閉店5分前の奇跡 〜静岡駅前エレガンスストア、愛の最終便〜
- 山崎行政書士事務所
- 6月1日
- 読了時間: 4分

プロローグ 雨上がりの静岡駅前
その日は朝から静かな雨が降り続いていた。夕方になってようやく雨が上がり、エレガンスストアのショーウィンドウに街灯が映り込み始めた。
宮本店長は閉店準備を進めながら、ふと時計に目をやる。
宮本店長「閉店まであと5分か。今日は静かだったな……」
杉山さんはディスプレイ棚を整えながら元気よく答える。
杉山「なんだかんだで雨の日は、店内でゆっくり過ごしたいお客様も多かったですよね〜」
清水さんはレジの在庫画面を確認中。三浦さんは、なぜか店のマネキンにスカーフを巻きながら話しかけていた。
三浦「あなた、今日はちょっと“乙女座感”が足りない気がするよ?」
杉山「誰に話してるの……」
和やかに1日が終わろうとしていた――そのとき。
第一章 彼は走り込んできた
ガララッ。
自動ドアが半開きになるやいなや、濡れたコート姿の男性が息を切らしながら駆け込んできた。
男性客「すみませんっ! まだ大丈夫ですか!? 閉店まで、あと……?」
清水(時計を見て)「あと4分46秒です」
男性は深々と頭を下げ、息を整えながら話し始めた。
男性客「今日、彼女の誕生日なんです。でも仕事で完全に忘れてて……ケーキは何とか買えたけど、プレゼントが……何も……!」
スタッフ一同、瞬時に顔を見合わせた。
宮本店長「全力でご案内しましょう。間に合う限り――いえ、間に合わせます!」
第二章 プレゼント大捜索作戦
杉山「彼女さんの好みって分かりますか? 色、素材、雰囲気!」
男性客「うーん……シンプルだけど、ちょっと遊び心があって……あと、うさぎが好きです!」
三浦「うさぎ……! 星座だと、月と関係あるかも……!」
三浦さんは、意味不明な理論でラッピング棚に飛び込む。杉山さんはバッグコーナーへ直行し、清水さんはタブレットで在庫から“うさぎ”を検索。
店内は閉店とは思えぬ活気に包まれ、BGMまでテンポアップして聞こえるほど。
第三章 三浦さん、やらかす
三浦「あっ! これなんてどうですか! 月にちなんだ“ムーンパール”のピアス!」
男性客「……ピアス、彼女、開けてないです」
三浦「えっ……耳、開いてない……開けるかも、ではなく……?」
杉山さんがすかさず割って入る。
杉山「三浦さん、ちょっと下がってて!」
三浦(しょんぼり)「はーい……」
清水「“ラビットモチーフ”かつ“シンプル”な商品、在庫に一件該当ありました。場所、ストック棚の一番下段です」
杉山「清水さん神!」
第四章 奇跡の一品
数秒後、杉山さんがダッシュで戻ってくる。手には、淡いグレーの革に小さなゴールドのうさぎチャームがついたパスケース。
杉山「これ、去年限定で出した“エレガンス・ルナシリーズ”の1点! 在庫1、今日までセール対象!」
三浦「これこそ、月の加護ですね〜!」
男性客「……めちゃくちゃ可愛い! これにします!」
ラッピングを三浦さんが(やや曲がりながら)丁寧に行い、清水さんがレジを打ち、杉山さんが「贈り方アドバイスメモ」を手渡す。
時間は――閉店5秒前。
スタッフ全員、汗と笑いとほんの少しの涙にまみれた表情で、男性客を見送る。
クライマックス 彼の言葉
男性客「本当に……本当にありがとうございます! 間に合いました。みなさん、最高です!」
そう言って深く頭を下げると、男性は夜の街へ走り去っていった。パスケースの入った袋をぎゅっと握りしめて。
自動ドアが閉まったあと、しばし静寂。
三浦「やっぱり、星の導きだったのかな〜」杉山「三浦さん、今度こそ落ち着いてから喋って」清水「データ上、うさぎ好き女性の8割は“限定品”に弱い傾向。今後の参考にします」宮本店長「みんな、おつかれさま。今日のチームプレイは……奇跡だったね」
エピローグ 愛は閉店後に生まれる
閉店後のスタッフルーム。ラッピング用のリボンが一本、床に転がっている。
三浦さんがそれを拾いながら、つぶやく。
三浦「……あのパスケース、きっと彼女さん、喜ぶよね」
杉山「“閉店5分前のミラクル”って、案外あるもんだね」
清水「次回に備え、緊急駆け込み対応マニュアル作っておきます」
笑いながらうなずく宮本店長。
エレガンスストアの夜は、明日も誰かの“ギリギリの想い”を受け止める準備をしている。
そしてその笑顔の裏には、三人+一人の最強(かつちょっと不器用)なスタッフチームがいる――。
(終)





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