深夜のレジ — 七月の支払いアプリ(長編フィクション)
- 山崎行政書士事務所
- 2025年9月19日
- 読了時間: 7分
— 2019年「7pay アカウント乗っ取り:サービス開始直後にパスワードリセット設計の脆弱さ+二要素認証不備等が突かれ、数日で数百口座・約5,500万円の不正利用→緊急停止→サービス終了発表」という事実関係を骨格にした物語
00|月曜 0:32 「出していないのに、出ている」
白百合(しらゆり)コンビニ本部・決済監視室。夏芽は、新設のコード決済の取引ログの上に小さな棘が生えているのに気づいた。1分おき、同額に近い決済が異なる店舗から点線で続く。深夜帯の客数にしては多すぎる。カード会社からのチャージ失敗も、同じ端末指紋で数十回。アラートは黄色で、**規約上“許容範囲”**と書いてある。だが、夏芽の皮膚は冷えた。
「出していないのに、出ている。」
ID一覧を開くと、“今日作られたばかり”のアカウントが列を成していた。誕生日は**「0101」や「0401」が不自然に多い。ログイン先のIPは一部同じASN**でまとまっている。
「山崎行政書士事務所に。最短で。」
01|0:56 “止める/伝える/回す”
静岡・山崎行政書士事務所。白板の前に**律斗(りつと)**が太いペンで三行を書く。
止める/伝える/回す
止める:当該決済APIを電源を落とさずに**“縮退モード”へ(チャージ/決済の上限を最小・端末指紋の一致で即時ブロック)。パスワードリセット動線とメール変更動線は緊急停止**、強制ログアウトを全域に。証跡(API/WAFログ/メールゲートウェイ/アプリ解析)を一方向に吸い上げる。
伝える:三文を経営/広報/カード会社に同報。“事実”(深夜帯の多発/新規作成直後の連続決済)と**“可能性(仮説)”(アカウント乗っ取りの連鎖→設計上の脆弱さ(リセット/メール変更)悪用)を段落分離**。正午/17時に時刻で更新、「支払い先変更メールは無効」を先頭に。
回す:アプリ決済は上限極小で動かしつつ、店舗には二重確認(身分証+決済名義)を通知。遅いけど確実に回す。
りなが頷く。「“72時間”の所管報告はない分野でも、自発的報告を時刻で回します。“声は鍵”(折り返し+二名承認)を全窓口に。」
奏汰(そうた)が構成図に赤を走らせる。「パスワードリセットのKPI優先が裏目に出てる。“登録メールの確認を待たずに、新しいメールへリセットリンクを送る”線。誕生日と電話番号が推測で埋まる。」
悠真(ゆうま)が短く言う。「二要素はない。“正しいものの顔をした別人”が財布に手を入れられる。」
ふみかが一次報の三文を置いた。
現状:深夜帯に新規アカウントの連続決済を検知。当該API縮退/メール変更・リセット動線停止/全域強制ログアウト、証跡保全を実施。対応:店舗には二重確認を通達。正午に一次報、17時に更新。お願い:“返金・送金先変更”などメールだけの依頼は無効。必ず電話の二重確認を。
受付の**白い猫(やまにゃん)**が、しっぽ(Type‑C)を小さく光らせる。札には太い字。
「遅いけど確実。」
02|1:40 レジの前の人影
現場は動いていた。深夜の店舗で、紙タバコのカートンを両手で抱える若い男。バーコードのピッが一定で、レジの画面は緑のまま。アプリは**“所有者の顔”をしている。アルバイトは疑うための情報**を持たない。
夏芽は電話で言った。「レジの“二重確認”、今夜だけでも“厳しめ”に。“名義の読み合わせ”を声で入れて。」
03|2:25 四つの数字(第一次)
蓮斗(れんと)が白板に数字を書く。
MTTD(検知):18分(深夜の同額連続+新規列)
一次封じ込め:52分(縮退/動線停止/強制ログアウト)
被害推計(初期):数百口座/数千万円
方法:パスワードリセットの設計脆弱性+本人確認の薄さ
律斗は短く言う。「勝ってはいない。でも、“間に合っている”。」
04|朝 8:10 「主語」を入れる
記者会見の台本が、早朝に回ってきた。りなは主語を太くした。
当社は、どの設計が弱く、いつ止め、どう直すか。
当社は、誰に、いつ、いくらを返すか。
当社は、二要素と本人確認をどこに入れ、いつ始めるか。
“なぜ二要素を入れていなかったのか”という問いに、言い訳を許さない文にする。
05|正午 一次報(所外)
