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燃料の川を止めた朝 — 山崎行政書士事務所・インフラ編(長編フィクション)


— 2021年のコロニアル・パイプライン事案(DarkSide/ランサムウェア)を骨格にした創作

1|05:11 湾岸ターミナルの斜風

東の空の色がわずかに変わる。油槽の銀灰色を、潮風が指で撫でたようにざわめかせていく。東海燃料輸送の湾岸ターミナル。出荷管理卓の前で、白石は二度まばたきをした。

“Your network has been encrypted.”“交渉は以下のサイトで”

文字がポンプメータの数字より冷たく踊った。横に立つ夏生が息を呑む。「制御系は……応答はある。けど請求系が死んでる。ジョブが落ちて、出荷伝票が印字できない。」

「回線、落とす。」白石は短く言った。「山崎行政書士事務所に電話。」

2|06:02 “止める/伝える/回す”

静岡市の朝は薄い。山崎行政書士事務所の会議室A、ホワイトボードに律斗がいつもの三行を書いた。

止める/伝える/回す

  • 止めるネットワークの分割課金・請求系の完全隔離。OT(制御)は参照専用に落とし、実運転は**手順書の“紙”**で維持。

  • 伝える三文の一次報を7時に。正午/17時に更新。

  • 回す出荷遅いけど確実に保つため、油槽所⇄スタンド紙伝票電話復唱での出庫に切替。

“全部止める”か“分けて動かす”か、の勝負です。」と律斗。「燃料は社会の血液。止め方を間違えると別の事故に繋がる。」

りなが線を引く。「法の時計72時間“確認された事実”と“可能性”を段落で分ける身代金については制裁リスクの注意喚起を事前に。」

奏汰は湾岸の図面に赤を入れた。「出荷島浮島化発券機切断手書き伝票二名承認油面計手計測。」

ふみか三文を置く。

現状:一部システムで不審な暗号化を検知。安全確保のため請求系を停止制御系は参照専用に移行。対応出荷は継続。伝票は紙運用電話復唱+二名承認で行います。連絡支払い先変更などメールだけの依頼は無効正午に続報、17時に二次報を配信します。

時刻を入れる。不安に期限を。」りなが赤で丸をつけた。

3|07:28 バルブの音と“紙の重さ”

油槽所のゲートバルブが、低い音を響かせる。夏生紙伝票を二枚、白石音声で復唱する。

「出荷先:第三京浜SS、出荷量:8,000L、等級:レギュラー二名承認、スタンプよし。」

いつもの半分の速さ。だが間違いが起きない。受付には、白い猫のマスコットが置かれた。しっぽはUSB Type‑C。札には黒字で、

「遅いけど確実。」

4|09:40 “向こう側の声”

暗号犯の掲示板に、交渉窓口が立った。金額は書かれていない。悠真が目を細める。「DarkSideのテンプレに近い文法。**“復号ツールの体験版”**を餌にしてくるかも。」

りなはタスクを配る。「警察・規制当局との連絡線企業の法的責任制裁(OFAC)リスクの整理払えば解決という世界ではないことを経営に伝える。」

払わない方針最初に言葉にしておく。」ふみかが顧客向けのFAQに一行を足す。

「不当な要求には応じません。証跡の確保と関係機関との連携を優先します。」

律斗ホワイトボードの端に小さく書いた。「燃料は流す。鍵は締める。

5|12:03 正午報と“二本の時計”

正午報が配信された。湾岸の食堂ではレトルト味噌汁の匂い。夏生がひと口飲んで、苦笑した。「冷めるのも遅い。」

山崎チームの可視化には四つの数字が並ぶ。

  • MTTD(検知までの時間)46分

  • 一次封じ込め2時間22分

  • 出荷遅延平均17分

  • 顧客通知率正午時点 92%

蓮斗が低く言う。「**“勝った”じゃない。今は“間に合っている”**だけ。」

白石のスマホが震えた。元請の元売からだ。

「燃料の振り分け、今日明日の見通しを」

りな経営にメモを渡す。「供給の“配り方”は事業の言葉危機広報は**“正午/17時”を守り、現場は“遅いけど確実”**に集中。」

6|14:18 「止めた理由」を巡る会議

幹部会。画面越しに財務担当が言う。「課金・請求が止まると**“燃料の会計”**が崩れる。動かしても売上を計れないのなら、止める判断はやむなしだ。」

律斗はうなずかない。「“止める”にも種類がある燃料の流れ全部止めるのか、請求の線だけを遮断して紙で回すのか。今朝、私たちは後者を選んだ。遅いけど確実に。」

りなが付け加える。「“止めた理由”は、後日の説明責任で必ず問われます。事実と判断切り分けて記録してください。」

7|16:07 “人の声で閉める鍵”

ヘルプデスク別方向からの揺さぶり。「スマホを無くしたMFAを解除して—」みお攻撃者役で台本を読み上げる。

夏芽は脚を組み替えず、新フローで返す。「いまお伝えの番号に折り返します。上長同席の10分会議で再登録します。

は鍵にもなる。手続で囲めば、鍵穴は狭くなる。

8|17:00 二次報と“夜の筋書き”

二次報の読み上げ。

封じ込め請求系の隔離出荷の紙運用継続、ヘルプデスクは折り返し+二名承認影響出荷遅延平均 14分顧客向け事故報告なし明朝までに**“疑いアカウント”の棚卸しを完了。制裁リスク評価と支払い回避方針**を文書化。

暗号犯からの脅し文が更新される。「48時間」という数字が躍った。悠真は画面を閉じる。「こちらの時計で動く。」

9|翌朝 05:26 “戻す設計”

夜明け前。奏汰戻しチェックリストを展開する。

  • 課金・請求クリーン環境復旧紙伝票との照合

  • 制御参照専用段階復帰ログ1分粒度別経路

  • ヘルプデスク折り返し+二名承認常態化例外は48時間で自動失効

  • 広報正午/17時時刻の約束を継続

陽翔が現場に電話する。「紙の照合午前中で終わらせる。午後電子優先に戻す。」

夏生は油面計を覗き込む。「戻る“遅さ”が今日は正しい。」

10|三日後 11:40 “回る”という結論

出荷遅延9分に縮み、油槽所の列午前で解消顧客向けFAQ更新が止まらず、苦情は説明**に変わった。

白石猫のマスコットを撫でた。「遅いけど確実、ね。」りなが笑う。「言い切る文現場の手の震えを止めるの。」

律斗はホワイトボードに三つを書き残す。

  1. “止める”の設計(全部ではなく“線”で)

  2. “伝える”の時刻正午/17時

  3. “回す”の遅さ紙/復唱/二名承認

11|数週間後:ポストモーテム「燃料の川の守り方」

大講堂。スクリーンには三つの時計

  • 現場の時間(出荷・安全)

  • 規制の時間72時間

  • 経営の時間(供給・信用・費用)

蓮斗が数字を示す。

  • MTTD46分 → 18分(窓の調整後)

  • 一次封じ込め2h22m → 1h11m

  • 出荷遅延平均17分 → 8分

  • 例外期限遵守率64% → 97%

りな原則を三行で締めた。

言い切る(事実と可能性を混ぜない)期限を付ける(例外は時間で管理)二重に確かめる(メールと声だけを信用しない)

奏汰が端にメモを貼る。

「速さは、戻れるときだけ味方。」

ホールを出ると、海風が強まっていた。燃料の川は、きょうも遅いけど確実に流れている。

——

参考リンク(事実ベースの注記・一次情報/主要報道)


 
 
 

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