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新規化学物質の届出・申出、少量新規、低生産量新規、既存化学物質該当性確認、製造・輸入前整理


化審法対応は、単なる「役所に出す書類作成」ではありません。実務では、その物質が何者か、どの数量枠で動かすのか、誰が使うのか、どこで環境へ出るのか、いつから製造・輸入できるのかを、研究開発、購買、製造、品質保証、営業、物流、通関の全員でそろえる作業です。

特に化学メーカーでは、研究者が「このCAS番号で既存物質です」と言い、購買が「海外サプライヤーは既存と言っています」と言い、営業が「来月から顧客評価用に出したい」と言う一方で、実際には化審法上は新規化学物質だった、少量枠を超えていた、用途証明が取れていなかった、MOLファイルの構造が実物と違っていたという事態が起こります。

以下では、山崎行政書士事務所が化学メーカーを支援する際の実務像として、最新の公的情報を踏まえ、化学者の視点と現場で起こりがちな匿名化・複合化した事例を交えて整理します。

1. まず押さえるべき最新動向

2026年5月時点で重要なのは、令和8年対応の電子申請・申出環境の変更です。METIの通常新規化学物質ページでは、令和8年4月24日改訂の新規届出マニュアルが公表され、有害性情報報告に関する記載、届出書・申出書の留意点、軽微修正承諾書などが更新されています。

また、令和8年度以降の電子申請では、従来の申出者コード・届出者等コードから、順次GビズIDの利用に移行します。化審法申請で使えるのはGビズIDプライム又はGビズIDメンバーで、GビズIDエントリーは使えないため、電子申出を行う企業は早めの取得が必要です。

現場では、この変更が地味に大きいです。研究開発部門が少量新規の申出準備を終えていても、総務・法務側でGビズIDの権限設定が終わっていないと、受付期間内に出せません。低生産量新規の令和8年度手引きでも、受付期間外は受理されず、令和8年度はシステム移行により例年と異なる日程になる旨が明記されています。

2. 化審法対応の出発点は「この物質は何か」

化審法の最初の論点は、既存化学物質か、新規化学物質かです。NITEのFAQでは、CAS番号や化学物質名称でNITE-CHRIPを検索し、化審法官報整理番号が確認できれば既存化学物質又は公示済み化学物質、確認できない場合は新規化学物質の可能性が高いと説明されています。

ここで注意すべきなのは、CAS番号があることと、化審法上既存であることは同じではないという点です。CASは化学情報管理上の識別番号であり、化審法官報公示名称の範囲とは必ずしも一致しません。NITEも、CAS番号検索で化審法官報整理番号が出ない場合でも、名称検索を行う必要があるとしています。

化学者の視点では、ここが最も危険です。たとえば、同じ「アルキル置換体」でも、官報公示名称がC1〜C18を含むのか、C12〜C18だけなのか、直鎖だけなのか、分岐を含むのかで結論が変わります。高分子では、構成モノマー、重合方法、分子量範囲、官能基、末端構造が効いてきます。NITEは、名称検索では官能基などのキーワードを用いた部分一致検索、ワイルドカード検索、化審法カテゴリでの絞り込み、高分子については構成単量体と重合方法からの確認を推奨しています。

3. 通常新規化学物質の届出

通常新規は、化審法対応の「本丸」です。令和8年4月24日改訂の新規届出マニュアルでは、第3条第1項に基づく届出を「新規化学物質を国内において製造又は輸入しようとする場合に行う届出」と位置付けています。

手続きの流れは、予備審査用資料の提出、公示名称に関する指摘事項対応、予備審査、審議会用資料提出、届出書等提出、審議会審議、指摘対応、判定通知の受取という段階を踏みます。予備審査とは、審議会に先立ち厚生労働省、経済産業省、環境省が行う予備的な審査です。

通常新規で重要なのは、試験データの質です。分解度試験では、BODチャート、試験容器ごとのBOD測定結果、親物質・変化物の直接分析結果、生成率、仕込み理論値、物質収支、分解度、回収率、考察などの記載が求められます。

濃縮度試験では、濃縮倍率、水槽実測濃度、魚体分析方法、回収率、蓄積性に関する考察などが重要です。新規届出マニュアルは、Ames試験、染色体異常試験、28日間反復投与毒性試験、藻類・ミジンコ・魚類などの生態毒性試験についても、毒性値やNOAEL、観察症状、統計解析手法などを具体的に記載するよう求めています。

