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はじめに(当ブログについて)
山崎行政書士事務所は、
事業の「はじめる」「続ける」「育てる」各段階で生じる
法律・手続きに関する課題をサポートする行政書士事務所です。
許認可申請、契約書の作成・チェック、各種相談、
個人情報保護への対応、事業承継、知的財産の登録支援など、
事業者の皆さまが直面しやすい幅広いテーマを取り扱っています。
新規開業や事業拡大の場面で避けて通れない
行政手続きや法規制について、
専門的な知識と実務経験をもとに支援しています。
当ブログの位置づけについて
当ブログでは、
動画や記事を通じて 山崎行政書士事務所の考え方や取り組みを
できるだけ分かりやすくご紹介しています。
また、
理解を深めていただく目的で、
小説・フィクション形式の記事も掲載しています。
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一部の記事には 実際の事例とは異なる表現や
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静鉄怪異文書録 第2話 消印のない内容証明
内容証明郵便というものは、人の声から温度を奪うためにできているのではないかと、私は時々思う。 好きです、嫌です、助けてください、もう限界です。 そういう言葉を、そのまま紙に載せれば、紙はたちまち湿る。だが、法務文書は湿りを嫌う。 通知人。 被通知人。 本書到達後七日以内に。 誠意ある回答なき場合には。 法的手続を検討せざるを得ません。 怒りも、悲しみも、怯えも、すべて一定の行間に収められる。 そうしてようやく、郵便局の窓口で受け付けてもらえる声になる。 私の事務所は、静岡市葵区鷹匠の古い雑居ビルの二階にある。静鉄の日吉町駅から歩いて三分。窓を開けていると、踏切の警報音と、電車が低く軋む音がよく聞こえる。 村松行政書士事務所。 看板は父の代からそのままだ。 相続、遺言、車庫証明、建設業許可、在留資格。 机の上にはいつも、誰かの生活の端が積まれている。 最初の封筒が届いたのは、十月のはじめ、月曜日の朝だった。 事務所のドアを開けると、郵便受けではなく、床の中央に封筒が落ちていた。 白い長形三号封筒。 宛名は、万年筆のような黒い字で書
山崎行政書士事務所
5月17日読了時間: 14分


静鉄怪異文書録 第1話 十五枚目の委任状
山崎行政書士事務所のポスターを静鉄全駅に出したのは、私の見栄だった。 事務所は静岡市葵区鷹匠の古いビルの二階にある。新静岡駅から歩いて五分、セノバの灯りが夜ごと窓硝子に滲み、雨の日には階段の踊り場まで湿ったアスファルトの匂いが上がってくる。 父から継いだ小さな事務所だった。相続、遺言、建設業許可、車庫証明、農地転用、法人設立。行政書士の仕事は、たいてい誰かの人生の境目にある。生まれた、死んだ、継いだ、始めた、移った、許された、許されなかった。その境目に、紙がある。 私が広告代理店に出した文面は、こうだった。 相続・遺言・各種許認可 書類のことなら 山崎行政書士事務所 紙一枚で、暮らしは進む。 少し気取ったコピーだと思った。けれど、父の代から使っている古い複合機の横に貼ってみると、思いのほか馴染んだ。紙一枚で、暮らしは進む。そうであってほしい、という願いでもあった。 静岡鉄道静岡清水線の十五駅に、同じポスターが一枚ずつ掲示された。新静岡、日吉町、音羽町、春日町、柚木、長沼、古庄、県総合運動場、県立美術館前、草薙、御門台、狐ヶ崎、桜橋、入江
山崎行政書士事務所
5月17日読了時間: 11分


