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はじめに(当ブログについて)
山崎行政書士事務所は、
事業の「はじめる」「続ける」「育てる」各段階で生じる
法律・手続きに関する課題をサポートする行政書士事務所です。
許認可申請、契約書の作成・チェック、各種相談、
個人情報保護への対応、事業承継、知的財産の登録支援など、
事業者の皆さまが直面しやすい幅広いテーマを取り扱っています。
新規開業や事業拡大の場面で避けて通れない
行政手続きや法規制について、
専門的な知識と実務経験をもとに支援しています。
当ブログの位置づけについて
当ブログでは、
動画や記事を通じて 山崎行政書士事務所の考え方や取り組みを
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また、
理解を深めていただく目的で、
小説・フィクション形式の記事も掲載しています。
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Azure Firewall PremiumのTLS検査・IDPSは誰が運用責任を持つのか
検知しただけで終わらせない、対応者・例外・記録を明確にするセキュリティ運用体制 確認日:2026年7月8日対象読者:情シス担当者、クラウド運用担当者、ネットワーク担当者、SOC/CSIRT担当者、経営層、監査対応担当者対象領域:Azure Firewall Premium、TLS検査、IDPS、Microsoft Sentinel、Azure Monitor、例外管理、セキュリティ運用規程 結論 Azure Firewall PremiumのTLS検査・IDPSは、有効化しただけでは不十分です。本番環境では、誰が検知を見るのか、誰がブロック判断をするのか、誰が例外を承認するのか、誰が記録を残すのかを文書化しなければなりません。 技術責任は主にクラウド基盤・ネットワークチーム、検知・初動責任はSOC/CSIRT、業務影響判断はシステムオーナー、例外承認は情報セキュリティ責任者、最終的なリスク受容は経営層が持つ形が現実的です。 Microsoft公式情報では、Azure Firewall PremiumのTLS検査は送信トラフィックを復号化・検査・再
山崎行政書士事務所
7月8日読了時間: 20分


Key VaultのAzure RBAC既定化から考える秘密情報管理
2026年2月1日API以降、新規Key Vaultのアクセス制御設計を見直す 秘密情報管理ルールを「保存」から「統制」へ 確認日:2026年7月8日対象読者:情シス担当者、Azure管理者、クラウド設計担当者、セキュリティ担当者、監査対応担当者対象領域:Azure Key Vault、Azure RBAC、アクセス制御、Secrets管理、ゼロトラスト、クラウドガバナンス 結論 Azure Key Vaultのアクセス制御設計は、単に「Secretを保存する場所を決める」だけでは不十分です。 今後の新規Key Vault設計では、Azure RBACを前提とした権限管理、最小権限設計、Managed Identity活用、アクセスレビュー、証跡管理を標準化する必要があります。 Microsoftは、Key Vaultのアクセス制御方式として、 Azure RBAC(推奨) Key Vaultアクセスポリシー の2方式を提供しています。 2026年2月1日以降のAPIバージョンでは、新規Key Vault作成時の既定のアクセス制御方式がAzure
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7月8日読了時間: 8分


Key VaultのSoft Delete・Purge Protection・ローテーションを標準化する
秘密情報の削除・漏えい・期限切れを防ぐ鍵・証明書・シークレット運用規程 確認日:2026年7月8日対象読者:情シス担当者、Azure運用担当者、セキュリティ担当者、監査対応担当者、経営層対象領域:Azure Key Vault、Secrets管理、証明書管理、暗号鍵管理、ゼロトラスト、クラウドガバナンス 結論 Azure Key Vaultは、単にパスワードや証明書を保存する「安全な箱」ではありません。 本番環境では、以下を標準化しなければ、重大事故につながる可能性があります。 Soft Deleteによる誤削除対策 Purge Protectionによる完全削除防止 シークレット・証明書・鍵のローテーション管理 RBACによるアクセス制御 有効期限管理 利用状況監査 例外管理 重要なのは、 「秘密情報を保存している」 ではなく、 「秘密情報を誰が、いつ、どの目的で利用し、期限切れや漏えい時にどう対応するか説明できる」 状態を作ることです。 理由 クラウド環境では、秘密情報がシステム停止や情報漏えいの直接原因になります。 例えば、以下のような事故
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7月8日読了時間: 7分


