カスハラ対策『ゲートF12—滑走路の手前で』
- 山崎行政書士事務所
- 9月19日
- 読了時間: 6分
登場人物
海老原(ゲート責任者):穏やかだが線引きが明確。
森(グランドスタッフ):一次応対。冷静に事実を積むタイプ。
嶋田(乗客):要求が段階的にエスカレート。
保安担当:保安検査場/警備との連携役。
主管(運航管制側責任者):最終判断(締切・改札終了・振替)権限。
ナレーション:実務ポイントの解説。
シーン1:出発60分前・チェックインカウンター
嶋田「無料でビジネスにアップグレードしろ。今日は急ぎなんだ」森「ご出発の手続き、ありがとうございます。アップグレードは空席状況と運賃条件でのご案内です。本日の選択肢は三つです。①差額での当日アップグレード、②次便への振替(運賃条件に準拠)、③現行運賃のまま最短動線でサポート」嶋田「客は神様だろ? 無料でやれ」
🔎 実務ポイント
最初に**規程内“三択”**で枠を明確化(差額/振替/現行サポート)。
“無料アップグレード不可”を個人裁量ではなく運賃・在庫ルールとして説明。
応対ログ(時刻・要旨・選択肢提示)を開始。
シーン2:手荷物の線引き
(手荷物計量台で)
嶋田「このサイズで持ち込めるだろ。オーバーでも見逃せ」森「機内持込はサイズ・重量規定がございます。計測上限を超過していますので、受託手荷物へのお預け、または有償の追加をご案内します」嶋田「規定なんか関係ない。責任者呼べ」
海老原(合流)「安全と収納余裕は全員分の約束です。規定外は受託で承ります」
🔎 実務ポイント
安全・収納=“他の乗客の権利”として説明すると受け入れられやすい。
計測を可視化(メジャー/計量器表示)し、事実ベースで話す。
「見逃し」依頼は個人裁量では扱わないと明言。
シーン3:優先搭乗と威迫
(ゲート前・搭乗開始アナウンス前)
嶋田「優先で通せ。晒すぞ」森「威迫にあたる表現はお控えください。改善がない場合、本日の現地応対を終了し、書面窓口(お客様相談)へ切替えます。優先搭乗は対象区分に基づいてご案内します」嶋田「土下座して詫びろ」
海老原「注意喚起は一度だけです。以降は記録し、係員二名体制で対応します」
🔎 実務ポイント
注意→条件提示→二人体制。同じ注意を繰り返さない。
対象区分(手伝いが必要な方/上級会員/前方座席等)を掲示・台詞カード化。
以後の会話は記録を明言。
シーン4:撮影と個人情報
嶋田(スマホを向ける)「顔と名札を撮る。フルネームで名乗れ。直通番号を出せ」森「撮影は保安上の理由で制限があります。担当は名字+担当IDでご案内します。個人連絡先の開示はいたしません。ご意見は代表窓口へお願いします」
🔎 実務ポイント
撮影方針(保安区域・搭乗口の可否)を明確化して掲示・統一。
担当ID運用で個人情報の盾を作る。
代表窓口への一本化で“名指し攻撃”の受け口を増やさない。
シーン5:長時間拘束の芽を摘む
(搭乗開始T-25。列形成が始まる)
嶋田「納得いくまでここで話す」海老原「説明は10分で区切ります。要点は次の三つです。①無料UG不可(在庫・運賃条件)、②手荷物は受託に切替、③搭乗区分は規程順。以降は書面窓口で承ります」(タイマーを置き、要点メモを読み上げる)
🔎 実務ポイント
時間上限(説明10分+選択5分)を可視化(タイマー・メモ音読)。
列処理=第三者の権利。業務妨害化の前に区切る宣言を。
シーン6:改札締切と“出さない勇気”
(T-15。嶋田がゲート前で粘る)
嶋田「上に繋げ!無料UGなら今すぐ乗る」主管(電話で合流)「改札締切時刻は固定です。規程外要求(無料UG)には応じません。本日の現地応対はここまで。以降は代表窓口へ」保安担当(控えめに同席)「周囲の安全確保のため、退去要請に移行する場合があります」
🔎 実務ポイント
“時刻”は線引きの最強カード。人ではなくダイヤで説明。
退去要請の定型文と保安連携を、現場と管制で共通化。
“上に繋げ”は経路一本化(代表窓口)で止める。
シーン7:落としどころの形成(出発後)
(当該便は出発。嶋田が窓口へ)
嶋田「……次便に振替できるのか」森「運賃条件に基づく振替が可能です。座席指定と受託手荷物の取り扱い、費用を合意書に記載します。事実誤認の訂正窓口もこちらです」嶋田「……それで」
🔎 実務ポイント
合意書に:振替便/費用/座席/手荷物/連絡窓口/訂正窓口。
再燃抑止は“できる・できない”を平易で短い文で明文化。
案件番号で履歴一元管理。
エピローグ:最終便の後で
森「声が少し震えました」海老原「人ではなく仕組みで守る。三択・規格・時間上限・一本化・書面化。明日も同じ台詞で」ナレーション「滑走路の手前で、秩序は設計によって守られる」
— 完 —
付録A:即使える台詞カード(空港・搭乗口版)
冒頭(三択提示)
「本日のご案内は三択です。①差額での当日アップグレード、②条件内での振替、③現行のまま最短動線でご出発」
手荷物超過
「機内持込はサイズ・重量規定がございます。受託または追加のご案内です」
優先搭乗要求
「優先搭乗は対象区分に基づいてご案内します」
威迫・晒し示唆(注意→条件提示)
「威迫にあたる表現はお控えください。改善がない場合、本日の現地応対を終了し、書面窓口へ切替えます」
撮影・個人情報
「撮影は保安上の理由で制限があります。担当は名字+担当IDでご案内します。個人連絡先の開示はいたしません」
打切り宣言/締切
「説明は10分で区切ります。改札締切時刻は固定です。以降は代表窓口で承ります」
退去要請(定型文)
「保安上の観点から、退去を要請します。従わない場合は警備・警察に相談します」
付録B:現場チェックリスト(ゲート運用)
三択メニュー(差額UG/振替/現行サポート)を1枚シート化。
手荷物規格カード(サイズ・重量・超過時フロー)。
優先搭乗区分(掲示・アナウンス定型文)。
担当ID名札/個人連絡先非開示。
応対時間上限(10分+5分)+タイマー常備。
要点メモ様式(日時・要旨・選択肢・注意喚起・打切り宣言)。
改札締切・扉閉時間を現場全員が即答できるようカード化。
退去要請フロー(定型文→保安→警備→警察相談)。
案件番号管理/訂正窓口(広報)連携。
付録C:規程・ガイドラインの目安(実務の使いどころ)
運送約款・運賃規則:アップグレード・振替・払い戻しの条件。
保安規程:撮影・区域・退去要請の根拠。
個人情報保護:担当者情報・記録の適正管理。
労働施策総合推進法:ハラスメント防止措置(体制整備)。
刑法(強要・威力業務妨害・不退去):威迫・居座り時の相談根拠。
付録D:導入ロードマップ(1週間スプリント)
Day1:三択メニュー・規格カード・優先区分の統一
Day2:タイマー運用/打切り宣言ロールプレイ
Day3:撮影・保安ルール掲示/担当ID徹底
Day4:退去要請定型文と保安・警備の即時連携表整備
Day5:案件番号運用/訂正窓口連携/ふりかえり
KPI:長時間拘束件数/書面切替率/再燃率/搭乗遅延への影響件数/スタッフ心理安全性スコア


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