十五枚目の委任状
―静岡鉄道・山崎行政書士事務所広告怪異譚― 新静岡駅の改札を抜けた瞬間、森尾結は、自分が書いたはずの言葉が死んでいるのを見た。 いや、死んでいるというより、別の誰かに着せ替えられていた。 ホームへ降りる階段の途中、薄い雨の匂いを吸った靴音が、タイルの上で不自然に響いた。五月の夜だった。終電まではまだ時間がある。けれど人影はまばらで、静鉄の駅にしては、妙に息を潜めている。 壁面の広告枠に、白地のポスターが一枚。 中央に、丸眼鏡の老人がやわらかく笑っている。その下に、青い明朝体でこうあった。 山崎行政書士事務所さあ、相続の不安を、一枚の紙からほどきましょう。 結は息を止めた。 彼女が入稿したコピーは違う。 本来なら、そこには、 「相続・遺言・許認可のご相談は、まちの身近な専門家へ」 と、どこにでもある、けれど山崎先生らしく角のない文言が入っているはずだった。 それが違う。 しかも、最初の一文字だけが、妙に濃い。 さ。 インクが乾き切らない血のように、わずかに滲んでいた。 結はスマートフォンを取り出した。手が震えて、カメラがなかなか起動しない。 そのと
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 28分


薄荷色の川
――平成十五年、道修町にて―― 平成十五年の春は、いつもより少し早く大阪へ降りてきた。 淀屋橋の欄干に朝の光が触れると、土佐堀川は薄い銀紙を広げたようにきらめき、その上を渡る風には、まだ冬の名残の冷たさが混じっていた。川沿いの柳は、まるで誰かの言葉を聞き終えたばかりのように、やわらかく枝を垂らしている。 幹夫はその風景を、毎朝同じ歩幅で眺めてきた。 道修町に本社を構える日本でも指折りの製薬会社。その研究棟へ通う道は、彼にとって四十年近く続いた小さな巡礼だった。白衣を着る前の数分、川の水面や街路樹の葉や、石畳の隙間から顔を出す名も知らぬ草に目をやる。それは習慣というより、彼にとっては挨拶に近かった。 「おはようございます」 声に出すこともあった。 通勤途中の若い社員がそれを聞けば、不思議そうに振り返るかもしれない。しかし幹夫には、返事が聞こえていた。 柳はさらさらと葉を鳴らし、川は光を揺らしながら応えた。 ――今日も、急がなくていいよ。 そう言われたような気がして、幹夫は少しだけ肩の力を抜いた。 幹夫は六十歳になっていた。...
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 9分


風の薬包紙
平成五年の春、大阪の朝は、まだ少しだけ昭和の匂いを残していた。 御堂筋の銀杏並木は、若葉をひらく前の薄い緑を枝先にため、地下鉄の吐き出す風に、かすかに身を震わせていた。梅田のビル群は朝靄の奥で白く霞み、遠く淀川の水面には、空の色とも川の色ともつかない淡い銀色が漂っている。 幹夫はその朝も、いつものように会社へ向かっていた。 大阪に本社を構える、日本でも指折りの製薬会社。幹夫はそこで、中核研究者として新薬開発に携わっていた。五十歳になった今も、研究所の若い者たちは彼を見るたび、不思議な印象を抱いた。白衣を着ると背筋がすっと伸び、実験データを見つめる目は鋭い。けれど、誰かが小さな失敗をすれば、彼は責めるより先に、その人の心の震えに気づいてしまう。 「大丈夫や。試薬より、人の心のほうが壊れやすいからな」 そう言って笑う幹夫の声には、薬棚に並ぶ琥珀色の瓶よりも、柔らかな光が宿っていた。 彼は優しすぎる男だった。 優しすぎるがゆえに、会議で誰かが言葉に詰まれば自分の意見を引っ込め、研究室の若者が疲れた顔をしていれば、自分の帰宅を遅らせてまで話を聞いた。数々
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 8分