事実:新規作成直後のアカウントで不正決済が連続。当該API縮退/リセット・メール変更動線停止/強制ログアウトを実施。警察・関係各社と連携。影響(現時点):不正利用は数百口座規模、被害総額は数千万円規模(継続推計)。クレジットカード情報の保存はなし。方針:全額補償を原則とし、二要素認証・メール確認の強制・端末紐づけを実装。再開時期は17時に更新。
怒号はある。けれど、時刻が不安の終わりを作る。
06|午後 「設計」の反省
奏汰は設計図に赤を入れる。
リセット:“登録済みメール”にのみ送る。新規メール登録は確認完了まで反映しない。
メール変更:旧メール通知+新メール確認+本人操作の二段階。
支払い:端末紐づけと二要素(SMSか認証アプリ)、新端末は冷却期間。
KPI:**“登録の速さ”より“戻れる速さ”**を採用指標に。
悠真は**“声の鍵”を店舗の台本に戻す。名義の読み合わせ、二名承認、不審時の番号控え。紙は遅い**。でも、戻れる速さはそこから生まれる。
やまにゃんの札が光る。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
07|二日目 逮捕のテロップ
ニュースが昼に走った。都内の店舗で**“アプリで大量購入”を試みた男二人が現行犯逮捕**。端末は同じ指紋が複数の不正で観測されていた。夏芽は息を整える。だが、連鎖は終わっていない。設計が残す穴は**“別の人”の手でも突かれる**。
08|三日目 17:00 “緊急停止”と“終了の判断”
経営会議。りなは短く言う。
「再開の“安全”を、この夏に間に合わせる根拠がない。」「終了を判断し、返金と補償を時刻で言い切るべき。」
一次停止が完全停止に変わる。終了の日付が決まり、補償の窓が開く。夏芽は深く息を吐き、紙の台本を閉じた。
09|その後 数字が出る
発表は段階だった。被害口座は約900、被害総額は約5,500万円。逮捕はさらに数件。設計は失敗で終わったが、補償は時刻で終わらせる。広報は**“二要素”と“本人確認”を最初の行に据え、再発防止は別の箱で歌い直す**と明言する。
蓮斗の数字が更新される。
被害口座:約900
被害総額:約5,500万円
設計是正:二要素/メール確認/端末紐づけ/冷却期間
方針:終了と全額補償
10|講堂 “三つの時計”と三行
現場の時間(レジ・サポート・補償)
規制の時間(金融・個人情報保護の届出/説明責任)
経営の時間(信頼・終了・再起)
りなは三行で締める。
言い切る(事実と可能性を同じ文に置かない)期限を付ける(返金/終了の日付を先に置く)二重に確かめる(設計の前後に**“人の10分”**)
奏汰は図を黒で縁取る。
“見る鍵/運ぶ鍵/署名する鍵”を分け、常時特権ゼロ/JIT特権。
本人確認の三段(端末紐づけ+二要素+名義読み合わせ)。
リセットは旧メール経由、新メールは確認完了まで反映しない。
KPIを**“登録の速さ”から“戻れる速さ”**へ。
やまにゃんが静かに札を揺らす。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
11|エピローグ 深夜のレジにて
深夜のレジは、元の速さに戻った。夏芽は監視盤の端に紙を差し込み、時刻を押す。“便利の近道”は、ときに刃になる。でも、戻れる速さは“二重の鍵”と“人の10分”の中にある。次に歌い直す箱は、短くて太い鍵で閉めよう。
—— 完
参考リンク(URLべた張り/事実ベース・一次情報/主要報道・技術整理)
※上記はフィクションですが、骨格(2019年7月の 7pay アカウント乗っ取り/開始直後の不正利用多発/パスワードリセット動線の設計脆弱性・二要素欠如/約900口座・約5,500万円/緊急停止→終了発表/逮捕事案)は以下に基づいています。
主な点:セブン&アイの7/4緊急対応のお知らせと8/1のサービス終了発表、NHK/日経/ITmedia/朝日/Japan Times/Reutersの数値(約900口座・約5,500万円)と逮捕報道、piyologの**設計問題(パスワードリセット動線・二要素欠如)**の整理を確認できるよう並べました。


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