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銀河はじまりの原野――ビッグバン幻想


 その夜、わたくしたちは宇宙のふちを旅していた。といっても、時間も空間もぐるりと溶けているから、どこを見ても星も影も見えない真っ暗闇なのだ。けれども、耳をすますと、すごく遠くのほうで、ほんの小さな鼓動みたいな音がしていた。 それはまるで、まだ生まれていない宇宙の心臓が、ちいさく「どきん……どきん……」と拍動しているかのよう。わたしたちはその拍動のリズムを辿って、黒い霧をかきわけながらそっちへ向かっていった。

 すると突然、視界の奥で、小さな火花のような光がひとつ弾ける。「ぱちり」というかすかな音が聞こえたと思うと、猛烈な閃光と衝撃が一気に渦を巻き、巨大な嵐のようにあたりを制圧してしまう。 もう何が起こっているのか、目も耳も追いつけない。わたしたちはその閃光に飲み込まれ、そこから散らばりはじめた無数の微粒子や火の玉の奔流にただただ見惚(みと)れてしまった。金色や蒼色や紅色の、いまだ名前もない色彩が、怒涛のように空間を満たす。

 その最初の一瞬こそが――あとに宇宙の始まりと呼ばれるビッグバンだったのだろう。何千億という星の種が、ここでいっせいに放たれては、駆け回り、くるくる回転し、それぞれの道すじを綾なしていった。 わたしはその群れの中にうっすらと、銀河の束(たば)が何本も交差しているのを見つける。まるで何十万億本もの琴の弦が張られているみたいに、光が震え、振動し合いながら宇宙の調べを奏で始めるのだ。

 圧倒的な光の洪水と、まだ言葉も定まらないような轟音の渦のなかで、わたしは一粒の微粒子に声をかけた。 「あなたはこれから、どんな星になるの?」 微粒子はくるりと回って、おどけるように一瞬だけ輝いた。 「ぼくは、ずっと先の未来。青い星の海辺で、誰かの砂粒になるかもしれないよ」 それだけ言うと、微粒子は火の粉とともに消えていった。 ――どこまでも遠い、大いなる流れの中に。

 こうして始まった宇宙。そのはじめの音は、ひょっとするといまも続いているのかもしれない。いくつもの星雲や銀河を花火のように咲かせながら、わたしたちの目に見えないところで、宇宙はまだ成長しているのだ。 ビッグバンの閃光はもう見えなくなっても、きっと、深遠な夜空の底にはその余韻が静かに響いている。わたしたちが耳をすませば、その無窮の心臓の鼓動を、かすかに聴き取ることができるのではないか――そう感じてならない。

(了)

 
 
 

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