水面の処方箋
昭和五十八年の大阪は、春の終わりから梅雨へ向かうころ、街全体が薄い硝子の膜をまとったように光っていた。 道修町の古い薬問屋の軒先には、朝の湿り気がまだ残り、石畳の隙間からは名もない草が小さな緑をのぞかせていた。幹夫はその緑を見るたび、不思議と胸の奥がやわらかくなるのを感じた。 四十歳になった自分を、彼はまだ「大人」と呼びきれずにいた。 日本でも指折りの製薬会社に勤め、研究所では新薬開発の中心に立つ一人だった。白衣を着れば、部下たちは彼を「幹夫さん」ではなく「先生」と呼ぶ。会議では数値と資料が並び、薬効、安全性、承認、競合、期限――そうした言葉が、乾いた金属音のように机の上を跳ねた。 けれど幹夫の心の中には、いつも別の声があった。 それは顕微鏡の下で見る細胞の震えにも似ていたし、淀川の葦が風に鳴る音にも似ていた。薬とは何だろう。人を治すとは何だろう。命の痛みに触れる仕事をしながら、自分は本当に命に耳を澄ましているのだろうか。 そんな問いが、彼の胸の深いところで、眠らない水のように揺れていた。 その朝も、幹夫は家を出る前に庭の椿に水をやった。...
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 7分


硝子の川のほとりで
昭和四十八年の秋、大阪の朝は、いつも薄い水の匂いを含んでいた。 道修町の石畳は、まだ夜の湿り気を抱きしめていて、薬種問屋の古い軒先には、昨日の雨が小さな珠になって残っていた。淀屋橋から吹いてくる風は、ビルの谷間を抜けるたびに、少しずつ冷たくなり、白衣を鞄に詰めて歩く幹夫の頬を、遠慮がちに撫でていった。 幹夫は三十歳になったばかりだった。 大阪でも指折りの製薬会社、東陽薬品工業の研究所に勤めて七年になる。会社は古く、道修町の薬の町で知らぬ者はいなかった。重厚な本社の玄関には磨かれた真鍮の社章があり、そこをくぐるたび、幹夫は自分の胸の奥に、誇らしさと、息苦しさの両方が灯るのを感じた。 人の病を軽くする薬をつくる。 その言葉は、彼にとって祈りに近かった。けれど祈りは、毎日かならず美しい姿で現れるわけではない。試験管の底に残る沈殿、期待した反応を示さない数値、上司の短い沈黙、予定表に赤く引かれる遅延の線。そうしたものが幹夫の胸に積もり、やがて自分の心まで濁らせてゆく。 その年、幹夫は新しい抗炎症剤の開発班にいた。動物試験の結果は一進一退で、効き目はあるの
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 7分


水質汚濁防止法第六十日目、死体は届出られた
静岡市葵区、七間町の古いビルの三階に、山崎行政書士事務所はあった。 窓からは青葉通りのケヤキが見え、雨の日には駿府城公園の土の匂いが、風向きによっては安倍川の濡れた石の匂いまで届いた。事務所は小さかった。応接机、複合機、法令集、古い電気ポット。壁には山崎航平が開業したときに父から譲られた額がかかっている。 ――紙は、人を救うことも、人を殺すこともある。 父の字だった。 山崎はその言葉を、少し大げさだと思っていた。少なくとも、その日までは。 五月の午後、雨がガラスを叩いていた。 「山崎先生。三時のご依頼者、来られました」 補助者の望月灯が、いつもの穏やかな声で告げた。 灯は三十二歳。黒髪を後ろで束ね、いつも薄いベージュのカーディガンを羽織っている。書類の整理は神業のように正確で、依頼者にはよく笑った。だが、ふとした瞬間だけ、視線が水底に沈むように暗くなることがあった。 「水質汚濁防止法の届出、でしたよね」 「ああ。清水区に新しい洗浄施設を置くとか」 山崎が立ち上がると、応接室の扉が開いた。 入ってきた男は、濡れた黒い傘を畳む仕草まで計算されているよ
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 12分


