赤い試写室 — スタジオの月曜(長編フィクション)
- 山崎行政書士事務所
- 9月17日
- 読了時間: 6分

— 2014年の映画スタジオ大規模侵害(破壊型マルウェア/大量流出/劇場公開の中止と限定復活/公的機関の帰属表明)を骨格にした物語
00|月曜 7:42 赤い壁紙
菫(すみれ)スタジオの本館に、朝のあいさつより先に赤い壁紙が広がった。黒い骸骨の絵、脅し文句、**“決めろ”**という短い命令。夏芽はキーボードに触れず、LANケーブルに手を伸ばした。1本ずつ、確かめるように抜く。
「山崎行政書士事務所に。最短で。」
廊下の向こうで、プロデューサーが月曜の試写の時間を気にしていた。試写室のサーバも、同じ赤に染まっていく。
01|8:03 “止める/伝える/回す”
静岡・山崎行政書士事務所。ホワイトボードに**律斗(りつと)**が三行を書く。
止める/伝える/回す
止める:AD/ファイルサーバから配布されるものを止める。GPOのスクリプト実行を遮断、管理共有を外科的に閉鎖。マスター・イメージと金庫バックアップはオフラインへ避難。電源は落とさない、証跡は一方向で吸い上げる。
伝える:三文の一次報を経営/全社員/劇場チェーンへ。“確認された事実”(破壊型挙動/社内データ流出の可能性)と**“可能性(仮説)”(継続的な外部送出/上映計画への影響)を段落で分け、正午/17時に時刻で更新**。**「支払い先変更メールは無効」**を冒頭に置く。
回す:制作・ポスプロはオフライン島に引っ越し、素材搬入は手持ち(封緘)→検証→取込。遅いけど確実に回す。
りなが言う。「72時間の法の時計を回します。“声は鍵”(折り返し+二名承認)を全窓口で。」
奏汰(そうた)はネットワーク図に赤を走らせる。「SMBの横展開、リスナー、バックドア、最後に破壊ツールの段重ね。昔の報告と同じ骨格だ。」悠真(ゆうま)が短く足す。「“読むだけで消す”種類の掃除機が一緒に来てる。掃除じゃない、焼却だ。」
ふみかは三文の一次報を置いた。
現状:破壊型挙動(端末の起動不能・ファイル消去)を確認。共有遮断/GPO停止/オフライン退避を実施、証跡保全を開始。対応:制作・ポスプロはオフライン島で継続。正午に一次報、17時に更新。お願い:“支払い先変更”などメールのみの依頼は無効。必ず電話で二重確認を。
受付の**白い猫のマスコット(やまにゃん)**が、しっぽのType‑Cを小さく光らせた。札には太い字。
「遅いけど確実。」
02|9:15 “倉庫の蓋”が開いていた
監査ログを並べ替えると、春先から薄い足跡が続いていた。社外の踏み石、特権の巻き取り、夜間の列挙、倉庫の設営。夏芽は**“安全コピー”を名乗る偽の中継を見つける。圧縮は暗号化ではない。悠真が低く言う。「抜くための準備を抜かりなく**やってから、燃やす。」
03|10:02 四つの数字(第一次)
蓮斗(れんと)が白板に書く。
MTTD(検知):18分(赤画面→共有遮断)
一次封じ込め:47分(GPO停止/管理共有閉鎖/オフライン退避)
外向き送出:深夜に塊(継続照合)
上映影響:試写停止/公開判断の検討着手
律斗は短く言う。「勝ってはいない。**“間に合っている”**だけだ。」
04|11:40 “漏れていく言葉”
社内メールの断片、給与表、未公開の脚本、未封切りの映像が外の掲示板に滴り始める。りなは広報台本を二段落に整える。
確認された事実:破壊型挙動、内部データの第三者投稿の確認、上映計画の精査。
未確定(継続調査):外部送出の範囲、個人情報の内訳、帰属の推定。
「混ぜない。事実と可能性を同じ文に置かない。」
05|正午 一次報(社外)
事実:破壊型挙動と内部情報の不正公開を確認。共有遮断・GPO停止・オフライン退避で封じ込めを継続。上映計画は安全最優先で再検討。影響(現時点):一部の業務停止・試写延期。個人情報の第三者提供の確証なし(継続調査)。約束:17時に更新。“メールだけ”の依頼は無効、電話二重確認を。
怒号はまだ遠い。時刻が不安の終わりを作る。
06|午後 “スクリーンの消灯”
劇場チェーンが一斉に撤退の連絡を寄越す。脅迫文が映画館に届いたという。公開という光が、一度消えた。経営会議でCFOが問う。「出すのか、出さないのか。」りなは言う。「安全をまず置く。だが、言葉は守る。時刻で更新し、決定の理由を短く言い切る。」