現場で起こること:試験報告書は「数字」だけでは足りない

匿名化した複合事例です。

ある樹脂添加剤の新規届出で、分解度試験のBOD値は低く、「難分解」と見ること自体は難しくありませんでした。しかし、LC-MSで親物質が減少し、未知の変化物ピークが出ていました。研究部門は「親物質が消えたなら分解しているのでは」と考えましたが、化審法審査では、親物質が消えたことと、環境中で安全な物質にまで分解したことは別問題です。変化物の構造推定、物質収支、直接分析の妥当性を説明できなければ、審査資料として弱くなります。

化学者として見ると、ここで必要なのは「規制対応のための作文」ではなく、反応経路の仮説です。加水分解か、酸化か、光分解か、微生物代謝か。芳香環が残るのか、ハロゲン化側鎖が切れるのか、イオン性変化物になるのか。環境中の移動性、吸着性、生物蓄積性まで見ないと、審査上の説得力が出ません。

4. 少量新規化学物質の申出

少量新規は、研究開発や顧客評価段階で非常によく使われる制度です。令和8年度版の手引きでは、新規化学物質について、一事業者の製造・輸入予定数量及びその予定数量から算出される環境排出数量の全国合計が、それぞれ年間1トン以下であることについて主務大臣の事前確認を受ければ、届出・審査が免除され、製造・輸入が可能となる制度と説明されています。

ただし、少量新規の確認は、その確認を受けた年度に係る製造・輸入に限られます。製造・輸入を行う年度ごとに申出し、確認を受ける必要があります。複数の申出者が同一物質を申し出た場合、環境排出数量の全国合計が年間1トン以下となることを前提に確認され、既に全国合計が1トンに達している場合は不確認となります。

少量新規の申出では、申出書、用途証明書、構造式ファイルが共通して必要です。電子申出ではe-Govを通じて提出し、申出システムで申出書を作成する形式が推奨されています。

少量新規の実務で危ない点

少量新規の「1トン」は、営業が顧客に出荷する数量だけではありません。製造数量又は輸入数量として見ます。評価用サンプル、予備在庫、歩留まり調整、別用途向け試作品、海外からの再輸入などが合算されます。

さらに、数量だけでなく、用途別の環境排出数量も問題になります。手引きでは、環境排出数量は「製造・輸入数量×環境排出係数」で算出され、環境排出係数は48分類の用途ごとに設定されるとされています。用途証明書は、使用者が用途を特定する書類として発行したものを入手し、確認を受けた翌年度から3年間保存することが求められています。

現場で起こること:営業案件の積み上げで1トンを超える

匿名化した複合事例です。

研究所では「今年は顧客Aに300kg、顧客Bに200kg、合計500kgだから少量で大丈夫」と判断していました。ところが営業部門のCRMを見ると、別の部署が同じ物質を「別グレード名」で顧客Cに400kg提案していました。さらに品質保証用の安定性試験、顧客クレーム時の代替サンプル、海外委託先からの戻り品を含めると、年度内の輸入・製造見込みが1トン近くまで膨らんでいました。

このようなケースでは、社内で物質名が統一されていないことが致命傷になります。「開発コード」「商品名」「CAS番号」「社内原料コード」「海外サプライヤー名」が別々に管理されていると、少量新規の数量管理は崩れます。山崎行政書士事務所が支援する場合は、まず物質キーを1つに統合する台帳を作ります。

5. 低生産量新規化学物質の申出

低生産量新規は、少量新規の1トン枠では足りないが、本格量産前の段階にある物質で重要です。令和8年度版の低生産量新規手引きでは、新規化学物質の届出で難分解・低濃縮性との判定を受けた場合で、一事業者の製造・輸入予定数量及び環境排出数量の全国合計がそれぞれ年間10トン以下であることについて事前確認を受けることにより、製造・輸入が可能となる制度とされています。

低生産量新規は、少量新規と違い、まず判定通知を取得した上で数量確認申出を行う構造です。METIの低生産量新規ページでも、判定通知を取得した上で申出手続を行うことが明記されています。

確認は年度ごとであり、複数申出者から同一物質の申出がある場合、環境排出数量の全国合計が年間10トン以下となることを前提に確認されます。また、低生産量新規として判定を受けた物質は、少量新規として申出を行うことはできません。

低生産量新規の申出では、申出書、用途証明書、低生産量新規判定通知書が共通して必要です。用途証明書は立入検査で確認される可能性があるため、低生産量新規の確認を受けた翌年度から3年間保存することが求められています。

