白昼の待合室 — WannaCryの金曜(長編フィクション)
- 山崎行政書士事務所
- 2025年9月19日
- 読了時間: 6分
— 2017年「WannaCry(WannaCrypt/Wana Decrypt0r)ランサムウェア:EternalBlue(SMBv1/CVE‑2017‑0144)で感染→院内・企業ネットに急拡大→“キルスイッチ”ドメインで拡散が鈍化→NHS等の診療・業務停止→英米当局の注意喚起とのちの帰属表明」を骨格にした物語
00|金曜 12:14 赤い窓、止まる予約
白梟(しろふくろう)医科大学病院・外来受付。夏芽が院内ヘルプデスクの電話を取る前に、受付端末の画面が赤く切り替わった。
Ooops, your files have been encrypted!診療予約の列が止まる。検査機器への連絡が届かない。院内ネットワークの端から端へ、同じ赤が一斉に灯っていく。「山崎行政書士事務所に、最短で。」
01|12:27 “止める/伝える/回す”
静岡・山崎行政書士事務所。ホワイトボードに**律斗(りつと)**が三行を書く。
止める/伝える/回す
止める:院内L3のSMB(445/TCP)を境界で全面遮断。東病棟LANを物理分割、画像診断・検査装置をオフライン島へ退避。電源は落とさず、証跡は一方向に吸い上げる。SMBv1は可能な端末から順に無効化、未対応機器は封鎖。
伝える:三文で院内・救急隊・地域連携先へ同報。“確認された事実”(赤画面/共有経由の拡大)と**“可能性(仮説)”(EternalBlue等のSMB脆弱性連鎖)を段落で分け、正時/17時の更新時刻**を約束。「支払い先変更メールは無効」を冒頭に置く。
回す:受付は紙カルテ、検体搬送は人走り、読影は電話復唱へ。救急は一部受入制限し周辺病院へ分散。——遅いけど確実に回す。
りなが頷く。「72時間の法の時計を回します。“声は鍵”(折り返し+二名承認)を窓口で。」
奏汰(そうた)はトポロジに赤を走らせる。「EternalBlue(SMBv1/CVE‑2017‑0144)で最初の一歩、認証情報奪取やDoublePulsarで二歩目。“自走”するから端末が止め切れない。」悠真(ゆうま)が短く足す。「“身代金を払えば戻る”設計とは限らない。今は広げないが最優先。」
ふみかが一次報の三文を置く。
現状:院内端末の赤画面を多数確認。SMB遮断/セグメント分割/オフライン退避を実施、証跡保全を開始。対応:受付・検査・読影は紙運用/電話復唱で継続。正時に一次報、17時に更新。お願い:“支払い先変更”などメールのみの依頼は無効。必ず電話で二重確認を。
受付の白い猫のマスコット(やまにゃん)が、しっぽのType‑Cを小さく光らせた。札には太い字。
「遅いけど確実。」
02|13:03 “意味のない”長いドメイン
DNSの統計に、見たことのない長い名前が間欠的に並んだ。夏芽は眉をひそめる。「誰かが“水槽の水位”を測ってる。」りながメモに走り書きする。「世界で同時多発の兆し。キルスイッチの噂が上がり始めた。」
蓮斗(れんと)が四つの数字を書く。
MTTD(検知):13分(赤画面→共有遮断)
一次封じ込め:36分(SMB遮断/分割/退避)
感染端末:約180台/約1,200台中(初動)
受入影響:救急一部制限/外来予約 −60%
律斗は短く言う。「勝ってはいない。**“間に合っている”**だけだ。」
03|14:20 紙と声の病院
外来は紙カルテに戻り、検体は手で運ばれる。読影は電話で復唱、合併症リスクのチェックリストは手書きで回る。遅いが、戻れる速さはここからしか生まれない。
やまにゃんの札が光る。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
04|15:05 “パッチは三月、今日が五月”
MS17‑010の配布は三月。だが、医療機器はベンダの承認が必要で止められていた。古い端末はSMBv1が既定で有効、検証を理由に後回しになっていた。奏汰は空の箱を立ち上げ、既知良品だけを最小限で載せる。古い機器は物理的に別の島に縛る。
05|16:10 “止まる”という救い
世界の向こうで、若い研究者が長いドメインを**“受け止める”(シンクホール)ことで、新規の拡散にブレーキがかかったと技術スレが伝える。院内の火はまだある**。けれど、外からの風は弱まった。悠真は感染端末のボリュームを凍結し、新しい箱にデータを引っ越す準備をする。
06|17:00 二次報
封じ込め:SMB遮断/分割/退避を維持。キルスイッチの効果で新規拡大は鈍化。空の箱に最小構成で復帰を開始。影響:救急の一部制限継続、外来は紙運用。事故報告なし。次:夜間にMS17‑010/SMBv1無効化を可能範囲で完了、未承認機器は完全隔離。72時間の線を維持。