Blob Immutable Storage/WORMで監査証跡を守る
ログ・証跡の改ざん・削除リスクに備える証跡保存ポリシー設計 確認日:2026年7月8日対象読者:情シス担当者、クラウド運用担当者、セキュリティ担当者、監査対応担当者、経営層対象領域:Azure Blob Storage、Immutable Storage、WORM、監査ログ、証跡管理、コンプライアンス 結論 クラウド環境における監査証跡は、「保存している」だけでは十分ではありません。 重要なのは、管理者権限を持つ利用者であっても、一定期間は変更・削除できない状態で証跡を保護することです。 Azure Blob StorageのImmutable Storage(不変ストレージ)を利用することで、監査ログ、操作履歴、バックアップ、セキュリティイベントなどの重要データを、WORM(Write Once, Read Many:一度書き込んだデータを変更不可にする仕組み)として保存できます。 これにより、 「誰がログを消したのか」 「事故発生前後の証跡は残っているのか」 「管理者でも削除できない仕組みになっているか」 「監査期間中、証跡の完全性を保証でき
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7月8日読了時間: 7分


AKS AutomaticとAKS Standard、情シスはどちらを選ぶべきか
自動化による安全性と、個別制御の自由度のトレードオフを整理する 確認日:2026年7月8日対象読者:情シス担当者、クラウド運用担当者、Azure担当者、経営層、監査対応担当者対象領域:Azure Kubernetes Service、AKS Automatic、AKS Standard、運用責任、変更管理、監査証跡、クラウドガバナンス 結論 情シスが新規にAKSを選定する場合、一般的な本番ワークロードはAKS Automaticを第一候補にすべきです。一方で、ネットワーク、ノードプール、Windowsノード、アップグレード周期、既存の自動化、規制対応のための詳細な統制を明示的に制御したい場合はAKS Standardを選ぶべきです。 理由は、AKS Automaticはノード管理、スケーリング、セキュリティ、監視、アップグレードなどをAzure側が事前構成・自動化するため、情シスの運用負荷と設定漏れリスクを下げやすいからです。Microsoft公式でも、AKS Automaticは多くのチームとワークロードに推奨され、AKS Standardはク
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7月8日読了時間: 20分


Container Appsのリビジョン管理で無停止変更を説明する
本番変更時の影響範囲・切戻し・承認を「説明できる」リリース管理へ 確認日:2026年7月8日対象読者:情シス担当者、クラウド運用担当者、経営層、監査対応担当者対象領域:Azure Container Apps、リビジョン管理、本番変更管理、リリース手順、承認証跡 結論 Azure Container Appsを本番運用する場合、重要なのは「コンテナーを更新できること」ではありません。重要なのは、本番変更時に、どのリビジョンへ、どの割合で、いつ、誰の承認で、どのように切り替え、問題時にどう戻すかを説明できることです。 Azure Container Appsには、リビジョン、トラフィック分割、リビジョンラベル、ブルーグリーンデプロイといった仕組みがあります。これらを変更管理規程・リリース手順・承認証跡と結び付けることで、情シスと経営層が「無停止変更」を説明しやすくなります。 ただし、ここでいう「無停止」は、Azure Container Appsのリビジョン切替の仕組み上、既存リビジョンを維持しながら新リビジョンを準備・切替できるという意味です。ア
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7月8日読了時間: 20分


Azure Update ManagerでAzure/Arcのパッチ管理を一元化する
結論。Azure VM、オンプレミスサーバー、他クラウド上のサーバーを含めてパッチ管理を説明できる状態にするなら、Azure Update Managerは単なる「更新ツール」ではなく、パッチ管理台帳・例外管理・監査証跡の基盤として設計すべきです。 理由は、パッチ適用状況を説明できない状態だと、監査対応、脆弱性対応、インシデント発生時の初動で必ず詰まるからです。「どのサーバーに、いつ、どの更新が入り、何が未適用で、なぜ例外なのか」ここを説明できなければ、情シス担当者も経営層も、リスクを正しく判断できません。 数字で見ると、最低限管理すべき項目は10個です。 対象サーバー Azure VM/Azure Arc対応サーバーの区分 OS種別 システムオーナー 重要度 メンテナンスウィンドウ 最終評価日時 未適用パッチ 最終適用結果 例外理由・期限・承認者 Microsoft公式情報では、Azure Update Managerは、Azure、オンプレミス、その他クラウド環境にあるAzure Arc接続済みマシンを含め、WindowsおよびLinux更新
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7月8日読了時間: 8分


