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虹色に沈む太陽――チューリップ畑の夕暮れ

  • 山崎行政書士事務所
  • 2月3日
  • 読了時間: 2分

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 春の風が穏やかに吹く中、オランダのチューリップ畑が広がる一帯に足を踏み入れると、まるで虹色の絨毯を敷き詰めたかのような光景が目の前に飛び込んでくる。赤、黄、ピンク、紫――四方に連なる色彩の帯が、地平線へと続いているのだ。

 そして日が傾き始めると、青い空がゆるやかにオレンジや薄紫へと変化し、花の色合いもさっきまでの鮮やかさから、やさしいパステル調へと移り変わっていく。はじめは控えめだった太陽の朱色が、次第に空を支配していくにつれ、チューリップの花びらには金色の縁(ふち)が浮かび上がるように見えた。

 畑の間を通る細いアスファルトの道を歩きながら、土の香りと花の甘い匂いが混ざり合う空気を胸いっぱいに吸い込むと、心の奥で自然が囁(ささや)くような気がする。「こんな場所にくれば、毎日夕陽を追いかけていたい」と。遠くのほうでは、風車がゆっくりと羽を回し、静かな地上の光景を見守っているかのようだ。

 やがて、太陽が地平線に近づいてくると、畑を彩っていた色の帯が淡くなり、花びらの先に落ちる影がいっそう長く伸びる。雲がほんの少し赤紫に染まり、まるで空全体が一枚の絵画になったように見える。花の列に挟まれて立ち止まれば、今まさに沈みゆく太陽が辺りを黄金色に照らし、眩しさと神秘とが一体となって胸に迫ってくる。

 ふと足元を見下ろすと、チューリップの間を小さな虫が行き交い、やさしい風が花びらを揺らしている。その音はかすかなざわめきとなり、足早に夜へと向かうこの大地の鼓動を伝えてくれる。最後の光が溶けるように畑を離れていく瞬間、花たちは日中の色彩を名残惜しそうに保ちながら、夕闇を待ち受ける。その姿はまるで「また明日も美しく咲き誇るからね」と微笑んでいるようにも見えた。

 日が完全に沈むと、畑は静寂に包まれ始め、濃い藍色の空には星がちらほらと顔を出す。虹色だった絨毯は月明かりの下で仄暗いシルエットとなり、涼しい夜の風が花びらにそっと触れて、やさしく揺らしている。まるで、夕陽が染め上げたその輝きを花たちが大切に心に抱き、また次の日の朝、空を彩るために備えているのだろう。

 オランダのチューリップ畑の夕陽――それは、一瞬の魔法が花と大地に降り注ぐ時間。訪れる者の心を静かに満たし、やさしい色彩と思い出を抱かせてくれる。もし、この光景を目にする機会があるなら、そっと立ち止まり、その一瞬の奇跡を花々と共に迎えてみてほしい。夕闇に溶け込む虹色の残像が、あなたの胸に深く刻まれるはずだ。

(了)

 
 
 

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