薬草の声
昭和三十八年の大阪には、朝ごとに少し煤けた光が降りた。 幹夫が勤める浪花本草製薬の本社は、道修町の古い薬種問屋の面影を残す通りに面していた。表には新しいガラス戸が入り、二階の窓には白いブラインドが掛けられていたが、裏庭だけは昔のままだった。井戸の跡があり、苔むした石灯籠があり、誰が植えたのかもわからない南天と薄荷と、隅のほうには小さな薬草園があった。 幹夫は二十歳だった。 白衣はまだ肩に馴染まず、袖口から覗く手首は細かった。研究補助員として採用されて三か月。朝は試験管を洗い、昼は帳面に数字を書き写し、夕方には乾燥棚の生薬を確かめた。会社は日本でも指折りの製薬会社だと先輩たちは誇らしげに言ったが、幹夫にはその大きさがまだよくわからなかった。わかるのは、ガラス瓶の内側に残る微かな匂いと、薬草を指先で摘んだときに伝わる冷たさだけだった。 その日の朝、淀屋橋のほうから吹いてくる風は、雨の匂いを含んでいた。 幹夫は裏庭で、乾燥しきらずに湿り気を帯びた薄荷の葉を一枚、そっと掌にのせた。葉脈は細い川のように走り、その川の奥で、何かが小さく息をしているようだった
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 7分


爆殺時刻表――のぞみ666号、太陽を殺す
※人物・事件・列車番号・時刻表はすべて架空です。 東海道新幹線の朝は、いつも人間より正確だった。 六時ちょうど。東京駅十九番線に白い車体が滑り込み、スーツケースの車輪が床を鳴らし、コーヒーの匂いが改札の冷たい空気に混じる。 その日、最初の死体は、のぞみ666号の十一号車で見つかった。 座席番号は、11号車13番E席。 富士山が見える側の窓際だった。 死んでいた男は、旅行会社社長の黒田修一。五十八歳。胸元には、古びた紙の時刻表が一枚、丁寧に折り畳まれて差し込まれていた。 赤いペンで丸がつけられていた時刻は、八時十九分。 三河安城通過予定時刻。 その紙の端には、子どものような丸い字で、こう書かれていた。 「太陽が一度死んだ時刻を、君たちは覚えているか?」 愛知県警捜査一課の刑事、日高昇は、名古屋駅のホームでその紙を見た瞬間、背筋に氷を流し込まれたような感覚を覚えた。 「ふざけやがって……」 日高は低く唸った。 熱血漢、という言葉は彼のためにあるような男だった。考える前に走る。怒る前に人を助ける。事件現場では誰よりも声が大きく、誰よりも靴底を減らす。.
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 12分


のぞみ0号は、死者の時刻表を走る
※列車名・時刻・運行描写は物語上の架空設定です。 東海道新幹線は、日本の背骨だ。 東京から新大阪へ。 朝の光を切り裂き、ビルの谷間を抜け、海をかすめ、山を越え、街と街を定刻で縫い合わせる。 その背骨に、ある朝、死体が乗った。 午前七時三十二分。名古屋駅に到着した架空の「のぞみ613号」十一号車、窓側E席。 そこに座っていた男は、眠っているように見えた。紺のスーツ。膝の上には駅弁。左手には開きかけの文庫本。だが車内清掃員の女性が声をかけた瞬間、男の首が糸の切れた人形のように傾いた。 死んでいた。 胸元には、折り畳まれた時刻表のコピーが差し込まれていた。 赤いペンで、ひとつの時刻だけが丸で囲まれていた。 七時三十二分。 その下に、細い文字でこう書かれていた。 ――死は定刻。警察は遅延。 * 警視庁捜査一課の鷲尾烈は、その文字を見た瞬間、拳を握り込んだ。 烈という名前にふさわしく、彼はいつも燃えていた。怒りや正義感だけではない。被害者の家族が泣いていると、誰より先に肩を貸す。寒い夜の聞き込みでは、若い部下に自分のコー
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 10分