Bicep What-ifとDeployment Stacksで“消える変更”を防ぐ
IaCの変更前レビューと承認証跡を標準化する 確認日:2026年7月8日前提:個別テナントの実設定、既存パイプライン、RBAC設計、運用規程は確認できません。以下はMicrosoft公式情報に基づく標準設計案です。 結論 BicepによるAzure IaC運用では、「What-ifで変更前に差分を見る」だけでは不十分です。本番運用では、Bicep What-if、Deployment Stacks、Azure DevOps承認、Activity Log、デプロイ履歴を組み合わせて、変更前レビューと承認証跡を標準化すべきです。 理由は、IaCは便利である一方、テンプレート変更、パラメーター誤り、Complete mode、Deployment Stacksのaction-on-unmanage設定、手動変更との差分によって、意図しない変更・削除・説明不能な状態が起きるためです。 数字で見ると、最低限押さえるべき管理点は7つです。1. What-if結果、2. Delete/Modify判定、3. action-on-unmanage、4. deny
山崎行政書士事務所
7月8日読了時間: 9分
認証の穴、AIエージェント、Intune承認統制――クラウド法務・セキュリティガバナンス週次ブリーフ
対象:日本組織の Azure / Entra ID / Microsoft 365 / Intune / Copilot・AI / 個人情報・公共系クラウド確認日:2026年7月6日 結論 今週、情シス担当者・情報セキュリティ責任者・経営層が優先して確認すべき領域は、次の4つです。 第一に、Entra ID / Microsoft 365 の認証経路です。MFAを導入していても、ROPC、Azure CLI、例外IP、レポート専用の条件付きアクセスが残っていると、攻撃者に抜け道として使われる可能性があります。Huntressは、2026年6月12日から26日にかけて、Microsoft Azure CLIを狙った大規模なパスワードスプレーを観測し、8,100万回超のログイン試行と少なくとも78件のMicrosoftアカウント侵害を報告しています。 第二に、AIエージェントの統制です。Microsoft Agent 365は、2026年5月1日時点でCommercial向けに一般提供されています。Microsoft 365 E7も、Microsof
山崎行政書士事務所
7月6日読了時間: 13分
MUF調整済みeTBR、kg‑T‑year会計、廃棄物担保型燃料ローンによる核融合移行の制度設計
確認日:2026年6月22日 0. 結論 私は、融合・分裂ハイブリッド炉、すなわち二重炉の最もニッチで、かつ最も経済価値が大きい役割は、単なる「トリチウム生産炉」ではなく、トリチウムを監査可能な金融・物流・保障措置資産に変換する“台帳インフラ”になることだと考えています。理由は、核融合の商用化で不足するのは、単に「生成されたトリチウム」ではなく、起動時に貸し出せる、純度・所在・容器・減衰・計量誤差・返済義務まで証明されたトリチウムだからです。DOEの2025年Fusion S&T Roadmapは、燃料サイクル、ブランケット、プラント統合を商用核融合の中核課題として扱っています。F4E/EUROfusionの2025年燃料サイクル技術マッピングも、トリチウム施設へのアクセス、トリチウム透過、トリチウム・アカウンタンシー、100g超級試験施設、標準・規制整備をロードマップ項目として挙げています。これは、核融合のボトルネックが「炉内で作れるか」から「計量し、保管し、契約可能にできるか」へ移っていることを示しています。 数字で言えば、トリチウムの半減期
山崎行政書士事務所
6月22日読了時間: 18分


