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香りでつながる気持ち〜エレガンスストア 杉山さん、シャイな君に香水を〜

  • 山崎行政書士事務所
  • 3 日前
  • 読了時間: 3分

プロローグ 静岡駅前、しとやかな午後

その日は、エレガンスストアにしては珍しく、どこか静けさの漂う一日だった。

店内では三浦さんが「今日のラッキー星座は蠍座〜♪」などと呟きながらディスプレイを整え、清水さんは端末に向かって「在庫一致率98.6%…よし」と安定の冷静モード。杉山さんはレジ横の新作アクセサリーを陳列していた。

宮本店長「なんだか今日は、嵐の前の静けさみたいだね」

その“嵐”は、そっと店のドアを開けてやってきた。

第一章 視線だけのお客様

ふと入口で足を止める若い女性の姿。カーディガンをきゅっと握り、目は店内の香水コーナーに注がれているのに、なぜか一歩も中に入らない。

杉山(心の声)「あのお客様、入ってきたいのに……勇気が出ない感じ?」

杉山さんは、押しすぎないよう、でも放ってもおかないよう、絶妙な距離で近づく。

杉山「こんにちは。……香り、お好きですか?」

女性はハッとして目をそらすが、かすかにうなずく。

杉山「ご安心ください。香水は“似合うかどうか”より、“好きかどうか”が大事なんです」

その言葉に背中を押されたのか、女性はそっと店に入ってくる。

第二章 話せないけど、伝わる

香水コーナーに立つと、彼女は商品を指さすだけで声を出さない。どうやら“極度のシャイタイプ”のようだった。

三浦さんが横から囁く。

三浦「あの方……もしかして“人見知り座”かも……?」
清水(すかさず)「そんな星座はありません」

杉山さんは笑ってごまかしつつ、柔らかく声をかける。

杉山「こちらは、グリーンティーとベルガモットの香り。さわやか系です」杉山「こっちは、バニラとムスク。ふんわり甘めです」

彼女はふっと香るたび、少しずつ表情をゆるめ、指先で「こっち」と示す。

だがその時――

杉山「あっ……すみません。今お選びの香り、実は店頭在庫がなくて……」

女性の表情がすっと曇る。

第三章 まさかの“他店アテンド”

宮本店長「杉山さん、どうする?」
杉山「――少々お時間をください」

杉山さんはバックヤードでスマホを取り出し、近隣の取扱店を検索。そして某デパートの専門香水店に電話。

杉山「申し訳ないんですが、そちらの“オリーブ&アイリス No.9”、一点だけお取り置きできますか? お客様をご案内したくて……」

電話を終えると、杉山さんは満面の笑顔で女性にメモを手渡す。

杉山「お近くの百貨店に、この香りがありました。15分以内にお伺いすれば、取り置き可能です」

女性は驚きつつ、目を潤ませて何度もうなずいた。

三浦(感動)「杉山さん……それって、他店ですよね……!?」
杉山「香水は“縁”だから。この方にとって一番似合う香りがうちに無かったなら、届けるのがプロでしょ」
清水「他店連携アテンド……杉山、まさかの神対応認定」

クライマックス 手のひらの香り

女性は深々と頭を下げてから、そっとポーチを開き、小さな手帳を取り出す。そして「ありがとう」と震える文字で書き、杉山さんに見せた。

この香り、彼に贈りたかったんです。

一同、思わず声を飲む。言葉が少なくても、気持ちはしっかり伝わる。

杉山「なら、今から走ってでも間に合いますね」三浦「えっ、じゃあ“恋愛運MAX星座コース”もつけましょうか?」清水「それは要りません」

エピローグ 香りの記憶は、店にも残る

女性が出ていったあと、静けさが戻った店内。しかし、何かが少しだけ変わっていた。

宮本店長「今日の対応は、マニュアルには載ってないけど、記録しておきたいくらいだね」杉山「ただ……“一番似合うものを見つける”って、そういうことなんだと思います」三浦「香りって、目に見えないのに気持ちが残るんですよね……恋と同じで」清水「……いいこと言った風だけど、よくわかりません」

その日のエレガンスストアには、香水とは違う“やさしい空気”が、ほんのりと香っていた。

そしてその香りはきっと、シャイな誰かにも届いている。

(終)

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