死体はのぞみより速く走る
※作中の列車番号・時刻はすべて架空です。 東海道新幹線・陽炎時刻表殺人 東京駅十六番線、午前五時二十九分。 始発前のホームには、まだ夜の冷気が残っていた。清掃員のモップの音、売店のシャッターが上がる音、遠くで眠たげに鳴る発車ベル。 その平穏を裂いたのは、ホーム端のベンチに置かれた赤い封筒だった。 封筒には、黒い万年筆でこう書かれていた。 「七時四十八分、京都に死体が着く。ただし、死体はのぞみより速く走る。」 警視庁捜査一課の刑事・大神烈は、その文面を見た瞬間、胸の奥で何かが焦げつくのを感じた。 「ふざけやがって」 烈は封筒を握り潰しかけた。 横で眼鏡の奥の目を細めていた相棒、青葉澄香が、低く言った。 「ふざけているようで、かなり正確です。列車番号も、時刻も、駅も指定されている」 封筒の中には、一枚の時刻表の切り抜きが入っていた。 東京発六時零三分、のぞみ四〇七号。名古屋着七時三十九分。京都着八時十二分。 だが赤いペンで、京都着の欄だけが修正されていた。 七時四十八分。 「ありえないだろ」烈は吐き捨てた。「京都に着くより前に京都へ死体が着くなんて」
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 9分


死者専用のぞみ0号――夜明けに父を殺す時刻表
※作中の列車番号・時刻・運用は物語上の架空設定です。 午前六時ちょうど。東京駅の東海道新幹線ホームに、まだ夜の名残がへばりついていた。 白い車体が、眠りから醒めた獣のようにホームへ滑り込む。発車標には、無機質な光でこう表示されていた。 のぞみ301号 新大阪行 6:00発 警視庁捜査一課の刑事、真壁蓮司は、その表示を見た瞬間、胸の奥に理由のない寒気を覚えた。 ポケットのスマートフォンが震えた。 非通知。 「真壁です」 電話の向こうで、若い男が笑った。 「おはよう、刑事さん。陽はまた昇る。けれど、死者はもう起きない」 「誰だ」 「最初の停車駅は名古屋。八時十二分。時刻表を読めない刑事に、人は救えない」 「ふざけるな。場所を言え!」 男は楽しそうに、息を吐いた。 「僕は今、東海道新幹線に乗っている。だから殺せない。なのに、殺す」 通話は切れた。 その二時間十二分後。 名古屋駅の新幹線改札内、関係者用の小さな応接室で、総合交通システム会社の役員、久坂剛が死んでいるのが見つかった。 机の上には、古い紙の時刻表が一枚。 赤鉛筆で、一本の列車だけが囲まれてい
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 15分


午前六時十三分、太陽は死体を乗せて昇る
※作中の列車番号・時刻・運行設定はすべて架空です。 東海道新幹線の朝は、いつも正確だった。 東京駅十七番線。午前五時五十七分発、下り「こだま601号」。 眠気を残した乗客たちが、白い車体へ吸い込まれていく。通勤客、出張の会社員、修学旅行の引率教師、泣きそうな赤ん坊を抱いた若い母親。日本でいちばん忙しい線路の上を、今日も何百もの人生が時刻表どおりに運ばれる。 十三号車、十三番E席。 そこに座った男は、窓の外に昇りはじめた朝日を眺めていた。 男の名は牧田剛司。大手医療機器メーカーの副社長。五十二歳。 隣の席の少年が、母親に叱られながらリュックを抱え直した。牧田はポケットから飴を一つ取り出し、少年に渡した。 「富士山、見えるかな」 少年はうなずいた。 「見えるよ。E席だもん」 その瞬間、牧田のスマートウォッチが小さく震えた。 画面には、たった一行。 六時十三分。陽は昇る。君は沈む。 牧田の顔から血の気が消えた。 少年が窓の外を見たのは、その直後だった。朝日がビルの隙間を破り、車内に金色の光が流れ込む。 そして、牧田剛司は笑ったまま死んだ。...
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 12分