07|夕刻 “帰属”の報
政府機関が**“破壊型マルウェアと知的財産の窃取”を確認し、特定の国家への帰属を公に表明する。技術共同体は過去の攻撃との共通性**(コード/インフラ/癖)を並べ、研究連合は関連グループの道具箱を開いて見せる。帰属は私たちが言わない。公的発表に歩調を合わせる。私たちは**“何が起き、何を止め、どう変えたか”だけを数字と時刻**で言う。
08|二日後 限定上映の朝
独立系劇場がスクリーンを空けた。オンライン配信の窓も開いた。夏芽は封緘テープを剥がし、新しい箱に鍵束を分けて入れる。
見る鍵/運ぶ鍵/署名する鍵。常時特権はゼロ。必要時だけ(JIT)に短く貸す。
やまにゃんの札が光る。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
09|三日目 11:40 “72時間”の線
所管への報告が二段落で確定する。
確認された事実:破壊型挙動、内部情報の外部掲載、上映判断の変更、共有遮断/GPO停止/オフライン退避、鍵束分割。
未確定(継続調査):第三者提供の最終範囲、個人情報の内訳、外部機関連携の結果。
蓮斗の数字。
MTTD:18分 → 9分(**“赤画面/MBR異常”**の常設検知)
一次封じ込め:47分 → 28分
例外期限遵守率:98%
常時特権:ゼロ(JIT化完了)
10|数か月後 “メールの灰”ののち
製作陣は別の脚本に取り掛かり、劇場は次の看板を掲げる。監査報告は紙で届き、教訓は三行に落ちた。
言い切る(事実と可能性を混ぜない)期限を付ける(例外は48時間で自動失効)二重に確かめる(自動の前後に**“人の10分”**)
菫スタジオはスクリーンの前に立ち直り、赤い壁紙の記憶を鍵束の設計に変えた。流された言葉は戻らない。それでも映画は、次の夜に灯る。
—— 完
参考リンク(URLべた張り/事実ベース・一次情報/主要技術・報道)
https://www.fbi.gov/news/press-releases/update-on-sony-investigationhttps://www.cisa.gov/news-events/alerts/2014/12/19/targeted-destructive-malwarehttps://www.usna.edu/CyberCenter/_files/documents/Operation-Blockbuster-Report.pdfhttps://www.theguardian.com/film/2014/dec/18/fbi-north-korea-sony-pictures-hack-the-interviewhttps://www.theguardian.com/film/2014/dec/23/the-interview-us-screening-christmas-dayhttps://www.wired.com/2014/12/theaters-showing-the-interviewhttps://www.nbcwashington.com/news/national-international/sony-youtube-will-stream-the-interviewon-thursday-ap-source/109623/https://time.com/3642161/sony-hack-north-korea-the-interview-fbi/https://unit42.paloaltonetworks.com/unit42-the-blockbuster-sequel/
主な点:FBIの公式発表(破壊型マルウェア+知財窃取/国家関与の帰属)、US‑CERT/CISAの**“Targeted Destructive Malware”警報(構成要素と緩和)、Novetta/Operation Blockbuster と後続分析**(Lazarusの道具と癖)、劇場公開の中止→限定復活/オンライン配信を巡る主要報道を確認できるよう並べました。


コメント