カスハラ対策『路上の荷台 ― 宅配編』
- 山崎行政書士事務所
- 9月19日
- 読了時間: 7分
登場人物
成瀬(ドライバー):2年目。丁寧だが押しに弱い。
土岐(サブドライバー):応援要員。安全基準の遵守に厳しい。
片桐(顧客):要求が段階的にエスカレートする。
白石(配送センターSV):現場の最終判断、外部連携の権限を持つ。
管理人:マンション管理会社の委託。
ナレーション:実務・法令の解説。
シーン1:マンション前・午前10時
成瀬「○○便です。お荷物お持ちしました」片桐(インターホン越し)「時間指定11–13時だろ? 今は出られない。車をここに置いて、部屋まで上がって玄関に置いとけ」成瀬「管理規約上の留意と駐停車規制がございます。置き配は事前設定住所・指定場所のみで承ります。共用部放置は不可です」
片桐「じゃあ勝手に置いてけ。責任はこっちで取る」
成瀬「規程外での放置はできません。本日のご提案は三択です。①再配達の受付、②置き配指定の事前登録、③管理人室預かり(管理規約に適合する場合)」
🔎 実務ポイント
最初に“規程内の三択”を提示(置き配は事前合意の場所のみ/共用部は不可)。
駐停車は道路交通法、共用部は管理規約の範囲で運用。顧客の「責任取る」発言では免責されない。
応対ログ開始(時刻・要旨・選択肢提示)。
シーン2:エレベーター前・重量物
(片桐、突然1階に現れる。箱は30kg超の大型家電)
片桐「玄関の中まで運べ。ついでに設置もしろ。無料でな」成瀬「搬入・設置は別契約です。30kg超は二人以上での搬入が社内基準です。本日は玄関先でのお渡しまでとなります」片桐「持てるだろ? 根性が足りないだけだ」
(土岐が合流)
土岐「重量基準は労働安全のためのルールです。規程外作業は行いません。必要であれば後日二人便へ手配します」
🔎 実務ポイント
重量物のしきい値(例:25kg超→台車/30kg超→二人持ち/45kg超→専門便)を台詞カード化。
「できる/できない」を個人能力で語らない。基準と契約で説明。
労働安全衛生の観点を前面に(腰痛・挟まれ事故の予防)。
シーン3:個人情報・撮影
片桐(スマホを向けて)「顔と名札を撮る。フルネームと社員番号を言え。会社に晒すからな」成瀬「撮影はお控えください。担当IDでご案内します。個人情報の開示はいたしません。会社へのご連絡はお客様窓口で承ります」片桐「土下座して誠意見せろ」
土岐「威迫にあたる表現はお控えください。改善がなければ本日の応対を終了し、書面でのご案内に切り替えます。記録しております」
🔎 実務ポイント
担当ID運用(名字+ID/フルネーム・私物連絡先は非開示)。
晒し示唆・土下座強要は一度だけ注意喚起→改善がなければ打切り宣言へ。
ボディカメラ/ドラレコを使うなら目的・保存期間・閲覧権限を規程化。
シーン4:違法駐車の強要
片桐「ここに停めとけよ。すぐ終わるんだから。切符切られたら会社に言うから」成瀬「駐停車は道路交通法に従います。違法停車の指示には応じられません。コインパーキングへ回してからの再訪、または再配達をご案内します」
片桐「客の時間が最優先だろ!」
土岐「安全・法令順守が最優先です。居座りが続く場合は施設管理者に連絡し、退去要請へ移行します」
🔎 実務ポイント
違法行為の強要を拒否する定型句を全員同じ言い回しで。
パーキング代の取り扱いは事前にルール化(会社負担/顧客負担)。
管理人・管理会社との即時連絡経路を持つ。
シーン5:共有部での長時間拘束
(ロビーで声が大きくなる。配達待ちの居住者が集まり始める)
片桐「納得するまでここで話す。責任者を呼べ」成瀬「説明は10分で区切ります。以降はセンター窓口に一本化します」(土岐、タイマーを提示し、要点メモを読み上げる)
管理人(到着)「共用部の秩序を乱す行為は管理規約違反です。退去を要請します」
片桐(沈黙)
🔎 実務ポイント
時間上限(説明10分+選択5分)を見える化(タイマー・カード)。
ロビー・廊下は管理規約の適用。第三者の安全確保を最優先。