のぞみは死体を乗せて朝を二度殺す
東海道新幹線・零秒アリバイ連続殺人 ※作中の列車名・時刻・事件はすべて架空です。 午前七時五十三分。 東海道新幹線「こだま731号」が新横浜駅を出た瞬間、十三号車のグリーン車では、ひとりの男が静かに死んでいた。 男の名は鶴見善三。元厚生官僚。胸元には、切符よりも小さな黒いカードが差し込まれていた。 そこには銀色のインクで、こう書かれていた。 一人目。時刻表が殺した。熱血刑事・朝倉烈へ。きみはこの朝に追いつけるか。――MAX 警視庁捜査一課の朝倉烈が東京駅に駆けつけた時、駅構内はいつも通りだった。 売店では弁当が売られ、改札ではサラリーマンが小走りになり、ホームでは子供が先頭車両を指さしてはしゃいでいる。 死体が出た朝でさえ、新幹線は定刻通りに走る。 それが、朝倉には腹立たしかった。 「人が死んでるんだぞ……」 拳を握りしめた朝倉に、相棒の宮永梢が低く告げた。 「犯人から、名指しです」 朝倉の携帯が鳴った。 非通知。 出た瞬間、若い男の声が笑った。 『おはよう、朝倉刑事。きみ、まだ東京?』 「誰だ」 『MAX。IQがMAXのMAXだと思ってくれてい
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 10分


陽はまた昇る。ならば、死ね
――東海道新幹線“零秒”連続殺人 ※作中の列車番号・時刻・駅構内描写は物語用の架空設定です。 清水署の刑事課に、朝日が差し込む時刻がある。 午前五時四十七分。 窓の外、清水港のクレーンが黒い腕を伸ばし、駿河湾の水面にはまだ夜の色が残っていた。だが、遠くの空だけが薄く裂けて、そこから金色の光がこぼれはじめる。 刑事の朝倉烈は、その時間が嫌いだった。 十五年前、妻の美咲が死んだのも、その時間だったからだ。 「朝倉さん。これ、見てください」 若い女刑事、白石美緒が、息を切らせて捜査一課の部屋へ入ってきた。清水署に配属されて二年目。色白で、静かな目をしている。だが時刻表を前にすると別人になる女だった。 彼女の手には、白い封筒があった。 宛名は活字で印刷されていた。 清水署 朝倉烈刑事殿 烈は眉をひそめ、封を切った。 中から出てきたのは、一枚の時刻表だった。 東海道新幹線。 赤いペンで三つの時刻が囲まれている。 六時〇〇分 東京発六時四十一分 富士川通過六時五十七分 静岡着 そして余白に、細い文字でこう書かれていた。 死体は六時のひかりに乗った。でも、殺し
山崎行政書士事務所
5月16日読了時間: 16分


岡崎駅零時三分の死神
――時刻表に殺された街 ※本作はフィクションです。駅名・地名を舞台表現として用いていますが、事件・人物・時刻表・列車運行・警察組織の描写は創作です。 岡崎駅零時三分の死神 岡崎駅の夜は、冷たい。 名古屋へ向かう人々のざわめきが消え、豊橋方面の列車の灯が遠ざかると、ホームには鉄と雨の匂いだけが残る。駅前のロータリーには、タクシーの赤いランプが点々と浮かび、コンビニの白い光が、眠りそこねた街をぼんやり照らしていた。 その夜、岡崎署刑事課の刑事・榊原迅は、駅北口の階段下で立ち尽くしていた。 足元には、血の気を失った男が倒れている。胸元には、折り畳まれた一枚の紙。 それは、古い紙の時刻表だった。 赤ペンで、たった一行だけ丸がつけられていた。 0:03 岡崎発 東へ 榊原は奥歯を噛んだ。 「またか……」 これで三人目だった。 第一の被害者は、岡崎駅西口の駐輪場。第二の被害者は、駅から少し離れた高架下。そして第三の被害者は、北口階段下。 すべて、岡崎駅の周辺。すべて、深夜。すべて、遺体のそばに時刻表。 そして、すべての事件で、最有力容疑者には完璧すぎるアリバ
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5月16日読了時間: 10分