「トリチウム・ハブ」としての融合・分裂ハイブリッド炉
燃料・廃棄物統合管理による2050年核融合移行の加速 The Fusion–Fission Hybrid as a Tritium Hub: Accelerating the Global Fusion Transition through Integrated Fuel and Waste Management「トリチウム・ハブ」としての融合・分裂ハイブリッド炉:燃料・廃棄物統合管理による世界の核融合移行の加速 要旨 私は、2050年の核融合実用化を制約する最重要資源は、炉型そのものでも、発電単価でも、単純なリチウム資源量でもなく、起動可能・計量可能・貯蔵可能・契約可能なトリチウム在庫であると考える。D-T核融合炉は、運転中にはリチウムブランケットでトリチウムを自己増殖することを目指す。しかし、自己増殖は「炉が既に運転している」ことを前提とする。初号機、二号機、商用群炉を起動するためには、外部からの初期トリチウム在庫、燃料サイクル内の滞留在庫、再起動用予備在庫、計量誤差を吸収する安全在庫が必要である。既存の重水炉由来トリチウム供給は限定的であり
山崎行政書士事務所
6月22日読了時間: 25分


Azureは「動いている」だけでは足りない
情シスが押さえるべきクラウド法務・監査・Azure技術支援の実務ポイント 企業のクラウド利用は、もはや単なるインフラ選定ではありません。Azure、Microsoft 365、Microsoft Entra ID を使う企業では、ネットワーク、ID、ログ、バックアップ、委託先管理、越境データ、監査対応がすべてつながっています。 システムとしては正常に動いている。しかし、監査や取引先説明の場面で、次の質問に答えられるでしょうか。 「誰が管理者権限を持っているのか」「委託先が操作した証跡はどこに残るのか」「障害・侵害時に、誰が何を説明するのか」「海外拠点や外部サービスにデータが流れる場合、契約・規程・構成図は一致しているのか」 Microsoft も、クラウド利用ではクラウド事業者と利用企業の責任を理解することが重要であり、責任範囲は SaaS、PaaS、IaaS など利用形態によって異なると説明しています。つまり、Azureを使っているから自動的に安全・適法・監査対応済みになるのではなく、利用企業側の設計・運用・説明責任が残ります。 Azure設計
山崎行政書士事務所
6月14日読了時間: 8分


君を守るために、時刻表を殺した
※作中の列車番号・時刻は架空です。 一 十八番線の死者 東京駅十八番線のホームには、夜が降りても昼の白さが残っていた。 蛍光灯に磨かれた床、ホームドアの銀色、車体の腹を滑る青い帯。東海道新幹線は、どこまでも清潔だった。人間の汗も、怒りも、秘密も、発車ベルが鳴ればすべて置き去りにされるように見えた。 警視庁捜査一課の佐伯遼は、その清潔さが昔から嫌いだった。 列車は時刻通りに来る。時刻通りに開く。時刻通りに人を運ぶ。けれど人間の心だけは、どうやっても時刻表に載らない。 最初の遺体は、名古屋駅に到着した「こだま七二一号」の多目的室で見つかった。 被害者は葉山宗一郎、六十三歳。都内の小さな福祉法人の理事長で、京都の児童養護施設で長く施設長を務めていた男だった。胸に細い注射痕がひとつ。抵抗の痕はない。苦しんだ顔でもなかった。眠りの底で、突然呼吸を奪われたような死に顔だった。 遺体の胸ポケットには、折り畳まれた一枚の紙片が差し込まれていた。 東海道新幹線の時刻表の切り抜き。 東京発、品川発、新横浜発、小田原、熱海、三島、静岡、浜松、名古屋、京都、新大阪。..
山崎行政書士事務所
5月17日読了時間: 20分


終電のない新幹線
東海道新幹線の東京駅二十三番線から、その夜最後の「のぞみ」が出ていった。 赤い尾灯が闇に吸い込まれると、ホームは一瞬で巨大な抜け殻になった。さっきまで人の声、キャスターの音、駅弁の袋の擦れる音で満たされていた空間から、熱だけが残っている。発車標の文字は黒く沈み、広告の光は半分だけ落とされ、天井の蛍光灯は水槽の底のような薄い青を床へ落としていた。 終電後の駅には、独特の時間がある。 一日は暦の上では零時に終わる。だが駅の夜は、終電が出たあとも終わらない。シャッターが降り、清掃員が黙々とモップを滑らせ、駅員が巡回簿に時刻を書き込む。始発前のホームに朝刊の束が運ばれ、白い手袋の指が点呼表をめくる。そのころ人間の頭は、昨日と今日と明日の境目を見失う。 刑事の三枝透は、その境目に立っていた。 彼は三晩眠っていなかった。瞼の裏には、発車標の赤い数字が焼きついている。二十三時五十九分。零時〇分。零時一分。数字は鋭いはずなのに、疲労の中では水のように滲み、意味を失っていく。 最初の遺体は名古屋駅で見つかった。 午前零時五十四分。東海道新幹線の下りホーム、十六号車
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5月17日読了時間: 9分


