スポンジパニック！〜甘い恋とケーキの行方〜

1．カフェ・フィオーレの静かな危機

小さな町の路地裏にある、雰囲気のよいカフェ**「カフェ・フィオーレ」**。かつては手作りスイーツと香り高いコーヒーで行列ができたものの、最近は大手チェーンの進出で客足が落ち、店内も閑散（かんさん）とした日が増えていた。**名物は“シンプルながら絶品”のスポンジケーキ。**ふんわりとした食感が地元客に愛されてきたが、周囲から「イチゴやチョコをかけて映（ば）えを狙うべき！」とアドバイスされても、店主・**森尾（もりお）**は首を縦に振らない。

「下手なアレンジはいらん。素材の味を生かすのがスポンジケーキの王道（おうどう）だ！」そう断固として譲（ゆず）らない森尾の横で、娘の**美波（みなみ）**は心配顔（がお）を見せていた。「父さん、このままだとお客さんが来なくて、カフェ・フィオーレが大ピンチになっちゃうよ？」けれど父は、「味を曲げてまで客を呼びたくない！」と頑固（がんこ）な一点張り。美波はハラハラするものの、店を盛り上げるために“ある作戦”を練っていた。

2．看板娘と常連客の微妙（びみょう）な距離

カフェの手伝いをする看板娘・森尾 美波は20代前半。SNSでカフェの紹介をしているが、なかなかバズらない。実は彼女に密かに想いを寄せる常連客がいる。会社員の**真鍋 達郎（まなべ たつろう）**だ。「す、スポンジケーキ、また買いに来ました！」「いつもありがとう、真鍋さん！……あ、今日は新しいポスター貼ってみたんだけど、どう思う？」真鍋は頑張って意見を言おうとするが、緊張（きんちょう）から空回（からまわ）りし、「ぽ、ポスター？ すごくいい、いい感じの、なんか、……はい！」とよく分からない返答（へんとう）で撃沈（げきちん）。美波は「……う、うん？」と首を傾（かし）げつつ、「ま、いいか」と笑ってごまかす。この微妙な距離感が空気感を醸（かも）し出す。

3．“神宮寺（じんぐうじ）”が来る！？ 衝撃（しょうげき）の情報

ある日、店が閑散としている中、菅原（すがわら）が勢い（いきお）よくドアを開けて入ってきた。彼は商店街の青年会長で、“SNSで客を呼び込む作戦”に情熱を燃（も）やす男。「聞いてくれ！ あのケーキ評論家・神宮寺が、この町に来るらしいよ！」「え、神宮寺って……辛口コメントで有名な“カリスマ評論家”の！？ TVや雑誌でもよく見る！」美波が目を輝（かがや）かせる一方、父・森尾は「そんな偉そうな評論家が来ても、うちは昔ながらのスポンジで勝負するだけだ！」とそっけない。「ちょっと店長、今こそテコ入れしないと！ 神宮寺のコメントでSNSが盛り上がれば、一気に客が増えるかも！」菅原が食い下がるが、森尾は「いらん！ アレコレ加えた妙なケーキなんかスポンジの風味を台無しにするだけだ！」とやっぱり拒否（きょひ）。美波は困（こま）りつつ、「でも、もし神宮寺が酷評（こくひょう）したら……やっぱりウチ潰（つぶ）れちゃうかも」と心配を募（つの）らせる。

4．スイーツライバル、月岡（つきおか）の暗躍

そこへ、近所に新しくできたスイーツ専門店「デセール・ルミエール」のパティシエ、**月岡（つきおか）**が登場。SNSでバズる華やかなケーキを次々考案しており、若い女性客をがっちりつかんでいる。「こんにちはぁ～。相変わらず地味～なスポンジケーキですよね、こちら。うちの“フラワーチョコタワーケーキ”は大盛況（だいせいきょう）だけど♪」嫌味（いやみ）を言いながら、わざとカフェ・フィオーレを見下（みくだ）すような態度。森尾がムッとするが、「お、お前のところは見た目ばかり派手で中身がスカスカじゃないのか？」と軽く言い返す。「はは、ま、結果が大事ですから。神宮寺も私のケーキを絶賛（ぜっさん）してますよ」月岡は涼（すず）しい顔で去っていく。残された森尾は、「あのやろう……」と怒りで震（ふる）えるが、どうにもできない現実に落ち込（こ）む。

5．謎の来店者、正体不明の人々

そんなある日の夕方、一人の地味な中年男性が店を訪れ、スポンジケーキを注文し、しみじみと眺（なが）めながら……結局食べずに包装（ほうそう）したまま帰ってしまう。「え、試食されないんですか？」「後でゆっくり……」それだけ言い残し、男性はそそくさと出て行く。菅原は「もしかして今のが神宮寺？」と大はしゃぎ。美波も「そ、そうかも」と期待するが、本当かどうか分からない。そこにさらに別の日、若い女性が訪れ、「わたし、実は神宮寺って言うんです」と耳打（みみう）ちしてくる。ところが店内が混雑（こんざつ）し始め、彼女は試食前に呼び出しの電話が来て帰ってしまう。「あれ、やっぱりさっきの女の人が神宮寺？ それとも偽物？」「もしかしたら本物は別にいるとか……」菅原は大混乱し、真鍋も「ど、どうすれば美波さんが喜ぶか分からない……」と一緒になって慌（あわ）てる。誤解が膨（ふく）れあがる。