管理人・管理会社の退去要請文言を共有し、合唱させない(一人が主導)。
シーン6:センターハンドオフ
(白石SVが電話で合流)
白石「センターの白石です。音声は記録しています。規程外の要求(無料設置・違法停車・二人作業の単独実施)には応じません。本日の対応選択肢は次の三点です。①管理人室預かり、②再配達、③二人便の再手配(有償)」
片桐「上層部につなげ」白石「苦情窓口は一本化されています。以降は書面で回答します」
🔎 実務ポイント
判断権限の集中(センターSVが最終判断)。
窓口一本化と書面回答で“要求のスライド”を止める。
案件番号で一元管理(再燃を追跡)。
シーン7:合意の文書化
片桐「……二人便でいい。最短はいつだ」白石「明後日午前が最短です。搬入範囲と設置有無、費用を合意書に明記します。SNS投稿について事実誤認があれば訂正窓口をご案内します」
片桐「……わかったよ」
成瀬「ありがとうございます。本日の記録はセンターに共有します」
🔎 実務ポイント
合意書に:日程/人員数/作業範囲/費用/エレベーター使用/養生/連絡窓口。
誤情報訂正窓口の明示(広報・法務の連携)。
再燃抑止には「できること/できないこと」の平易な日本語が有効。
シーン8:終業前の点呼
(配送センター。帰庫点呼)
白石「今日の学び。基準で語る、個人で背負わない。三択提示・時間上限・窓口一本化・合意書——この四点で現場は守れる」土岐「重量基準カード、名札ID、タイマー、要点メモ。四点セットは常に携行」成瀬「次は自分の声が震えないように、台詞カードをもっと練習します」
ナレーション「路上の安全は、設計で守る。 ルールは盾であり、約束でもある」
— 完 —
付録A:即使える台詞カード(宅配版)
冒頭(三択提示)
「本日のご案内は三択です。①再配達、②置き配の事前登録、③管理人室預かり(管理規約適合時)」
重量・設置の要求
「30kg超は二人以上、設置は別契約です。本日は玄関先までのご提供です」
撮影・個人情報
「撮影はお控えください。担当は名字+IDでご案内します。個人情報の開示はできません」
違法駐車の強要
「駐停車は道路交通法に従います。違法停車の指示には応じられません。パーキング利用後に再訪、または再配達をご案内します」
威迫・晒し示唆
「威迫にあたる表現はお控えください。改善がない場合、本日の応対を終了し、書面でのご案内に切り替えます」
打切り宣言(共用部の長時間拘束)
「本日の現地応対はここまでです。以降はセンター窓口に一本化します」
付録B:現場チェックリスト(四点セット+α)
四点セット:①重量基準カード ②担当ID名札 ③タイマー ④要点メモ用紙
置き配マップ:事前登録の置き場所/撮影時の個人情報映り込み回避ルール。
管理人・管理会社連絡票:昼/夜/緊急時の連絡先と退去要請定型文。
二人便トリガー:重量/階段/養生要否/狭隘通路。
パーキング方針:距離・費用・精算方法を統一。
記録運用:保存期間/アクセス権限/苦情・広報連携フロー。
付録C:法令・規程(参照の目安)
労働施策総合推進法(ハラスメント防止措置):従業員保護の体制義務。
労働安全衛生法:重量物・反復作業の安全配慮(腰痛等の予防)。
道路交通法:駐停車の遵守(違法停車の強要は拒否)。
刑法(強要・威力業務妨害・不退去):威迫・居座りが継続する場合の通報根拠。
個人情報保護法:名札・ID運用/置き配写真の管理(映り込み配慮)。
マンション管理規約:共用部の占有・騒音・退去要請の根拠。
社内規程:置き配、二人便、設置作業、パーキング、録音・撮影の取り扱い。
付録D:導入ロードマップ(1週間スプリント)
Day1:台詞カード配布/重量基準と置き配ルールの統一。
Day2:タイマー運用と打切り宣言のロールプレイ。
Day3:管理会社連絡票の整備/退去要請定型文の共有。
Day4:二人便トリガーの棚卸し/予約枠の見直し。
Day5:録音・写真の保存ポリシー周知/苦情窓口一本化。
KPI:長時間拘束件数/書面切替率/再燃率/負傷・ヒヤリ件数/心理安全性スコア。


コメント