乗客全員が同じ夢を見た
一 雨の七号車 東海道新幹線は、雨の日ほど静かに見える。 窓の外では、街の灯りが水に溶け、線路脇の看板も、工場の煙突も、遠いマンションの窓明かりも、すべてが一本の長い絵の具になって流れていく。時速二百八十キロで走る車内には、しかし奇妙なほど日常がある。コンビニの袋を膝に置いた会社員。眠る赤ん坊を抱いた母親。ノートパソコンの光に顔を照らされる男。車内販売で買ったコーヒーの紙カップを両手で包む老女。 その夜、のぞみ三〇八号、七号車もそうだった。 東京行き。新大阪を出たときから雨は強く、京都を過ぎるころには窓が黒い鏡になっていた。車内の天井灯がそこへ映り、乗客たちの顔が、現実より少し白く、少し疲れて見えた。 七号車十一番E席に座っていた倉田俊明は、名古屋を過ぎてから急に咳き込みはじめた。 最初は、誰もそれを事件だと思わなかった。喉に何かが引っかかったのだろう。風邪かもしれない。水を飲めば治まる。乗客たちは、それぞれの小さな世界から顔を上げ、そしてまた戻ろうとした。 だが倉田の咳は、すぐに音を変えた。 乾いた咳ではない。喉の奥で何かが泡立つような、聞いて
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5月17日読了時間: 20分


殺された者たちの共犯
一 白い栞 三島駅の雨は、列車が入るたびに細かな銀の糸となって舞い上がった。 東海道新幹線の上りホーム。午前九時十八分。こだま七二一号が、灰色の空を切り裂くようにして停まった。 その日、荒木修一は本来そこにいるはずのない男だった。 彼の鞄には、大阪で開かれる医療福祉セミナーの資料が入っていた。乗る予定だったのは東京発八時三分の「のぞみ」。新大阪まで、乗り換えのない最短の列車だった。だが彼は品川で突然予定を変え、遅い「こだま」に乗った。しかも目的地のはずの名古屋にも京都にも向かわず、三島で降りた。 監視カメラの映像には、荒木が改札内の売店で紙コップの珈琲を二つ買う姿が映っていた。片方は自分のもの。もう片方は、誰かに渡すためのもの。 しかし、相手は現れなかった。 九時三十一分。清掃員が待合室の端で荒木を見つけた。背広の襟は濡れておらず、争った形跡もなかった。彼は眠るようにベンチに寄りかかり、右手に白い紙片を握っていた。 それは、古い乗車券の裏を細く切ったものだった。栞のような形に折られている。 そこには青いインクで、たった一行だけ書かれていた。 ——
山崎行政書士事務所
5月17日読了時間: 19分


速報より早い殺人
プロローグ 八時四十六分の死体 東京駅十九番線の朝は、いつも水槽の底に似ていた。 白い光をまとった新幹線が、静かに口を開けて人々をのみ込んでいく。スーツの袖、紙コップの湯気、キャリーケースの車輪音、発車ベルの短い旋律。すべてが整然としていて、だからこそ、そこに紛れ込んだひとつの悪意もまた、整然として見えた。 刑事の瀬尾透がその知らせを受けたのは、午前八時五十四分だった。 「東海道新幹線の車内で男性が死亡。場所は十一号車、グリーン車。列車は名古屋を出たところです」 携帯の向こうで、若い捜査員の声が硬く震えていた。 「死亡者は宮永晃。テレビ報道局の元デスクです。現在はニュース解説者として——」 「知っている」 瀬尾は短く答えた。 宮永晃。 名前を聞いただけで、画面の中の顔が浮かぶ。眉間に皺を寄せ、世の中の怒りを代弁するように言葉を尖らせる男。かつて、誰かの人生が燃え上がるたび、その炎の横に立っていた男。 瀬尾はホームの端へ歩いた。視界の向こうで、別の列車が銀色の腹を揺らしながら入線してくる。 「発見は?」 「八時五十二分です。乗務員が異変に気づいて」
山崎行政書士事務所
5月17日読了時間: 19分