死体は時刻表より正確に笑う
――多摩センター駅・終電前連続殺人―― ※実在の駅名を舞台にしたフィクションです。時刻表・駅構造・事件・人物は物語上の創作です。 多摩センター駅には、三つの時刻がある。 京王の時刻。小田急の時刻。そして、空を走るモノレールの時刻。 刑事の朝日奈烈は、その夜まで、時刻表というものをただの数字の羅列だと思っていた。 何時何分に電車が来る。何時何分に人が乗る。何時何分に街が動き出す。 だが、その夜。 時刻表は、人を殺した。 いや、正確には――人を殺した男が、時刻表の顔をして笑っていた。 最初の死体が見つかったのは、午後八時十二分。 京王多摩センター駅と小田急多摩センター駅を結ぶ通路のベンチに、初老の男が座っていた。眠っているように見えた。膝には古びたポケット時刻表が置かれている。胸元には小さな白い紙。 そこには、赤いペンでこう書かれていた。 20:12君たちの正義は、いつも四分遅れる。IQ = MAX 死んでいた男の名は、石塚裕介。かつて鉄道会社のダイヤ編成に関わっていた人物だった。 朝日奈烈は現場に飛び込むなり、規制線をくぐった。 「ふざけやがって…
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5月15日読了時間: 11分


十三駅、太陽を殺す時刻表
※作中の鉄道ダイヤ・駅構造・事件設定はすべてフィクションです。 最初の死体は、十三駅の時刻表の裏から現れた。 大阪の夜は雨だった。淀川から吹く湿った風が、十三駅前のアーケードを低く鳴らしていた。居酒屋の赤提灯は雨粒でにじみ、終電を急ぐ人々の足音が、線路の上を走る電車の轟音に飲み込まれていく。 午後十時十三分。 駅裏の古い映画館跡で、元駅員の水野周一が死んでいた。 胸には折り畳まれた時刻表。赤ペンで、ただ一つの時刻だけが囲まれていた。 二十二時十三分。十三駅発。 捜査一課の刑事、日向烈は、その赤い丸を見た瞬間、奥歯を噛みしめた。 「ふざけやがって」 彼は熱血という言葉を人間にしたような男だった。短気で、声が大きく、上司には何度も怒鳴られ、犯人には何度も殴られた。だが、被害者の前では必ず黙る。死者に向かって怒鳴ることだけはしなかった。 相棒の白石澪が、遺体のそばに落ちていたスマートフォンを拾った。 「動画があります」 画面の中で、水野は椅子に縛られていた。顔は恐怖で歪み、口元が震えている。背後では、はっきりと十三駅の発車アナウンスが聞こえた。 『二十
山崎行政書士事務所
5月15日読了時間: 11分


新宿三丁目、始発までに死んでくれ
※登場する時刻・駅構内描写・運用は物語上の架空設定です。 新宿三丁目駅は、夜になると巨大な心臓のように脈を打つ。 丸ノ内線の赤い光。副都心線へ沈む長い階段。都営新宿線へ続く冷たい通路。発車ベル、足音、改札機の電子音、広告の明滅。地上では歌舞伎町のネオンが眠らないが、地下では別の都市が息をしている。 その夜、二十三時十七分。 駅員がE出口方面の連絡通路で男を見つけた。スーツ姿の男は壁にもたれかかるように座り、目を開けたまま動かなかった。そばに落ちていたスマートフォンの画面には、停止した動画が映っていた。 《23:17》 その数字の下で、犯人らしき声が笑っていた。 「刑事さん、時刻表は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつも人間だ」 遺体の胸ポケットには、白いカードが差し込まれていた。 M線 二十三時十七分発死は定刻に到着した警察、遅延中 —MAX 警視庁捜査一課の朝倉烈は、現場に着いた瞬間、拳を握りしめた。 「ふざけやがって」 烈は熱血で知られていた。怒鳴る。走る。眠らない。事件の被害者の名前を、必ず手帳の最初のページに書く。相棒の水瀬梢は、その真逆だっ
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5月15日読了時間: 9分

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