蓮斗の数字。
MTTD:13分 → 7分(**“赤画面/SMBスパイク”**の常設検知)
一次封じ込め:36分 → 23分
常時特権:ゼロ(JIT化)
例外期限遵守率:98%
07|夜 古い機械の都合、患者の時間
XP世代の検査装置はパッチが当たらない。りなは患者の時間を優先し、代替検査の搬送線を紙で作る。夏芽は古い島に監視だけの細い光を残し、人の出入りに二名承認を付ける。
08|翌朝 08:20 「世界の同時多発」
政府機関が注意喚起を出し、“SMBv1を切る/MS17‑010を適用/バックアップを保全”を呼びかける。欧州の警察機関はフォレンジック支援を表明。報道はNHS等の診療停止と大量の予約キャンセルを数え上げる。帰属の話は私たちが言わない。公的発表に歩調を合わせる。私たちは**“何が起き、何を止め、どう戻したか”を時刻**で言う。
09|三日目 11:40 “72時間”の線
所管への報告が二段落で確定する。
確認された事実:赤画面の一斉出現、SMB遮断/分割/退避、キルスイッチ効果、MS17‑010適用/SMBv1無効化、紙運用での継続。
未確定(継続調査):第三者提供の有無・範囲(臨床データは暗号化・消失のみか)、外部機関連携の最終結果。
講堂に三つの時計が並ぶ。
現場の時間(外来・検査・救急)
規制の時間(72時間)
経営の時間(信頼・補償・再発防止)
りなは三行で締める。
言い切る(事実と可能性を混ぜない)期限を付ける(例外は48時間で自動失効)二重に確かめる(自動の前後に**“人の10分”**)
10|数か月後 紙を残す設計
院内ネットは新しい箱で歌い直し、SMBv1は全廃。バックアップはWORMの二経路、署名だけでは通さない(署名+再現)が採用基準になった。救急の机には薄い紙束が残る。やまにゃんの札は今日も静かに光る。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
—— 完
参考リンク(URLべた張り/事実ベース・一次情報/主要公的通達・技術解説・報道)
※物語はフィクションですが、骨格(WannaCry の SMBv1/CVE‑2017‑0144 を突く拡散、キルスイッチによる鈍化、NHS等の混乱、MS17‑010とSMBv1無効化の勧告、のちの帰属表明)は以下に基づいています。
https://msrc.microsoft.com/update-guide/vulnerability/CVE-2017-0144https://www.microsoft.com/security/blog/2017/05/12/customer-guidance-for-wannacrypt-attacks/https://www.cisa.gov/news-events/alerts/2017/05/12/ransomware-wannacryhttps://www.ncsc.gov.uk/guidance/wannacry-ransomware-campaignhttps://www.europol.europa.eu/operations-services-and-innovation/operations/wannacry-ransomware-attackhttps://www.nao.org.uk/reports/investigation-wannacry-cyber-attack-and-the-nhs/https://www.bbc.com/news/health-39899646https://www.malwaretech.com/2017/05/how-to-accidentally-stop-a-global-cyber-attack.htmlhttps://securelist.com/wannacry-factsheet-and-timeline/78870/https://www.justice.gov/opa/pr/north-korean-regime-backed-programmer-charged-two-major-cyber-attacks
主な点:MSRC/CVEの技術情報、CISA/NCSCの注意喚起、Europolの国際捜査・支援、NAOのNHSインシデント検証、BBCの診療影響報道、MalwareTechのキルスイッチ解説、Securelistの時系列、米司法省の訴追文書(WannaCryの帰属言及)を参照しました。

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