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三保の水底

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月18日
  • 読了時間: 6分



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プロローグ:異変を告げる地下水調査

 静岡市三保地区――ここは富士山を遠望する海辺の土地として観光客も訪れる美しい地域だった。 だが近年、住民の間で体調不良や謎の皮膚病が目立ち始め、原因不明とされていた。そこで市は、水質や土壌に詳しい山田教授(静岡県立大学の環境科学専門家)に、地下水汚染の有無を調査するよう依頼。 教授は複数地点で採取した地下水サンプルを分析したが、結果に驚愕し、市の担当者に「これは相当に高い有害物質が検出されている」と伝えようとする。 しかし、何らかの圧力か、市役所は動きが鈍い。そんな中、山田教授が突然行方不明になったという知らせが大学に入る。市は「旅行に出かけたのでは」と他人事のように言うが、同僚や学生たちは不安を拭えない。

第一章:主人公、調査を引き継ぐ

 主人公は平井 真桜(ひらい まお)、山田教授の助手。年齢は二十代後半で、彼女も環境科学の研究に携わっており、教授を尊敬していた。 平井は教授が残したノートやPCデータを探すが、彼が採取し分析したはずの重要な結果が消えている。代わりに簡易的なメモだけが残り、「三保地下水、PFAS系? 重金属? 埋設物…危険度高」 と走り書きされている。 市役所に問い合わせても「山田教授から正式な報告は受けていない。行方不明の件は警察に任せている」という冷たい対応。平井は大学の上司に相談するが、「余計なことしないで。教授の調査は打ち切る」と言われ、苦悩する。 けれど彼女は「このままでは教授が何を掴んだか闇に埋もれる」と考え、勝手に調査を続ける決意を固める。

第二章:不可解な死の連鎖

 平井が大学の研究室で山田教授のロッカーを整理していると、昔の調査報告書や新聞記事の切り抜きを発見。そこには「三保地区の化学工場 不正廃棄」「旧工場跡から謎のドラム缶」などの見出しがあるが、どれも詳細は断片的。 さらに市内で別の不可解な事件が起きる。かつて三保地区の工場に勤めていた元社員が、自宅階段から転落死したという。警察は事故と見ているが、近所の人は「彼は汚染問題に怒りを燃やしていた」と語る。 市役所の若い職員も、山田教授と連絡を取り合っていたらしいが、何故かその職員も休職中で消息不明。 「どうして関わった人が次々に事故や失踪に巻き込まれるの?」 平井は背筋が寒くなる。

第三章:地下に埋められた廃棄物の噂

 調査を進めると、三保の工場跡が何十年も前に閉鎖された際、有害廃棄物を地下に埋めたという都市伝説が囁かれている事実が分かる。 当時は法規制が緩く、自治体や企業が裏取引をして黙認した可能性がある。もしそれが原因で、長年にわたり地下水が汚染されているのなら……。 平井が市の記録を調べようとしても、古い閉鎖工場の資料は「紛失」扱いで見当たらない。職員に聞いても「何も知らない」と一蹴される。 しかし、ある年配の住民が「昔、トラックが夜中に出入りし、怪しげなドラム缶を埋めた」という目撃談を語ってくれた。これは企業・行政・政治家の結託があったのでは? と疑念が高まる。

第四章:企業の影と行政の壁

 三保地区で現在も化学関連事業を続ける大手はテラノケミカルという会社がある。平井が広報に問い合わせると、過去の工場については一切関係ないと否定し、「我が社の排水や廃棄物処理は問題ない」と強く主張する。 一方、行政は「市としては現時点で地下水汚染の原因を特定していない。PFASは自然界では得られないが、情報不足で調査中」と曖昧対応。市長や議員とも繋がりのあるテラノケミカルに配慮している雰囲気が色濃い。 さらに「あなたの調査は越権行為。大学の許可はあるのか?」と市役所から釘を刺される。 平井は再び阻まれてしまう。

第五章:証拠を追う 危険な地下調査

 平井は山田教授の残したメモに基づき、工場跡の一角に埋められた可能性が高い地点を推定する。夜に友人の環境NGOスタッフ岡村と共に現地へ潜入し、土壌サンプルを採取する。 すると現場で黒塗りの車が出現し、彼らを追い掛け回す。辛うじて逃げ帰るが、サンプルは確保。分析の結果、高濃度PFASや他の化学物質が含まれていることが判明する。 まさに企業が長年地下に埋設していた証拠だ。 これを公にすれば、多くの人に危害が及ぶ汚染が既に進行していることを明らかにできるかもしれない。 しかし同時に、平井と岡村は命の危険を意識する。既に調査関係者が次々不可解な死や失踪に遭っているからだ。

第六章:命を懸けた告発

 平井は大学の研究室の協力で、採取した土壌の分析データを公式化する準備を進める。社内から圧力や妨害を受けるが、彼女は覚悟を決めた。 同時にこの汚染が三保地区だけでなく、近郊地域にも拡がっている形跡があることが追加調査で判明し、問題は大規模化の様相を呈する。 しかし、「もし公表すれば企業も行政も大ダメージを受けて、地元経済が沈むのでは?」と心配する声も。平井自身も少し動揺する。だが、環境と住民の健康を守るため、嘘を見過ごせないと再度決断する。

第七章:最後の攻防と真相の浮上

 平井は地元テレビ局と新聞社を巻き込み、大々的な記者会見を予定。しかしその前日、車で移動中に何者かに追突される事件が起こる。幸い大怪我はないが、手口は明らかに故意。彼女を黙らせようとする者がいる。 それでも翌日、会見が強行される。 企業側(テラノケミカル)の弁護士が「違法な採取だ。証拠能力がない」と反論し、行政も「独自調査に公式性はない」と難癖をつけるが、平井は各種分析データや専門家の見解をまとめて提示。 また、かつて山田教授が調査していた裏データを亡くなる直前に別のルートで保管していたことがNGOの岡村により明らかにされ、企業の隠蔽を裏付ける証拠が出てくる。 結果、地下埋設廃棄物によるPFAS汚染が疑惑ではなく現実味を帯び、警察や環境省が緊急調査に乗り出すことに。市や企業はしらを切ろうとするが、マスコミが世論を煽り、多くの住民が抗議行動を起こす。

エピローグ:町と人々の未来

 こうして**“三保の水底”に隠された企業の犯罪が世間の注目を集める。企業幹部は逮捕されるか否かの瀬戸際で、行政も「把握していなかった」と責任逃れに終始するが、関係者数名が処分を受ける見通しとなる。 住民はPFASにより健康被害を受けていた可能性が高まり、集団訴訟の準備を進める。町の再生には長い時間が必要だが、初めて真実と向き合う道**が開かれたとも言える。 平井は山田教授の遺志を継ぎ、今後の環境調査や住民支援に全力を注ぐ決意を固める。「二度とこんな不条理が起きないよう、私が監視し続ける……」そう心の中で誓い、静かな海岸で冥福を祈る。 こうして“三保の水底”は、企業と行政の陰謀が明らかになったものの、被害の解決まではまだ遠い道のり。しかし、真実が光を差し込み始め、町は新たな一歩を踏み出す。物語は、波が寄せる穏やかな音と共に幕を下ろす。

(了)

 
 
 

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