現場で起こること:商社の用途証明では足りない

匿名化した複合事例です。

ある機能性モノマーについて、メーカーは低生産量新規での輸入を予定していました。販売ルートは、海外メーカー、日本の輸入商社、国内販売代理店、最終ユーザーという構造でした。申出担当者は、販売代理店から「接着剤用途」と書かれた用途証明を受け取りました。

ところが、手引きでは「使用者」は工業的に使用する調合品又は製品を製造する者等が想定され、いわゆる商社は使用者には当たらないとされています。商社が化学物質又は調合品を輸出する場合には輸出用の用途証明書を作成できるものの、通常の国内用途では、実際の使用者側の証明が必要になります。

この場合、最終ユーザーから用途証明を取り直す必要がありました。しかし、最終ユーザーは配合処方を開示したくない。ここで行政手続と営業秘密が衝突します。実務上は、用途分類に必要な範囲だけを切り出し、営業秘密に踏み込みすぎない文案を作成することが重要です。

6. 既存化学物質該当性確認

既存化学物質該当性確認は、化審法対応で最も地味ですが、最も事故が起こりやすい領域です。NITEは、既存化学物質や公示済み化学物質の場合には化審法官報整理番号が表示され、番号があれば新規化学物質の届出は不要と説明しています。ただし、製造・輸入時には、第一種特定化学物質、第二種特定化学物質、監視化学物質、優先評価化学物質、一般化学物質の分類に応じた対応が必要です。

輸入実務では、税関や通関業者から化審法番号の記載を求められることがあります。NITEは、化審法番号が見つかった場合はインボイス等に番号を記載して手続きを進める一方、番号が見つからない場合は新規化学物質の可能性が高く、試薬・試験研究等の届出不要要件に該当する場合を除き、製造又は輸入前に届出等が必要になると説明しています。

化学者目線で見る「既存該当性」の落とし穴

既存該当性確認では、以下のような点を化学構造レベルで確認します。

第一に、混合物は成分ごとに見る必要があります。潤滑油、インキ、接着剤、界面活性剤配合品、樹脂溶液などは、製品名で1つに見えても、化審法上は構成成分を確認する必要があります。NITEも、潤滑油のような化学製品について、構成するそれぞれの化学物質に分けて番号検索する考え方を示しています。

第二に、包括名称に含まれる範囲を確認する必要があります。NITEは、炭化水素基について「アルキル」という包括名称で登録されている可能性や、高分子化合物が構成単量体と重合方法により命名されている可能性を指摘しています。

第三に、不純物・副生成物です。NITE FAQでは、含有割合が1重量%未満の不純物については新規化学物質の届出は不要と説明されていますが、不純物とは未反応原料、反応触媒、指示薬、副生成物などを指します。逆に言えば、1重量%以上含まれる新規成分や、意図的に配合した成分を「不純物」として扱うのは危険です。

第四に、試験研究か商業利用かです。試験研究のために新規化学物質を製造・輸入する場合は届出不要とされていますが、その一部でも商業的に他の化学物質又は製品の製造に供される場合は届出が必要になります。テストプラントであっても、評価・研究の範囲を超えて商業用途へ移る瞬間に判断が変わります。

7. 化学者としての実感:化審法は「構造式」ではなく「物質の運命」を見る制度

化審法は、構造式だけを提出する制度ではありません。物質が環境中でどう動くか、分解するか、変化物を生むか、生物に蓄積するか、人や生態系に毒性を示すかを見ます。

たとえば、難水溶性物質では、試験液を本当に溶液として扱えるのか、分散液なのか、WAFなのかが重要になります。新規届出マニュアルでも、難水溶性の場合は試験溶液の調製法や培地への溶解限度濃度を記載し、分散系で試験した場合はその理由を記載するよう求めています。揮発性があり暴露期間中の濃度変動が大きい場合は、濃度の見積り方法と評価の考察が必要です。

この点は、審査対応の核心です。化学者が「この物質は反応性が低いから安全そうです」と言っても、規制上は不十分です。実際には、以下のような問いに答える必要があります。

水に溶けないなら、魚は何に暴露されたのか。分解しないなら、環境中に残る形は親物質か、会合体か、吸着体か。イオン性があるなら、logKowだけで蓄積性を語れるのか。高分子なら、低分子量画分、残留モノマー、反応性官能基はどう評価するのか。UVCB的な混合物なら、代表構造をどう置くのか。

