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秘密の茶畑とこころの庭

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月20日
  • 読了時間: 6分


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 静岡市の山あいに、誰も知らない“秘密の茶畑”がある――そんな噂がまことしやかに囁かれていました。そこでは、深い緑の妖精たちが茶の木を守り、特別な茶を育てているのだという。飲めば心が癒され、自分を見つめ直すことができる――。

 この噂を聞いたひとりの少女・**澪(みお)**は、胸の奥に重たい闇を抱えていました。人付き合いが苦手で、学校でも孤立しがち。いつしか彼女は自分から心を閉ざすようになり、家族にも本音を言わない日々が続いていたのです。

噂を追いかける旅の始まり

 ある日、澪は図書室の片隅で、静岡市の山あいについて書かれた古い本を見つけました。そこに、「妖精が守る秘密の茶畑」の記述を見つけたとき、彼女の胸は不思議と高鳴りました。

「……行ってみたい。もしそこへ行けば、何か変われるのかも……。」

 そう思い立つと、家族に黙ってリュックを背負い、地図を片手に山へ向かったのです。道中は緑の木々のトンネルが続き、鳥のさえずりや虫の声が響きます。人里を離れるほどに足元には草が生い茂り、澪は少し心細さを感じながらも、噂の“秘密の茶畑”を探して歩き続けました。

山深い場所での出会い

 やがて夕暮れが近づくころ、澪は行き倒れそうな疲れに襲われ、開けた丘に腰を下ろしました。視線を上げれば、遠くに富士山が薄く輪郭を描き、その手前に駿河湾が光を反射している。夕日が山々を赤く染める光景は、とても静かで、なぜか胸の奥がじんわりと温かくなる気がしました。

 そのとき、足もとからそよそよと風が吹き抜け、かすかに茶の香りが漂ったような気がします。そして、淡い緑の光がふわりと舞いあがり、澪の前に集まりました。そこには、小さな羽を持つ透明な姿――茶の妖精が浮かんでいるではありませんか。

妖精「あなたは、あの“秘密の茶畑”を探しているのね……?」

 澪はびっくりしながらもうなずき、「どうすればそこへ行けるの?」と問いかけます。妖精は少し寂しそうな眼差しで、薄い羽を揺らしました。

妖精「あの畑は、人が自分の心と正直に向き合うときにだけ、道が開ける場所。もしあなたがそこに行きたいなら、まず自分自身を見つめてください。何を本当に望んでいるのか……。」

自然と向き合う日々

 その夜、澪は山小屋のような空き小屋で一晩を過ごしました。目覚めると木漏れ日がさす中、妖精が導くように森を巡り、野生の動物や季節の花々と出会います。

 茶畑自体はまだ見つからず、道を間違えたり、崖を回り道したりと苦労続き。だけど、不思議と大自然の風景が澪の心をほどいていくのを感じました。

  • 清らかな沢の水をすくって飲むと、いつか母と一緒に飲んだ冷たい水の味を思い出す。

  • 山の鳥が鳴く声に耳を傾けると、小さい頃は鳥の鳴きまねをして父に笑われた記憶がよみがえる。

 幼いころの自分は、もっと自然と親しく、家族とも笑い合っていたんじゃないか――そう感じると、澪は少しだけ胸が痛くなりました。どうして、こんなに自分は心を閉ざしてしまったのだろう……。

見えてきた秘密の畑

 数日が経ち、澪が苔むした林道を下っていると、急に茶の香りが強くなりました。気づけば一面に茶の木が広がり、深緑の葉が生き生きと揺れています。高い木々の合間に日差しが差し込む、まさに**“秘密の茶畑”**と呼ぶにふさわしい場所。

 そして、そこには妖精たちが舞っていました。何匹もの羽を持つ緑の存在が、茶の葉先で踊り、そっと葉を撫でては笑い合う姿は、まるで夢のような光景。息をのんだ澪は、しばらくその美しさに見とれました。

