青葉の遮断 — 管理サーバの金曜日(長編フィクション)
- 山崎行政書士事務所
- 9月17日
- 読了時間: 7分
— 2021年「Kaseya VSA を起点にした REvil(Sodinokibi)ランサムウェアのサプライチェーン攻撃:ゼロデイ悪用→VSA でスクリプト配信→多数の MSP 経由で顧客端末暗号化→北欧小売の店舗停止→$70M 要求→“第三者”経由のユニバーサル復号鍵→当局・規制・逮捕」の骨格に基づく創作
00|金曜 16:02 “予定していないジョブ”
青葉マネージドサービスの監視室。夏芽は RMM ダッシュボードの保留中ジョブに見慣れない行を見つけた。
「Kaseya VSA Agent Hotfix – 全組織/全端末」作成者はKaseyaAdmin。自分ではない。配布数は上限、開始時刻は現在。スクリプトの内容は不透明な PowerShell、呼び出すのは**“msupdate.exe”に似た名前。CPUは静か。だがログの端で、外から短い針がVSA**に吸い込まれている。
「これは“更新”じゃない。」
夏芽は山崎行政書士事務所の短縮を押した。
01|16:18 “止める/伝える/回す”
静岡・山崎行政書士事務所。ホワイトボードに律斗が三行を書く。
止める/伝える/回す
止める:VSA サーバを電源を落とさずネットワーク隔離(WAN/管理LANを物理遮断、証跡は一方向で吸い上げ)。エージェント配布とスクリプト実行権限を即停止。ドメイン常時特権はゼロ化し、JIT特権で一時貸与に切替。顧客セグメントとのL3ピボットは遮断。
伝える:三文で社内/顧客/所管へ同報。“確認された事実”(VSA から不審ジョブ配信)と**“可能性(仮説)”(MSP 経由の暗号化拡大の線)を段落で分け、正午/17時の更新時刻を約束**。「支払い先変更メールは無効」を一文目に。
回す:緊急チケットは紙台帳+直通電話に切替。更新や配布は週末停止。顧客のバックアップはオフライン(WORM)へ退避。遅いけど確実に回す。
りなが頷く。「72時間の法の時計も回します。“声は鍵”(折り返し+二名承認)を全窓口へ。」
奏汰が構成図に赤を走らせる。「ゼロデイでVSAの入口を抜かれ、管理の手で**“更新に見える刃”を配る筋。その先でREvil(Sodinokibi)が暗号化を歌う**。」
悠真は短く足す。「“中央から押す”のを止める。“地方で切る”手順を先に動かす。」
ふみかが一次報の三文を置く。
現状:VSA サーバから不審ジョブ配信を検知。ネットワーク隔離/配布停止/証跡保全を実施。対応:顧客向け運用は紙台帳+直通電話で継続。正午に一次報、17時に更新。お願い:“支払い先変更”などメールのみの依頼は無効。必ず電話で二重確認を。
受付の白い猫のマスコット(やまにゃん)が、しっぽのType‑Cで小さく光る。札には太い字で、
「遅いけど確実。」
02|16:46 “同時多発”の予感
顧客の工房から電話。「デスクトップの壁紙が暗い告知になった。拡張子が見たことのない文字列に。」別の顧客は「レジが止まって売れない」。北欧のニュースを映すテレビで、大手スーパーが閉店のテロップを流す。
蓮斗が四つの数字を書く。
MTTD(検知):16分(VSA 不審ジョブ→配布停止)
一次封じ込め:41分(VSA 隔離/顧客ピボット遮断)
暗号化確認顧客:7/63(初動)
バックアップ到達率(オフライン):89%
律斗は短く言う。「勝ってはいない。**“間に合っている”**だけだ。」
03|17:20 “誰の名前で命令が出たか”
ジョブログにはKaseyaAdminの名前。しかし、操作は外から注入されている。夏芽は管理者の二要素を全員に強制し、“見る鍵/書く鍵/配る鍵”を分離。JIT特権の貸与には**“人の10分会議”を挟む**。
りなは顧客向けの三文に一行足した。
「当社は不当な要求には応じません。復旧は証跡と安全を優先して進めています。」
04|18:05 “紙の電話”が回りだす
紙台帳に顧客名と時刻が並ぶ。電話は復唱、作業は二名承認、現地は遮断→退避→検証の黄色線。自動配布の便利は封印された。でも、戻れる速さはここにある。
やまにゃんの札が微かに揺れた。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
05|19:40 “外”の通達
当局とセキュリティ機関が緊急通達を出す。
「VSA を直ちに停止/隔離」「IoC/Yara 配布」「関係者への注意喚起」ベンダはクラウド版の遮断とオンプレ停止を勧告、週末は**“止める”週**になった。
蓮斗の数字が更新される。
顧客復旧状況:完全 3/部分 9/調査中 11
支払要求:統一額の噂(例:$70M)(公的報道)
当社支払方針:不払(対策と復旧を優先)
06|翌朝 06:30 “暗闇のあと”
夜の間に拡大は止まった。紙と外付けに逃していたバックアップから、顧客の会計が戻る。ただ、数社は金曜の最終差分が欠けていた。りなは補償線と広報台本を整える。事実と可能性を混ぜない。時刻で言い切る。
07|正午 一次報(社外)
事実:VSA サーバでの不審ジョブ配信を受け、隔離/配布停止、顧客ピボット遮断/オフライン退避を実施。一部顧客端末で暗号化を確認し、復旧を進行。影響(現時点):暗号化影響 顧客 7、バックアップからの復旧 3 完了/9 進行。第三者提供の確証なし(継続調査)。約束:17時に更新。“メールだけ”の依頼は無効。電話二重確認を。