6．タレ（シロップ）が消えた！ 父娘の大ゲンカ

迎（むか）えた週末、店は珍しく活気（かっき）を取り戻す。噂（うわさ）を聞いた客が「神宮寺が来た店らしい」「あの老舗スポンジケーキ」と興味を持ち始めていた。だが大ピンチが発生（はっせい）。仕込みに使う甘いシロップ（スポンジケーキに染（し）み込ませる秘密のタレのようなもの）が入った瓶（びん）が、何かの拍子で倒（たお）れて床にぶちまけられ、在庫がパーに！森尾は「うわああ！ どうするんだ、もう間に合わん！」と絶叫（ぜっきょう）。美波は「簡易シロップを作るしかないよ、今は！」と提案するが、父は「そんな半端（はんぱ）な妥協（だきょう）はできん！」と大激昂（げきどう）。「おまえはスポンジの深い味を分かってないんだ！」「えー！？ そんなことない！ 今の時代、お客さんを待たせたら、見捨（みす）てられちゃうよ！」互いに激情（げきじょう）をぶつけ合い、店先で大ゲンカ。客や商店街の人々が「落ち着いて！」と止（と）めに入るも、話が噛（か）み合わずもうメチャクチャに。

7．最後の審判（しんぱん）：スポンジケーキの真価

そこへ再び現れるライバル店の月岡。「やっぱりウチの方が美味いでしょ？」と余裕の笑み。すると、唐突（とうとつ）にサングラスの中年男性がまた来店。「え、あなた……」と美波や菅原が声をかけようとすると、男性は無言（むごん）のままスポンジケーキを一口口にする。そして小さく頷（うなず）き、**「……うまい」**とだけ呟（つぶや）いた。それが合図（あいず）のように、みんながハッとして静まる。「シロップが足りない……あえて足りないのに、こんなに素材の味が引き立つとは。ここには、飾（かざ）らない美味しさがある」と男性。周囲が「もしかして……神宮寺さん？」と気づくが、男性は微笑（ほほえ）んで「さあ、どうかな」とはぐらかす。しかし明らかに“プロの味覚（みかく）”っぽい評価に、月岡がタジタジになり、「ちょ、ちょっと！ ウチの店のフラワーチョコタワーケーキもどうですか！」とアピールしても男性は「ごめんなさい、私は“足さない美”が好きなんで」とスッパリ。

8．父娘の和解と、甘い恋（？）の結末

みんなの前で、男性が「職人さんの昔ながらの味、誇（ほこ）りを感じましたよ」と森尾に告げ、「あとは、看板娘さんがSNSでお客さんを呼ぶ力を伸ばしていけば、ここはもっと繁盛（はんじょう）するでしょう」と微笑（びしょう）む。森尾は「おれが頑固（がんこ）すぎたかもしれない。娘の気持ちも大事にしてやれなくて……」と胸（むね）を押さえる。美波は「父さん、私もごめんね。でもやっぱり、この味が大好き」と涙を浮（う）かべる。二人がギクシャクと照（て）れくさそうに握手（あくしゅ）する姿に、店内は拍手（はくしゅ）喝采（かっさい）。そんな様子を見ていた真鍋は、「こ、こういう流れなら、俺も美波さんに想いを伝えられるかも！」と心中で決意（けつい）するが、なぜか「えっと、その……」とカミカミになり、結局伝えられないまま。「もう少しあとで……」と先延（さきの）ばしに。

9．エピローグ：甘く穏（おだ）やかな日々

数日後、SNSには「カフェ・フィオーレ」のスポンジケーキを絶賛（ぜっさん）する口コミが増え、徐々（じょじょ）に客足が戻ってきた。商店街も活気（かっき）が蘇（よみがえ）り、菅原は「みんな、俺のおかげだね！」とドヤ顔（がお）で言い、「はいはい」と真由子がツッコむオチ。一方、月岡はバツが悪そうに「あ、あれー？」と肩を落とし、どうやら少しライバル意識をしぼめた様子。夕暮（ゆうぐ）れどき、店のシャッターを半分下（お）ろした後、森尾と美波が並んで椅子（いす）に腰（こし）かける。「あの“ミステリアスな中年男性”がやっぱり神宮寺だったんだろうな……ありがとうを伝えたいけど、連絡先も分からない」美波がしみじみつぶやくと、父は「ま、そんなところも粋（いき）ってもんさ」と頬（ほお）を緩（ゆる）める。真鍋が「さ、さあ！ 今日はおれが手伝いますよ、帰るまで！」と張り切るが、「あ、そう？ じゃ、皿洗いお願いね」とまたズレた返答に苦笑（くしょう）。

それでも店内には笑顔があふれている。スポンジケーキの甘い香り（かおり）がほのかに漂い、まるで映画のエンドロールのような平和（へいわ）な空気の中、**「スポンジパニック！〜甘い恋とケーキの行方〜」**は幕を下（お）ろすのだった。

（了）