妖精(長のような存在)「よく来ましたね、あなたは心の扉を少しずつ開いてきた。それが、この畑の入り口を見つける鍵でした。さあ、ここはあなたを癒すための場所であり、あなたが見失ったものを思い出すための場所でもある……。」

茶畑の香りと心の癒し

 妖精たちは澪を畑の中心へ導き、そこで湧き出る清らかな水を渡してくれました。さらに、茶の葉をひとつ摘んで湯を注ぐと、なんとも言えない優しい香りが湯気とともに立ちのぼります。

 その香りを吸いこんだとき、澪の胸にぽかぽかとした温もりが広がり、瞳からはぽろりと涙がこぼれました。

「……家族や友だちに、嫌われてるんじゃないかって、ずっと怖かった。でも、本当は私、ただ誰かに受け止めてほしかっただけなんだ……」

 妖精たちは静かに微笑み、茶畑の周囲を舞いながら、葉先をそっと撫でます。その様子は「大丈夫、あなたはもう少しゆっくり呼吸していいんだよ」と言っているようでもありました。

街に戻る決意

 数日後、澪は自分の中にあった様々な思いが、まるで茶の香りでやわらかく溶かされたように感じました。さらに、茶の妖精が語るのです。

妖精「あなたの心が軽くなったのなら、いずれ街へ戻って、この茶畑がもたらす不思議な力を人々にも伝えてほしい。人の心が閉ざされるたびに、わたしたちは少しずつ力を失っていくのだから……。」

 澪は頷きました。自分が得た癒しや気づきは、きっとほかの人にとっても助けになるかもしれない。そう思うと、これまで逃げていた街の暮らしに対して、少し向き合ってみようという気持ちが湧いてきます。

茶の妖精との別れ

 いよいよ山を下りる前夜、澪はもう一度“秘密の茶畑”を訪れ、妖精に別れを告げました。葉陰に隠れた妖精たちが、淡い緑の光を放ちながら、まるで送り出すように手を振ってくれます。

妖精(長)「あなたがこの場所を忘れない限り、いつでも心の中に、わたしたちが育むお茶の香りは生きています。そして、あなたが誰かの心を癒したいと願うとき、この畑がふと背中を押してくれるでしょう……。」

 澪はしっかりと胸に刻み込み、「必ずまた来るよ、そしてみんなを連れてきたい」と誓いながら、満天の星空の下を歩き出したのです。

新たな人生と癒しの力

 やがて町に戻った澪は、一見同じ日常に戻りましたが、心はまるで生まれ変わったかのようでした。家族や友だちに対して素直に話すことができるようになり、小さな衝突があっても自分の気持ちを伝えられるように。

 そして時々、近しい人が悩んでいるのを見かけると、澪はふと思いつくままに、茶をいれてみたりするのです。静岡の深い緑が香るお茶を丁寧に淹れ、相手と一緒にその香りを楽しむ――すると、不思議と相手の心もやわらいで、落ち着きを取り戻すことが多いようでした。

 あの“秘密の茶畑”の記憶が、香りを通じて澪の心を経由し、周りの人へ伝わっているのかもしれません。

終わりに――香りを繋ぐ物語

 もし静岡の山あいで、ふと胸が安らぐような香りに包まれたなら、それは妖精が育てる“秘密の茶畑”の息吹かもしれません。人の心にそっと寄り添い、何も言わずにその傷を癒す――それが茶の力であり、妖精たちが守りたい世界なのです。

 こうして、茶の妖精と出会った少女は、自分の心を救うだけでなく、その力を周囲へ広げる大切さを知りました。いつかあなたも、この“秘密の茶畑”へ導かれる日が来るかもしれません。そのときは、深く息を吸って、濃い緑の香りを胸いっぱいに感じてみてください。自分が本当に大切に思うものが、きっと見えてくるはずです。

 
 
 

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