怒号は少ない。時刻が不安の終わりを作る。
08|14:22 “復号鍵”という噂
ダークウェブの看板が突然消える。数日後、ベンダが**「信頼できる第三者からユニバーサル復号鍵を入手」と発表する。夏芽は実験環境で鍵を試し、戻ることを確かめる——が、使わない顧客もある。証跡と後始末を優先**するためだ。
奏汰は復旧の流れを紙から新しい箱へ繋ぐ。“戻す”のではなく“引っ越す”。自動更新は切らず、“管理面の一括操作”は二名承認+記録へ。
09|17:00 二次報
封じ込め:VSA 隔離/顧客ピボット遮断の維持。復旧は新環境(最小権限/JIT特権)で段階に。復号鍵の適用可否は個別判断。影響:復旧済 8/進行 7。事故報告なし。次:夜間にログの“証跡ロック”(WORM)と監査、翌日に旧環境の凍結保全。72時間の線を維持。
蓮斗の数字。
MTTD:16分 → 9分(**“管理面の異常配布”**の常設検知)
一次封じ込め:41分 → 27分
常時特権:ゼロ(JIT化 完了)
例外期限遵守率:98%
10|三日後 11:40 “72時間”の線
所管への報告が二段落で確定する。
確認された事実:VSA の不審ジョブ配信、顧客端末の暗号化、隔離/遮断/オフライン退避、復旧、ユニバーサル復号鍵の検証。
未確定(継続調査):第三者提供の有無・範囲、初期侵入経路の細部、外部機関連携の最終結果。
りなは講堂で三つの時計を示す。
現場の時間(顧客業務・復旧・請求)
規制の時間(72時間と継続報告)
経営の時間(信頼・是正・再発防止)
教訓は四つ。
“管理の手”を二重化する(見る鍵/配る鍵/書く鍵を分け、常時特権ゼロ)。
“中央の便利”に“人の10分会議”(RMM 一括操作は二名承認+記録)。
オフラインに逃がす道を常設(WORM/物理分離)。
止める/伝える/回すを時刻で習慣化。
やまにゃんの札は今日も変わらない。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
青葉マネージドサービスは新しい箱で小さく歌い直した。管理サーバの便利さは刃にもなる。だから遅いけど確実を、最初に置く。
—— 完
参考リンク(URLべた張り/事実ベースの注記・一次情報/主要公的整理・技術解説・報道)
※物語はフィクションですが、骨格(2021年7月の Kaseya VSA を起点としたサプライチェーン型ランサム、MSP 経由での暗号化拡大、北欧小売の店舗停止、統一額($70M)要求の公表、ベンダによるユニバーサル復号鍵の入手公表、当局の共同勧告、容疑者逮捕・起訴)は下記に基づいています。
https://www.cisa.gov/news-events/alerts/aa21-194ahttps://www.kaseya.com/blog/2021/07/02/kaseya-vsa-vulnerability/https://www.kaseya.com/blog/2021/07/21/kaseya-obtains-universal-decryptor-key/https://www.reuters.com/technology/russian-linked-hackers-demand-70-million-ransom-after-software-supply-chain-attack-2021-07-05/https://www.bbc.com/news/technology-57707530https://www.divd.nl/cases/DIVD-2021-00011/https://www.huntress.com/blog/rapid-response-kaseya-vsa-exploited-to-deliver-revil-ransomwarehttps://www.eset.com/int/about/newsroom/blog/research/kaseya-supply-chain-attack/https://sophos.com/en-us/company/newsroom/press-releases/2021/07/sophos-publishes-revil-kaseya-attack-researchhttps://www.justice.gov/opa/pr/united-states-announces-arrests-and-charges-two-international-ransomware-operatorshttps://www.cisa.gov/news-events/cybersecurity-advisories/aa21-265a
主な点:CISA/FBI/NSA の共同勧告(AA21‑194A ほか)が手口・IoC・緩和策を整理、Kaseya の公式通達・復号鍵入手公表、Reuters/BBC による**$70M 要求や北欧小売の店舗停止報道、DIVD の事前通報の経緯**、Huntress/ESET/Sophos の技術分析、米司法省のREvil 関係者逮捕・起訴公表などを参照。


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