このような論点を、試験機関、研究部門、品質保証、行政手続担当の間で整理するのが、化審法対応の実務です。

8. 製造・輸入前の手続き整理

山崎行政書士事務所が支援する場合、製造・輸入前に次の順番で整理します。

段階

確認事項

実務上のポイント

物質特定

名称、CAS RN、構造式、組成、異性体、塩、ポリマー、添加剤、不純物

CAS番号だけで判断しない

既存該当性

NITE-CHRIP、J-CHECK、官報公示名称、包括範囲

公示名称の炭素数・官能基・重合条件を読む

用途確認

顧客用途、社内用途、輸出用、調合品か製品か

用途証明書の発行者が「使用者」か確認

数量確認

年度別の製造・輸入予定数量、用途別数量、全社合算

営業案件、サンプル、在庫、委託先分を含める

手続選択

通常新規、低生産量新規、少量新規、中間物、高分子関係、届出不要

「早く出せる制度」ではなく「適法な制度」を選ぶ

試験データ

分解性、蓄積性、毒性、生態毒性、GLP、報告書整合性

変化物、物質収支、難水溶性、濃度管理が重要

提出準備

申出書、届出書、MOLファイル、用途証明、判定通知、封筒、電子申請

受付期間・GビズID・権限設定を先に確認

運用管理

確認数量、年度更新、有害性情報報告、社内台帳

許可後ではなく運用中が本番

9. よくある失敗と防止策

失敗1:海外SDSのCAS番号を信じて既存扱いした

海外SDSにCAS番号が記載されていても、化審法官報公示名称に該当するとは限りません。既存該当性は、CAS、名称、構造、包括範囲、組成を合わせて確認します。

失敗2:少量新規の1トンを「出荷数量」と誤解した

少量新規は製造・輸入予定数量と環境排出数量が問題です。社内評価用、在庫、別用途、複数部門の案件を合算しなければなりません。

失敗3:低生産量新規で判定通知がないまま数量申出を準備した

低生産量新規は、少量新規のように単に数量だけで動ける制度ではありません。判定通知を取得した上で、年度ごとの数量確認申出を行う必要があります。

失敗4:用途証明を商社からもらって安心した

用途証明は、原則として実際の使用者側の確認が重要です。商社は通常の使用者には当たらないため、サプライチェーンの奥にいるユーザーとの調整が必要になります。

失敗5:有害性情報報告を忘れた

少量新規化学物質、低生産量新規化学物質、低懸念高分子化合物、審査後公示前新規化学物質などは、化審法第41条第2項の有害性情報報告義務の対象になり得ます。METIのFAQでは、少量新規又は低生産量新規として実際に製造・輸入を行っており、その届出のために実施した試験の知見が省令上の知見に該当する場合は報告義務の対象になると説明されています。

10. 山崎行政書士事務所が提供する支援内容

山崎行政書士事務所では、化学メーカー向けに、次のような支援を行います。

既存化学物質該当性調査CAS番号、化学物質名称、構造式、モノマー構成、包括名称、官報公示名称を確認し、既存物質か新規物質かの初期判定を支援します。

新規化学物質の手続き選択通常新規、少量新規、低生産量新規、中間物、高分子関係、届出不要要件の可能性を比較し、製造・輸入開始時期と事業計画に合うルートを整理します。

少量新規・低生産量新規の申出支援申出書、用途証明書、構造式ファイル、判定通知書、数量管理資料、電子申出準備、GビズID対応、受付期間管理を支援します。

通常新規届出の資料整理支援試験機関・研究部門・品質保証部門と連携し、届出資料、ブルーカード、試験報告書、行政からの指摘対応資料の整合性を確認します。

社内管理体制の構築物質台帳、化審法番号台帳、確認数量管理、用途証明書保存、有害性情報報告、年度更新、変更時確認の仕組みを整備します。

まとめ

化審法対応で最も大切なのは、製造・輸入の前に、物質・数量・用途・手続き・試験データを一体で整理することです。

少量新規は便利ですが、1トン枠と年度管理を誤るとすぐに逸脱します。低生産量新規は10トン枠がありますが、判定通知と用途証明、環境排出数量の管理が必要です。通常新規は、試験データの科学的整合性が問われます。既存化学物質該当性確認では、CAS番号だけで判断すると危険です。

山崎行政書士事務所は、行政手続の専門家として、化学メーカーの研究開発・製造・輸入・販売の現場に寄り添い、**「この物質を、いつ、どの制度で、どれだけ、どの用途で、適法に動かせるか」**を明確にする支援を行います。


 
 
 

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