犯人は、そこにいなかった
――東海道新幹線連続殺人サスペンス 序章 定刻 雨が、東京駅の屋根を叩いていた。 五月の夜の雨は、どこか鉄の匂いがする。濡れたレール、油のにじんだ枕木、ホームの黄色い点字ブロック。白い光に洗われた東海道新幹線は、獣のように静かだった。鼻先に水滴をまとい、長い車体を闇の奥へ伸ばしている。 発車標の赤い文字が、何度も同じ時刻を瞬かせた。 二十一時〇二分。名古屋。二十一時三十五分。京都。二十一時四十七分。新大阪。 男は、その数字を美しいと思った。 世界には曖昧なものが多すぎる。人の記憶。人の涙。人の謝罪。人の罪。 だが時刻は違う。十一時四十一分は、十一時四十一分でしかない。十二時四十七分は、十二時四十七分でしかない。 定刻というものだけが、この世界に残された最後の誠実さだった。 男はホームの端に立ち、自分の手の中のスマートフォンを見下ろした。それは、彼のものではなかった。 画面には、送信済みの短い文章が残っている。 有沢と会う。逃げない。 男は唇の端だけをわずかに上げた。 愚かな文章だ、と彼は思った。だが、愚かでなければならない。警察が気づくほどには不
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5月17日読了時間: 26分


死者は時刻を間違えない
序章 十四時十七分 東京駅の八重洲口には、雨が降るたび、金属の匂いが濃くなる。 ホームの屋根を叩く雨音は、遠い拍手のように連なり、発車ベルの電子音と混ざって、そこにいる誰の心にも届かないまま消えていく。人々は傘のしずくを払い、スマートフォンの画面に顔を寄せ、列車の名前と号車を確かめる。新幹線の駅では、時間は人間よりも正確で、人間のほうがむしろ時刻に追いつこうとして息を切らしている。 その朝、警視庁捜査一課の刑事、真壁透が東京駅へ呼ばれたのは、午前六時四十二分だった。 現場は東海道新幹線改札内、閉鎖中の清掃用通路だった。蛍光灯の白い光が壁に反射し、濡れた床を冷たく光らせていた。非常扉のそばに、男が仰向けに倒れている。 黒田修一、五十八歳。 かつて鉄道関連会社で安全管理部長を務めた男だった。今は退職し、講演や顧問業で食べていたという。スーツは高級なものだったが、胸のあたりだけが醜く崩れていた。刃物で一突き。迷いのない傷だった。 鑑識が床に膝をつき、ライトを低く当てていた。 「真壁さん。これです」 差し出された透明袋の中に、小さな紙片が入っていた。駅構
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5月17日読了時間: 23分


時刻表は、あの日で止まっていた
※作中の列車番号・時刻・事件はすべて架空のものです。 一 七時四十二分 東京駅の朝は、人間ではなく時刻でできている。 七時三十六分、十四番線に「のぞみ」が入る。七時三十八分、清掃員が列車へ吸い込まれる。七時四十分、出張鞄を抱えた男たちが列をほどき、七時四十一分、ホームの電光掲示板が次の列車名へ切り替わる。 七時四十二分。 その数字を、佐伯怜司は最初、死体のそばで見た。 被害者は篠塚和彦、六十八歳。元神奈川県警刑事部長。退職後は鉄道関連会社の顧問をしていた。死体は東海道新幹線「のぞみ二〇三号」のグリーン車、十二号車の座席で発見された。眠っているように見えた、と車掌は言った。だが篠塚の右手は不自然に固く握られ、指の間には古い紙片が挟まっていた。 紙片は黄ばんでいた。薄く、乾いていて、指で折れば粉になりそうだった。 そこに印刷されていたのは、古い時刻表の一部だった。 こだま三一七号東京 七時四十二分新横浜 八時〇〇分小田原 八時十七分 若い捜査員の一人が首をかしげた。 「現在の東海道新幹線に、こんな列車はありません」 別の刑事が言った。...
山崎行政書士事務所
5月17日読了時間: 13分

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