こういうこと……?」

みおが冷静に返す。

「空白は、事件の温床です」

さくらが言う。

「先生。空白時間、使いましょう」

「何に」

ゆいが、待ってましたとばかりに手を挙げた。

「ポスターの“貼り具合”チェック!」

「魂のやつか」

「魂です」

結局、昼休みの間に、駅へ向かうことになった。役所の空気より、駅の空気の方がまだ人間に優しい。

ポスターが、なぜか“一枚だけ”ズレている

駅の掲示スペース。ゆいが貼ったポスターが、整然と並んでいる――はずだった。

ゆいが、固まった。

「……え?」

そこにあったのは、明らかに違和感のある一枚。

一枚だけ、3ミリくらいズレている。

「……誰が……?!」

ゆいの声が震える。

りながが一歩近づく。

「先生、ズレ、見えます。ズレが、意思を持ってる」

「ズレに意思を持たせるな」

さくらが、ポスターの角を見て言った。

「角が0.5ミリ浮いてます」

「その精度、怖い」

みおが付箋を貼る。

(⑤ ズレ=障害)

ゆいが、低い声で言った。

「貼り替え犯がいます……!」

「貼り替え犯って、誰」

「だって!昨日はちゃんと貼ったもん!」

さくらが淡々と提案する。

「剥がして、貼り直しましょう」

ゆいが、慎重にポスターを少しだけめくった。

そして――全員が固まった。

ポスターの裏。掲示板の面に、薄く残る“丸い跡”。

印鑑の印影みたいな、うっすらした跡。

りながが息を飲む。

「……印……?」

みおが、顔を近づけて言った。

「これは…テープの跡じゃありません。印です」

ゆいが小声で言う。

「犯人、いる……!」

山崎先生は、冷静に言った。

「決めつけない。まず観察」

さくらが、ぽつり。

「先生。これ…見覚えがない印です」

「それが、怖いんだよね」

そして来る。14:15

そのとき、駅の時計が目に入った。全員、同時に見た。

14:15

「……来る」

りながが、息だけで言う。

背後から、低い声。

「失礼します。……少しだけ」

振り向くと、キャップを深く被った人物――あの謎の人が立っていた。

視線が、ズレたポスターに落ちる。そして、今日の質問はこう来た。

「それ……掲示、残る?」

ゆいが反射で答えた。

「残します!残して…目立たせます!」

さくらが即座に修正する。

「目立たせません。固定します」

謎の人が、わずかに頷く。

「ズレは、意図じゃないこともある。犯人探しより、固定方法を見直せ。——物理は嘘をつかない」

「物理は嘘をつかない、刺さる」

謎の人は、掲示板の端を指で軽く押した。そして、ぽつり。

「ここ、温度で伸びる」

みおが目を丸くする。

「……テープの粘着が落ちる温度帯…」

「まさか」

謎の人は机――じゃない、掲示スペースの下の棚に、駅名ステッカーを一枚置いた。

『県立美術館前』

そして、あの印影を一瞬だけ見て、何も言わずに背を向けた。

「じゃ。証跡、大事なんで」

去っていく背中を見ながら、ゆいが呟く。

「……今の人、犯人じゃないんですか?」

山崎先生は正直に言った。

「分からない。でも“犯人”っぽい動きはしてない。……たぶん」

さくらが言う。

「“たぶん”は不安です」

「だよね」

オチ:犯人は“テープ”だった(でも、印は残った)

みおの提案で、ポスターを貼り直す。テープを新しいものに替える。角をしっかり固定する。

すると、ズレは消えた。あっけないほど、スッと。

ゆいが、拍子抜けした顔で言う。

「……犯人、テープ……?」

りながが頷く。

「物理は嘘をつかない……」

さくらが淡々と付け足す。

「でも、印は残りました」

全員の視線が、うっすら残った印影へ戻る。テープの話なら終われた。でも、印影は終わらない。

山崎先生は、静かに言った。

「……これは、いったん“残す”案件だね」

みおが付箋を貼る。

(⑥ 謎の印影)

ゆいがホワイトボードに『県立美術館前』ステッカーを貼る。地図が、一駅伸びた。

そして、役所へ戻る。

午後の窓口で守護者が微笑む。

「お待たせいたしました。続き、進めますね」

今度は止まらない。昼休みを越えて、手続きが前に進む。

山崎先生が、心の中で小さくガッツポーズをした瞬間――プリンターが事務所で待っていたかのように、帰ってから“ピッ”と鳴った。

ウィーン。吐き出された紙は一枚。

『犯人:テープ。証跡:印。』

りながが震えた声で言う。

「先生……プリンター、まとめるの上手……」

みおが真顔で言った。

「議事録担当にしたいです」

「やめて。調子に乗る」

さくらがプリンターに言う。

「今日は…褒めません。調子に乗るので」

プリンターは返事をしない。でも、なぜか“勝った顔”だけはしている気がした。

今週のチェックリスト(一般論)

  • 役所の窓口は昼休み・受付時間で止まることがあるため、時間設計(前倒し・余裕)が効く

  • “犯人探し”より先に、まず事実の確認(何がズレた/どこが浮いた/何で固定していた)

  • 掲示物などの物理作業も「証跡(状態)」を残すと再発防止になる(貼り方・素材・温度など)

駅名ステッカー

  • 1枚目:新静岡

  • 2枚目:日吉町

  • 3枚目:音羽町

  • 4枚目:春日町

  • 5枚目:柚木

  • 6枚目:長沼

  • 7枚目:古庄

  • 8枚目:県総合運動場

  • 9枚目:県立美術館前

プリンター被害状況

  • 「犯人:テープ。証跡:印。」を勝手に印刷(まとめ力だけ高い)

  • ただし信用はしない(前科が多い)

次回予告

「監査の前に、監査ごっこをしよう」——本番より怖い“予行演習”が始まる。次回、「監査ごっこは本番より怖い」

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